あれだけ騒がれた新型インフルエンザも、県内各地で終息しかかっているようです。
それにしても昨年の春から騒動が始まり、日本国民を恐怖に陥れたウィルスでした。ただ何人も診ていると、個人的には例年の季節性インフルエンザに比べ、重症感は少ないし、タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ薬が極めてよく効くので、「そんなに恐くないのかな」と思っていました。
県内でも新型が流行だし、同業者の間で一部酸素の取り込みが落ち、重症化するケースがあることが着目されていました。新型インフルエンザにかかると、ぜんそくがないにもかかわらず、アレルギー検査が陽性で、軽い喘鳴を伴い、酸素不足となって入院せざるを得ないお子さんがいるのだそうです。
私の見解は、小さい頃にぜんそく症状があったのを気づかれずに、インフルエンザに罹患し、ぜんそくが再悪化したものだろうと思っていました。実際、ぜんそく治療を日頃からしっかりしているお子さんは、こういう呼吸不全を起こすケースは少ないのだそうです。
当院は、最近は食物アレルギーについてこの場で集中的に書いていますが、ぜんそくも専門的に治療、管理しているつもりです。当院で治療しているお子さんでは、話に聞くような重症化するケースは経験はなく、キチンと治療することが有効なんだなと思っていました。
ところが、12月上旬に福岡で小児アレルギー学会があった際に、当初のスケジュールにはなかったのですが、ぜんそく患者さんで入院するケースが相次いだため、それをまとめて報告する緊急会合が行われました。つまり、アレルギーの専門医がキチンと治療していても、呼吸不全で入院するケースが少なくなかったということなのです。当時は上越でも新型インフルエンザが急速に拡大している最中だったため、この会合に参加しながら、私の中に緊張感が走っていました。
幸いというか、そういうケースにはつい最近まで遭遇しませんでした。「つい最近まで」ということは、そうです、経験してしまったのです。
私がぜんそくで診ているお子さんが、診察時に赤い顔をして辛そうにしていました。周囲は学級閉鎖になるくらい新型が流行っているそうです。検査をすると、インフルエンザAがハッキリ陽性でした。
「タミフルを処方すれば、すぐに良くなる」と思いながら診察していると、軽く喘鳴が聞こえます。軽く発作を起こす子も中にはいますが、解熱すればじきに発作も消失します。でも、ちょっと変です。呼吸が深く、息苦しそうなのです。酸素濃度を測ってみると、通常なら98~99%あるはずが、92%しかありませんでした。予想以上に低い値です。一般的には95%を下回ると酸素投与が勧められているくらいですから、一大事です。
ぜんそく発作用の吸入をして軽快すれば、入院は免れるはずでしたが、一向に改善しません。ぜんそく発作なら、ぜんそく治療としての吸入をすれば効果がないのはおかしいですよね?。一見するとさほど重症感もなく、連れてきた親御さんも「インフルエンザをもらっちゃったのね。しょうがないな。」とお考えのようでした。私の頭では「入院が必要だろうな」と感じていましたが、親御さんは納得しないだろうと思っていました。
そこで、点滴治療を試みることにしました。低酸素なので、酸素マクスもしたままです。当院ではぜんそく発作に対する点滴は2年ぶりです。
新型インフルエンザにかかわらず、発作を起こした場合、吸入や点滴などの外来治療を2時間程度やってもやっても改善がなければ、入院治療が必要と言われています。上越は我流の医療も存在していて、何日も午前、午後と点滴に通わせる医療がなされているケースがありますが、私はこういう「ガイドライン」にない治療はなくさなければならないと思っています。
結局、改善もなく、酸素は89%にまで落ちています。入院加療が間違いなく必要であることを説明しました。親御さんは外来治療を望んでおられましたが、お子さんが入院すると家庭内が大変になるのは百も承知です。
私は、研修先で最重症のぜんそく患者さんを多く経験させて頂きましたので、外来で治療できるか、入院が必要かの見極めはできるつもりです。外来で引っ張ることは、苦しがっているお子さんに「頑張れ、頑張れ」と言っているようなものであり、逆の立場なら「頼むから入院させてくれ」となるはずです。
当院からは、約2年ぶりの発作入院になりました。すべて外来治療で済むなら、小児科の入院施設はいらなくなってしまいます。お子さんにとってベストの判断をさせて頂いたと思っています。
最近、新型インフルエンザの病態が分かってきて、季節性のインフルエンザよりも細い気管支で炎症を起こしやすいそうです。つまり、まだ上越で流行っているRSウィルスと似ているのです。細い気管支に痰が詰まり、酸素の取り込みを邪魔しているのだそうです。RSウィルスは呼吸困難が長めに続くことがありますが、新型の場合は、呼吸不全は一時的なことが多いようです。
重い発作の場合は、聴診器でゼーゼーが強めに聞こえることが多いのですが、この患者さんの場合はそれほどでもなく、酸素濃度を測ってみて予想以上の低さに驚きました。入院先でレントゲンは撮るでしょうから、レントゲンは撮りませんでしたが、肺炎になっていたのかもしれません。
私の知識と経験を総動員すると、ぜんそくは日頃から発作も出ておらず、治療不足ではないと思いますが、新型インフルエンザ特有の呼吸不全であると考えています。見慣れたぜんそく発作とは明らかに異なっています。事前に新型インフルエンザの呼吸不全に対する知識があったため、適切に対応ができたと思っています。
上越でも新型インフルエンザは終息しつつあるようですが、またこんなケースを経験するかもしれません。新型はタミフルで1~2日であっという間に軽快することが多いため、私自身正直言って新型をちょっと甘く見ていた部分もありました。気を引き締めて診療に当たらなければならないと、少し反省しています。


