私がまだ小児科医として駆け出しの頃にこんなことがありました。
ある病院に勤務している時に、あるベテランの先生が学会などで休診だと、それを知って帰ってしまう患者さんが何人もいたようです。その先生でなければ診てもらいたくないってことなのでしょう。他の先生から「そういう患者さんは○○教(○○はその先生の名前が入る)の信者なんだよ」と教えられ、ビックリしたものです。
他の病院に勤務していて、上司の先生と隣り合わせで診察していても、いわゆる“風邪”なんて誰が診ても変わらないのに、ベテランの先生の方を希望される患者さんが多く、「早くベテランになりたい」と思ったりもしていました。確かに多少待っても、気心の知れた先生に診てもらった方が同じ風邪であっても、安心感が違うのでしょう。
それから年月が経ち、私もそれなりに小児科医として経験を積み、子どものアレルギーが専門という切り札を持って、診療に当たっています。
小児科の診療の中心は感染症です。いわゆる風邪や胃腸炎の他に、水ぼうそうやおたふく風邪、溶連菌、手足口病、突発性発疹などを診ることになりますが、この辺は小児科医なら誰でも診断を間違うことはないでしょう。インフルエンザはタミフル、水ぼうそうはゾビラックス、溶連菌は抗生剤が特効薬ですが、他の病気は保存的治療といって、基本は「治るのを待つ」スタイルを取ります。ある程度、経験を積めば的確に診断もできるし、小児科の専門医ではない「内科•小児科」の先生でも上手に対応されていると思います。
アレルギー疾患を持つ子どもは増えており、小児科医が診る病気では感染症に次いで2番目に多い分野と思います。ところが、いつも言っている通り、ぜんそくを“風邪”や“マイコプラズマ”、アトピーを“乳児湿疹”や“乾燥肌”と診断されており、通院しても一向に良くならずに他の医療機関を転々とされているケースが少なくないのです。感染症とは大きく異なり、小児科医の知識の差がモロに出る分野だと思います。
患者さんは、自分の普段かかっている先生がアレルギーの専門であるかどうかは全く分かりません。アレルギーの患者さんをどれだけ多く診て、治療しているかも知らないと思います。専門医の間では、アレルギー学会認定の専門医であることや学会活動をやっていることが目安になっています。専門医はどん欲に最新情報を得ようと頻繁に学会に参加しています。しかし、そんなことは患者さんには分かりません。患者さんは“信じて”通うしかないのだと思います。そういう意味で、医学は宗教的な側面を持っていると言えると思うのです、
敢えて言わせて頂きますが「アレルギー科」の看板は、たいした目安にはならないと思います。全国的にそうなようですが、開業医の誰もが掲げているからです。実際に、ある小児科医の数年前のブログに「アレルギーの勉強も研究もしている訳ではないけれど、今度アレルギー科を名乗りますのでよろしく」と書かれていました。そこにはアレルギーの患者さんは結構通っているようですが、当院に移ってこられる患者さんも少なくありません。
医師は苦手分野で詳しくなくても、往々にして「よく分かりません。」とは言いません。患者さんは信じて通っているけれど、10年前のあまり効果が期待できないような治療が続けられていることもあります。いつも言うように良くなっていなくても、同じ薬が出し続けられているケースもよく見かけます。プロなら治療の引き出しを沢山持っているので、良くならなければ別の手を使い、良くする努力をするはずです。「信じる者は救われる」という諺がありますが、信じても救われていない患者さんは少なくないと思っています。
増え続けるアレルギーの患者さんを救うため、各アレルギー疾患に対する「ガイドライン」が作成されました。それを参考にすれば、ハイレベルな医療をどこの医療機関でも受けることができるようになるはずです。しかし、現実的には「ガイドライン」すら読んでいないとしか思えないような対応をされている患者さんが当院を受診されています。つまり、「ガイドライン」を参考にしなくてもキチンと対応できるような専門医が、逆にそれに則った治療をしているというような皮肉と言えるような状態になっています。
ただし、各「ガイドライン」には触れられていると思いますが、医師の裁量権が重んじられており、「ガイドライン」に何が何でも沿うことが必須とはされていません。更に「ガイドライン」通りに対応しなくてもペナルティがある訳はありません。しかし、他院で治療しても良くならない患者さんが当院を受診すると、「ガイドライン」に沿って診断し、治療するとほとんどの方が1週間後には改善しています。それくらい効果があり、アレルギーの治療の拠り所になっていると思います。
特に食物アレルギーの分野は、アレルギー検査は数値が高くても食べても何ともないこともあり、子どもの成長や発達を考えると食品は“必要最小限の除去”を心掛けるべきであり、「食物負荷試験」が欠かせませんし、これは食物アレルギーの「ガイドライン」にもハッキリ明記してあります。こだわって「食物負荷試験」を繰り返している当院に紹介されることはまずなく、「ガイドライン」がいかに無視されているかが理解できます。
「ガイドライン」を参考にするかは各医師の判断ということになりますが、昔からやっている対応で良くならなければ、患者さんは信じて必死に通っている訳ですから、その期待に応える努力をすべきでしょう。先にも述べましたが、従来の対応よりはよほど有効です。「ガイドライン」を有効に使えば、アレルギーで困っている患者さんにより効果的に対応ができるのです。
ちょっと過激な言い方になってしまうかもしれませんが、「ガイドライン」が普及すればする程、医学は“宗教”ではなく、より確実性のある学問になっていくと思っています。患者さんの方も、もっと「ガイドライン」を知り、ご自分の受けている治療が「ガイドライン」に沿ったものなのかを確認するようにした方がいいと考えています。


