小児科の開業医として診療していると、子どもの死に直面することはまずありません。
しかし、危なかったと思われるケースは経験します。それはアレルギーの分野においてです。ぜんそくでも、重い発作により呼吸不全で死亡することもありますが、最近では喘息の治療マニュアルともいえるガイドラインの普及で、死亡例は極めて少なくなっています。今回取り上げるのは、アナフィラキシーショックについてです。
当院では、重症な食物アレルギーのお子さんを診ていますが、中には食物を摂取することでショック症状を呈する方もいます。卵や甲殻類などを食べて間もなくグッタリして、呼びかけに対して反応が弱くなったというケースも経験しています。これは食物アレルギーの最重症型になります。
以前も取り上げたことがあるのですが、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という病態があります。読んで字のごとく、食べ物を食べて、運動するとアナフィラキシーを起こすという病気です。食べても運動しなければ、また食べずに運動しても何も起きません。“食べて”、“運動する”ことで強いアレルギー症状が引き起こされます。
先日、受診されたお子さんもこれでした。給食を食べて、昼休みに激しく運動したら、その後に顔が腫れ上がったそうです。その時は急いで学校医のもとを受診し、点滴治療を受けたそうです。またしばらくして、同様のエピソードがありました。
3回目になるのですが、やはり給食後に昼休みにきつめの運動をしたら、今度はショック状態を呈しました。学校医に担ぎ込まれ、処置をしてもらったそうですが、この時の血圧は明らかに低かったそうです。呼びかけに返答もなく、意識消失していました。当然、その辺りの状況の記憶はないそうです。かなり危険な状態でした。
学校医の先生は、アレルギーがご専門ではないのですが、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」のことはご存知だったようで、原因食物を小麦を考え、小麦を除去するよう指導されていたそうです。
4回目の症状は比較的軽く、初回や2回目くらいの症状だったようですが、小麦を除去していたにもかかわらず、症状が出てしまったのでアレルギー科へ行くよう指導があったそうです。
当院は、地元でもまだまだ知名度が低いようで、まっすぐ当院へは来て頂けませんでした。こういうケースは、内科の先生で対応できる医師はほとんどいないと思います。大人の食物アレルギーは多くないので、専門的にやっている内科医が非常に少ないからです。となると小児科の食物アレルギーの専門医に紹介されるべきでしょう。医療関係者の間でも私のやっていることが浸透していないのでしょう。残念なことです。知り合いの内科の先生経由で、当院を受診して下さいました。
欲を言えば、ショック状態になった時にアレルギー専門医に紹介して欲しかったと思います。様子をみているうちに、強い症状を2度3度と繰り返すことも少なくないからです。すぐに医療機関を受診できない状況であれば、3回目のエピソードの時に命を落としていたかもしれません。実際に、食物依存性運動誘発アナフィラキシーでの死亡例は報告されています。
アナフィラキシーショックになったら、いち早く治療しなければならないと言われています。死亡例を検討してみると治療開始までに30分以上経過していたという報告があるのです。この患者さんの場合も、ショック改善薬である「エピペン」が処方されるべきだと思います。これはショックの際に、自己注射して血圧を改善させる作用があります。
このエピペンは、使用法を教えてくれる講習会に参加しなければ、医師であっても処方できない決まりになっています。上越で子どもに処方できるのは相当限られます。エピペンを処方できなければ、いざと言う時の対応ができないことになります。患者さんがアナフィラキシーショックを起こしたら、それを診た医師は速やかにエピペンを処方できる医師に紹介すべきでしょう。それが子どもの命を守ることにつながると思うのです。
親御さんには、学校の養護教諭の先生にも時間を作って当院に来てもらうようお話ししました。もし学校でまたショック状態になった時に、どんな対応を速やかに取るべきかを理解しておいて頂かないといけません。本人が意識がなければ何もできないので、エピペンの使い方も念のため理解しておいて頂かなければとも思っています。普通はあまりここまでやらないでしょうが、こういう作業は必要不可欠だと考えています。
アレルギーは今回お話ししたような重篤な症状を起こし得ます。その代表の食物依存性運動誘発アナフィラキシーはエピペンを処方できる、食物アレルギーの専門医に診てもらうべきでしょう。そして、本人とご家族、学校側と病気について情報を共有し、速やかに対応できる準備をしておかなければなりません。
もし、食後に運動して広範囲の蕁麻疹がみられたり、ゼーゼー言って苦しくなったり、意識が遠のいたりすることがあれば、エピペンを携帯する必要がありそうです。私の過去の経験からすると、こんな状態に至ってもほとんどのケースでエピペンが処方されていないのです。患者さんにはそういう対処法があることを是非知って頂きたいのです。命を守るためにも、速やかに専門医にかかって頂きたいと思います。


