先日、遠路遥々アトピーと食物アレルギーの赤ちゃんが当院を初めて受診されました。
それまで地元の大きな病院で診てもらっていたそうです。乳児期早期から重症なアトピー性皮膚炎があり、一時某大学病院にも入院して加療されていました。一般的に、乳児のアトピー性皮膚炎が重症であれば、アレルギーの体質が強いことが多く、食物アレルギーも重度であることが多い印象があります。
アトピーも超が付くくらい重症であれば、体中が炎症を起こした皮膚で覆われ、ジクジクしたりします。私の記憶が確かなら、重症なアトピーを悲観して無理心中した事件もあったと思いますし、ステロイド軟膏による治療を拒んだ結果、死亡例もあったと思います。シビアな重症例も存在するのです。
そういったご苦労を乗り越え、皮膚はだいぶ軽快している様子でした。当院まで来られた理由(主訴)は何かと言うと、“何を食べさせたらいいか分からない”というものでした。普通、こんな主訴で受診されると、小児科医はビックリすると思います。私も受診理由にそう書いてあったケースは初めてかもしれません。
重症アトピーがあり、重症な食物アレルギーがあるんだなとはすぐに理解できました。実際に持参された前医でのアレルギー検査を見せてもらいました。過去に数回アレルギー検査をしていて、主要アレルゲンの他に、魚類、甲殻類、軟体類、穀類、肉類、野菜、果物が40項目以上調べられていました。結果は、クラス2以上が陽性とすると、調べた全ての食品が陽性でした。
前の主治医の先生は、悪気はないのでしょうが、検査をすればするほど患者さんを“追いつめていた”と思うのです。調べれば調べるほど、陽性のものが増えていくのですから…。その結果、困り果てて当院まで相談に来られたという訳です。
その先生はアレルギー専門でないので、早く紹介して頂きたかったというのが本音です。大病院から、田舎の開業医に鞍替えするのは勇気がいるはずですし、藁をも掴む思いで受診されたというのが容易に想像できます。いつも言っている通り、私は何でも知っている訳ではありませんが、超重症のアトピーや食物アレルギーにも対応してきました。経験と治療のノウハウは少しは持っているつもりです。
何も食べずに育つはずはないので、これまで何を食べてきたのかというのが最大のヒントであり、難局を乗り切る突破口になると思います。実は、現実に食べている米、ジャガイモ、サツマイモ、ニンジンなどはいずれもクラス3だったのです。検査が陽性でも、食べているのです。
ここで大切なのは、冷静な分析です。だったら、検査結果がクラス6や5なら症状が誘発される可能性はありますが、同じクラス3程度なら「食べられるのではないか?」と考えるのは自然な発想だと思うのです。逆に、本気で「絶対に食べさせてやる」という気持ちを持たなければならないのです。
そもそも小児科医の存在意義は「子どもの健康を守ること」です。検査のしっぱなしではいけません。「あれも食べられない、これも食べられない」では何の解決にもなっていないのです。「一緒に食べられるものを探していきましょう」という立場で、プロとしてサポートしてあげる姿勢が求められているのだと思います。それができなければ、専門医に紹介するしかないと思っています。
ここまでの展開ですと、お察しの通りですが、「食物負荷試験」を行うことにしました。それしか方法はありません。アレルギー検査が高くても、食べてアレルギー症状や皮膚炎の悪化がなければ、何の問題もないはずです。
一般的に、野菜は即時型反応を起こすことは少なく、もともと離乳食は米と野菜からスタートします。普通の赤ちゃんと同様に、食べられそうな野菜を増やしていき、タンパク源として豆腐、肉類、魚類も食べられるかチェックしていきたいと思っています。雑穀のヒエやアワで作った麺類も食べられるのではないかと思っていますので、食事に変化も付けられるのではないかと思います。
これだけアレルギー検査が陽性のものが多いと、私も安易に「家で食べさせてみて下さい」とは言えません。まだ乳児で、アレルギーの体質が強ければ、慎重にならざるを得ないのです。ただ、確実性、安全性も大事ですが、時には攻めの姿勢も必要です。数種類しか食べさせていない現実では、1品でも多く食材を増やしてあげなければいけないのです。そうしなければ、成長期のお子さんに成長や発達に悪影響が出てしまいます。
更に、10月に開催するイベント「すこやか健康フェア」にも誘いました。今回は「経口減感作療法」の講演が最大の売りですが、アレルギー除去食の展示、試食会も併せて行います。それは当院かかりつけの重症食物アレルギーの子を持つお母さんに調理を依頼しており、知り合うことにより母親同志の情報交換ができると考えたからです。
自分で言うのも何ですが、これだけの状況を適確にアドバイスを送り、乗り越えようとする小児科医は県内にはほとんどいないと思います。研修先のアレルギー専門病院で最重症の患者さんを診させて頂いたノウハウを活かしながら、何とか患者さんの期待に添えるよう努力したいと思っています。


