今、上越市内でRSウィルスが大流行しています。
RSウィルスを調べると開業医は損になるため、調べていない医師が少なくありません。当院は、患者さんの病態を明らかにするために、それでも積極的に調べています。
RSウィルスで入院すると、感染力が強いために、病室が他の感染症や他の疾患のお子さんと一緒になることはまずありません。本当に容易に他の疾患のお子さんに移ってしまうからです。大きければあまり問題になりませんが、乳幼児は院内感染し、入院中にRSウィルスに罹患し、病状が悪化することさえあるからです。
混雑している小児科外来では、待合室でもらってしまうこともある訳です。熱や咳が出るのはインフルエンザばかりではありません。RSウィルスは軽ければ、“鼻風邪”ですから、すべてを見極めることはできません。しかし、熱や咳がひどいケースは他の患者さんのためにも調べる必要はあると思います。
あまり脅かすつもりはありませんが、乳児がRSウィルスに感染すると気管支に痰が詰まって呼吸不全を起こします。自分で呼吸ができなくなり、人工呼吸器に頼らなければならないこともあるし、最悪、死に至ります。それでけでなく、赤ちゃんの柔らかい気管支に傷がつくと、その後もゼーゼーいいやすくなります。感冒時に悪化し、ひどい咳や呼吸困難で何年も苦しめられることも少なくありません。死亡する可能性も秘め、こんなに長年尾を引く感染症は他にはないと思います。
ですから、親御さんにはもっとこのウィルスについて知って頂きたいと思っています。
私の場合、死亡例も人工呼吸器装着例も幸いにして経験がありません。ただ、人工呼吸器の一歩手前のケースを経験し、RSウィルスの怖さを思い知らされました。
もう10年以上前のことです。県内の病院に勤務していた頃のこと、生後6ヶ月前後だったでしょうか、まるまる太った赤ちゃんがゼコゼコいって入院になりました。原因はRSウィルスでした。ただでさえ細い気管支に、痰が多量に絡んで呼吸困難の状態でした。
RSウィルスには、インフルエンザのタミフルのような特効薬は存在しません。対症療法といって、酸素不足には「酸素テント」といって小さなビニールハウスをベット内に設置して、その中の酸素を濃くすれば、酸素不足を解消することができるはずです。栄養不足や脱水を補正するために点滴も必要になります。狭くなった気管支を少しでも広げようと吸入をしたり、痰切りの飲み薬を使うくらいの対応になると思います。ぜんそくの発作の時はステロイド薬の注射も併用しますが、RSウィルスの時はあまり効果的でないケースが多いようです。
そのお子さんは本当に重症でした。通常なら、数日で峠を越え回復していくのですが、一生懸命治療しているにもかかわらず、かえって悪化していくのです。最初はひどい咳や、狭い酸素テントに入れられて、大声で泣いていたのですが、徐々に体力を奪われ、相当弱っていたのでしょう。まさに蚊の鳴くような声で泣き、飲めていたミルクもあまり飲めなくなりました。かろうじて必要最低限の酸素は保てていましたが、息が止まってしまうのか気が気ではありませんでした。
これまでの経験で、最も重いRSウィルスの患者さんでした。当時、私は病院の近くに住んでいましたが、急変時に呼ばれても、駆けつけるのに多少の時間がかかってしまうので、病院の駐車場に車を置いて、その中に泊まり込んだこともありました。
患者さんが一番頑張ってくれたのですが、その後ジワジワと持ち直し、時間はかかりましたが、最終的には元気に退院となりました。本当に肝を冷やしました。
私以上に重症なRSウィルスの患者さんを診た経験のある小児科医もいるでしょうが、「RSウィルスは怖い」と私の頭の中に刷り込まれました。その後、ぜんそくの専門医の道を進むのですが、やはり反復性にゼーゼーを繰り返したり、ぜんそく児がかかると重症化してしまうというRSウィルスの嫌らしさを更に目の当たりにします。
冒頭に述べましたが、上越では新型インフルエンザに勝るとも劣らない勢いで広がっており、RSウィルスの患者さんが大勢受診されています。新型インフルエンザよりも患者さんが多いくらいです。調べて「RSウィルスが出ました」と言っても、ほとんどの親御さんが「RS???」という反応です。他の地域で勤務医として診療していた時よりも、上越は知らない患者さんが多い印象です。
咳による飛沫感染よりも接触感染の影響が大きいとされ、手洗いの重要性が指摘されています。先日、ネットニュースで、今年は新型インフルエンザの流行でマスクや手洗いが徹底されていたせいか、冬場に流行る感染症が例年よりも明らかに少ないというデータが出ているそうです。それにもかかわらず、上越でRSウィルスが大流行していると言うのは、それだけ感染力が強いからではないかと考えています。
まず敵を知ることから始めないといけないと思います。小児科医のプライドに掛けて、少なくとも典型例は損になってもRSウィルスを調べて頂きたいと思っています。アレルギー専門医は特に気をつけなければなりませんが、乳幼児が呼吸困難を起こし、入院する可能性がとても高いので、アレルギー専門でなくても注意を払う必要があります。そうしなければ親御さんにRSウィルスに関して注意喚起することにはつながらないと思うのです。
ぜんそくやアトピー、食物アレルギーについて正しい知識を持って頂くのがアレルギー専門医の役目だと思っていますが、RSウィルスについても知名度を上げ、怖さを知って頂く努力もしなければならないと思っています。


