小児科 すこやかアレルギークリニック

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リン酸コデイン
2010年03月09日 更新

「リン酸コデイン」という薬があります。

これは聞くとちょっと恐くなってしまうかもしれませんが、麻薬系中枢性鎮咳剤の部類に入ります。薬効を調べてみると、各種呼吸器疾患における鎮咳と書かれています。つまり、激しい咳を力づくで止めるための薬と考えて頂いていいと思います。

先日、2年ぶりに当院にかかった患者さんが咳が止まらないと受診されました。2年前と言うと、当院が開院して間もなく受診されていたのです。

診断はぜんそくでした。当院がアレルギー専門という話を聞いて、セカンドオピニオン的に受診されたようです。ぜんそく自体は決して重くなく、この2年間は重い発作を起こすこともなかったそうです。そのお子さんが咳が止まらないと、近くの小児科で治療を受けていたそうですが、良くならないと受診されたのです。

こういう時って、燃えてしまいます。専門医として期待されているのでしょうから、答えを出さなければならないと力が入ってしまうのです。

まず、その咳の特徴を確認し、いつから症状がみられて、どんな治療を受けてきたのかを入念に聞くことから始めなければなりません。もちろん、ぜんそくのあるお子さんの咳が長引いているなら、ぜんそくも関わっている可能性が大きい訳ですから、それを念頭に問診をしなければなりません。

話を聞いていて、「これってぜんそくの咳だろうか?」と思ってしまいました。お子さんにぜんそくがあるとお分かりでしょうが、夜から朝に咳が集中することが多いと思います。その子の咳は夜には出ないのです。

前医では、最初は感染症を考え、いわゆる風邪薬が出されていたのですが、咳は止まりませんでした。お薬手帳をみると、その後に「リン酸コデイン」が処方されていました。効果はみられなかったようです。ここ最近は、ぜんそくの悪化と考えたのか、フルタイドという吸入ステロイド薬が使われていました。治療経過はそのような状況で、当院を受診されました。

比較的はじめの方に「リン酸コデイン」という薬が使われています。前の先生がぜんそくと考えた上で使われたのでしょうか?。その辺は定かではありませんが、一般的に「リン酸コデイン」はぜんそく発作には使うべきではない薬とされています。

なぜなら、ぜんそくの咳は窒息しないように咳が出ています。つまり、痰が湧いてくるので、強い咳込みで痰を吹き飛ばそうとしている訳です。麻薬系鎮咳剤は、咳を力づくで止めようとする薬なので、ぜんそくには理論的に考えても、逆効果と言えます。

その後に吸入ステロイド薬が使われていました。軽いぜんそくなら、吸入ステロイドは使う必要がないと思います。ただ、軽症でも効果はあるはずです。吸入ステロイドで治療効果がなければ、ぜんそくでないんじゃないかと考えることもできますが、そのお子さんに適したタイプの吸入ステロイドを出さないと、うまく吸うことができず、効果を発揮しないこともあります。その辺も確認する必要がありますが、先にも述べた通り、咳の状況がぜんそくの典型例ではないことが気になっていました。

話を聞いていて、ある程度診断を付けることができました。ちょっと意外と思われるかもしれませんが、心因性咳嗽を考えています。つまりストレスにより作為的に咳をしているものと思われました。それなら「リン酸コデイン」でも、ぜんそくのファイナルアンサー的な治療の吸入ステロイド薬も効果がないことが理解できます。

ストレスの有無についても聞いてみましたが、親御さんは思い当たるものがあるそうです。まずはその辺を対応して頂き、咳が軽減するようなら、診断は間違いないと言えそうです。

私も日常診療で間違った判断をすることがあるだろうと思います。どんな経験豊富な専門家であっても、特に病初期や症状が軽いと、判断が難しいこともあるでしょう。治療してよくならなければ、自分の診断や治療方針を見直すようにしています。申し訳ないですが、今回のケースは専門医に紹介して欲しかったと思います。

予想するに睡眠障害もなく、低酸素になっている訳でもなかったので、紹介しづらかったのだろうと思います。逆の立場なら、「これくらいの症状で紹介するのも恥ずかしいな」と思ってしまいがちです。

でも一番大事なのは、医師のプライドではなく、お子さんの症状を早く鎮めてあげることです。お子さん自身がストレスでSOSを出していたのですから、早く察知してあげる必要があると思うのです。専門でない先生にはこういったケースは判断が難しいと思いますし、「何故良くならないのだろう?」と常に考えていなければ、余計なことをしてしまう可能性もあるのだろうと思います。分からないこと、できないことを正直に言う勇気は医師にも必要なことだと思っています。

今回、ネットで「リン酸コデイン」を検索してみたら、ぜんそくやRSウィルスにも使われているケースがあるようです。そのお子さんを診察している訳ではないため、何ともいえませんが、一般的にはぜんそくには使うべきではないとされていますし、RSウィルスこそ、あの激しい咳は窒息しないように、酸素を確保するために頑張って咳をしているのです。敢えて言わせて頂くなら乱用の部類に入ってしまうのではないかと思います。

ちなみに当院は今回のケースのように、既に治療されているケースも含めて咳の出やすいお子さんを大勢診ていますが、「リン酸コデイン」は一人も使っていません。今後使わざるを得ないケースがあるかもしれませんが、アレルギーや呼吸器の専門医ほどこの薬は使わないのではないかと思っていますし、安易に使うべきではないでしょう。

心因性咳嗽は、吸入ステロイドも含めて、どんな咳止めの薬も効きません。私自身がどんな咳でも止められる訳ではないでしょうが、近医で治療しても良くならない場合は早めに相談して頂きたいと思っています。