平日は、仕事が終わる頃にはヘロヘロになっているため、連休はすこやか健康フェアの準備がはかどりました。
いま、食物アレルギーの新しい治療についての本を読んでいるのですが、理論的で明快に書かれていて、読んでいて気持ちがいいくらいです。
その先生は、以前からの食物アレルギーの第一人者というよりは、それまでは小児ぜんそくを中心にした診療をされていて、増加している食物アレルギーにどう対応するかを真剣に考え、積極的に「経口減感作療法」に取り組んでおられます。この分野で最も注目されている先生と言い切れます。
本の中で時々書いてあるのが、「食物アレルギーは、分からないことが多い」というフレーズです。これだけ医学が進歩してきていても、まだ未解明の部分が多いという意味です。
医師が「分からない」と言うと、患者さんは不安になると思います。しかし、研修医や専門でない医師が「分からない」と言うのと、ベテランの医師や専門医が「分からない」と言うのでは、「分からない」次元が違うのです。
医師は患者さんの命や健康を扱うため、自分に正直でなければならないと思います。分からないことに遭遇した時に、2つのタイプがあると考えています。ひとつは「分からない」こと認めないタイプ。理論的でない説明を患者さんにしているケースはよく耳にします。
以前、ぜんそく発作を起こすと片方の腕の握力が低下し、物を握れなくなるというお子さんを診たことがあります。1年程前にも同様の症状があり、近くの小児科医行ったら「風邪せいだ」と“診断”されたそうです。私はそれを聞いて、唖然としました。普通、風邪でそんなにはならないからです。実際に片腕に力が入らないことを確認し、慌てて神経が専門の先生に紹介状を書きました。私の「分からない」という説明に納得して専門医への受診をに応じられた訳で、親御さんもおかしいと思っていたのです。医師がおかしなことをやっていては、評判を落としますし、私が患者の立場なら「恐いな」と思ってしまいました。
もうひとつは、正直で親身なタイプ。自分にも正直なので「分からない」ことを認め、「ではなぜそうなるのか?」とよく考えるタイプです。私もこうありたいと思っています。正直言って“知ったがぶり”をしたことはあります。しかし、自分を信用して受診されている患者さんにそれはできないだろうと改心し、「分からない」ことは「分からない」と言っているつもりです。
先日も、赤ちゃんが熱を出して医院を受診された際に、血液検査がとても悪く、大事をとって病院に紹介したことがあります。その時の診断名は「不明熱」。医者のくせに、熱の出どころが分からないなんてバカじゃないかと思われてしまうかもしれませんが、思ったよりのどが赤くなければ、のどの熱でない可能性が高まります。尿路感染症と診断するためには、検尿と尿の培養が必要になります。診察したその時点で採尿ができていなければ、尿路感染症を疑っていても、そう診断はできません。小児科では、「不明熱」は立派な診断名なのです。
食物アレルギーの本の中で、「うちの子は○○と△△にアレルギーがあります」と親御さんから言われて、実際に精査をしてみると、食べてもアレルギー症状はみられなかったということは多々あると書かれていました。結局、食物アレルギーの診断に有効な手段がないことを表しています。いつも言っている通り、アレルギー検査は大して当てになるものではないと思います。小児科医自身が、アレルギー検査をすれば原因が“分かる”と説明しているとしたら、それは間違いということになります。検査の限界を知った上で、参考にするのが正しい判断ができると思います。
蕁麻疹が出ると、親御さんは「食物アレルギーではないか?」と小児科を受診されます。医師もそう考えている節があります。本の中でも紹介されていますが、蕁麻疹の患者さん2000名の中で、本当にアレルギーが原因と判断されたのは3%であり、ほとんどが原因の特定できない特発性と診断されたという報告があるそうです。つまり原因が「分からない」ケースがほとんどだということです。
実際に、普段から牛乳を飲んでいるにもかかわらず、アレルギー検査をしてミルクの値が陽性だったからと言って、蕁麻疹の出た数時間前に食べたパンに含まれる脱脂粉乳のせいだと小児科医から診断されたケースもあります。パンの中の乳成分に反応するなら、牛乳なんてまともに飲めないはずなのです。1年以上も除去し続けた上で、「おかしいんじゃないか」と思い、当院を受診されました。結果的にも蕁麻疹の原因が「分からない」と言ってくれた方がよかったと思っています。
アレルギー検査が陽性だと「念のため食べないようにしましょう」と説明されているケースが多いとも書かれていますが、最近は「除去することが逆に食物アレルギーを重くする」のではないかという考え方も出てきています。読んでいて、あまりに筋道だって書かれているため、自分の普段言っていることが正しいのかどうか、分からなくなってしまいます(汗)。いまの“常識”が数年後には、全く逆になっているかもしれないのです。
このように食物アレルギーは“分からない”ことが多いため、医師が「分からない」ことを分かっていないとおかしなことになってしまう訳です。
先日、「何を食べさせていいか分からない」という赤ちゃんの親御さんが相談に来られたケースを取り上げました。アレルギー検査を40項目以上行い、すべてが陽性でした。前医の先生を知っていますが、悪い先生ではないのです。結局、アレルギー検査を信じ過ぎているため、「あれも食べられない、これも食べられない」と説明し、何も食べさせられなくなった親御さんが藁をもつかむ思いで、当院を受診されました。
このケースでは「分からない」と認めて、分かる、もしくは分かりそうな医師に紹介すべきだったと思います。ちなみに遠くから当院に通院されていますが、毎回食べられるものが増えています。食物アレルギーの専門的な知識と「食物負荷試験」を駆使して、食べられるものを判断しているのです。アレルギー検査が高いと、私も食べてもよいかどうか“分からない”ので、医院で食べてもらい、食べられるかどうかを“分かる”努力をしています。
私も特に食物アレルギーは「分からない」ことが多いのですが、「分からない」ことを「分からない」と認めてくれる小児科医が増えなければいけないと思うのです。そうすれば、「食物負荷試験」を受ける患者さんも増えるでしょうし、「あれもこれも食べられない」という患者さんを減らすことができるのだろうと思っています。


