当院には、多くの食物アレルギーのお子さんが大勢通ってくださっています。
食物アレルギーは、すべての困っている患者さんに覚えておいて欲しいのですが、アレルギー検査結果だけでは正しい診断や指導はできません。「食物負荷試験」をせずには不可能と言っていいでしょう。
となると、「食物負荷試験」を継続的にやっている施設は県内には極めて少ないため、本当なら当院で新潟県内の南半分の患者さんをすべて診なければならなくなります。私にはその覚悟はあるつもりですが、それはなかなか難しい話です。せめて重症な患者さんはプロに任せるべきでしょう。
県内には、専門でない医師が「アレルギー検査しか診断する方法がない」と説明して重めの患者さんを抱えているケースも少なくないと思います。この時点で、ベストとは言えない医療が行われているのです。ハッキリ言って、それでは患者さんが可哀想です。医師が自分の知識に限界を感じ、もっと親身になって専門医に紹介すべきだし、患者さんのことを真剣に考えたら、そうするしか方法はないのです。親御さんにも「子どもにもっと食べさせたい」という気持ちをどん欲に持って頂きたいのです。
ある食物アレルギーの患者さんは、以前某小児科で診てもらっていました。アレルギー検査で卵やミルクが陽性なので、その小児科医も卵も乳製品に関しても部分除去を指示していました。
食物アレルギーの基本は、アレルギー検査の値が高かろうと、食べて何ともなければ食べ続けていいのです。ただ、医師は自分の身も守らなければならないのでしょう。実際の食生活をよく聞けば、どの程度の除去をすればいいのかは明らかなのですが、問診もせずに、アレルギー検査の値を元に厳しい除去を指示していました。
お母さんの希望は「なるべく他のお子さんと同じものを食べさせてあげたい」というものでした。そりゃ、当然ですよね?。例えば、ミルクの検査が陽性であっても、飲むヨーグルトのような乳性飲料は自宅で飲んでいたそうです。家で何度も飲んでいるので、当然園でも飲ませてあげたくなるのは、親御心だと思います。
園に頼んでみても、「医師からの許可がないのでダメです」の一点張りだったそうです。園も食物アレルギーに関しては詳しくないので、園の対応も分からなくもありません。そろそろ「どうして僕だけ」と分かり始める年代になってきているため、お母さんはもう一押ししてみたそうです。そうしたら「お母さんが給食に付き添うなら、出してもいいです」という回答だったそうです。実際に付き添ったこともあるそうです。一般的には、ちょっと有り得ない対応です。
お母さんとしても、上のお子さんがその小児科に行っていたので、なるべくその小児科で診てもらいたかったそうですが、結局、医師の指示がネックとなり、思うような給食を出してもらえなかったため、「こんな対応で良いのだろうか?」と疑問を感じ、当院を受診されました。
私としてはいつも通り診療するだけなのですが、同じ小児科医でも実力の差が大きいことを知らしめなければなりません。そうやって、地元に「食物アレルギーは専門医に診せるべき」という考えを浸透させ、新潟県に広めなければ、県内の困っている患者さんを救えないのです。
こういう場合は、私のやるべきことは決まっています。医院で「食物負荷試験」を行い、十分量の牛乳を飲ませて、乳製品を除去する必要がないことを証明してあげればいいのです。飲めたなら牛乳も“飲むヨーグルト”も許可すべきでしょう。こうしてあげれば、お母さんのモヤモヤは消し去ることができるのです。
当院に牛乳を持ってきて頂きました。今まで牛乳はお母さんが「飲んじゃダメ」と言ってきたので、お子さんは実際に飲むことに抵抗を感じていたようですが、「食物負荷試験」で牛乳200mlを飲むことに成功しました。その結果を元に、「牛乳も“飲むヨーグルト”も飲ませても差し支えありません」とアレルギー診断書を書きました。この書面があれば、園もそれらを飲ませることに差し支えはなくなります。
先日、お母さんからメールを頂きました。私の診断書を受け取ってから、園側もより協力的になってくれたそうです。私の指示を受け、園でも給食で牛乳が出たそうですが、ゆっくりですが給食時に牛乳を200ml飲めたそうです。お母さんは、願いが叶い、涙が出たそうです。私もそのメールがとても嬉しかったです。
食物アレルギーを持たない人にとってみれば、「何を大袈裟な」と思われるでしょうが、その医院さんの小児科医や栄養士に相談しても的確な指示がなく、園もそのオーバーな指示書に沿わざるを得なく、前に進めない状況でした。お母さん自身が他のお子さんと同じものをと望んでも、「我慢せざるを得ないもの」と思い始めていた矢先に当院を受診されました。
こうやれば、救われる患者さんが県内にどれくらいいるのかと考えると、本当に心が痛みます。私が最も不満に思っているのが、食物アレルギーのガイドラインが発刊されて5年も経つのに、知らないはずはないのですが、「食物負荷試験」を口に出す医師がほとんどいないことです。となると患者さんが正しい知識を持ち、「食物負荷試験」をやってくれる病院へ紹介してくださいとお願いするしかないと思います。
日本の医療は、どの医師が診ても同じ料金です。医師の持っている技術が同じことが前提だからです。しかし、食物アレルギーに関しては、ほとんどの患者さんがガイドライン通りの適正な医療を受けられていません。専門医にかかっている場合とそうでない場合で、想像以上の格差が生じているのだと思います。
小児科医は、食物アレルギーだけを診ていれば良い訳ではありませんが、“母の願い”を叶えるために最大限の努力をすべきだと思っています。それがかかりつけ医の務めでしょう。すべての小児科医が、かかりつけの患者さんを守るため、母の願いを叶えるために「食物負荷試験」を依頼する時代はいつやってくるのだろうと思っています。


