小児科 すこやかアレルギークリニック

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食べて治す、その前に
2010年10月12日 更新

「食物アレルギーの分野がいま熱い」と言えるでしょう。

この場でよく触れていますが、「経口減感作療法」という方法が臨床の場で試され、素晴らしい結果をもたらしています。具体的に言えば、微量の卵で反応を起こしていたお子さんが、2週間ほどで卵1個を使って作ったスクランブルエッグを食べられるようになってしまう、という急速法にはもはや驚くしかないでしょう。

国内でも、いくつかの専門病院でしか行われていませんが、今では追従している施設も少しは増えてきているのだろうと思います。ただこの急速法は、入院して一気に食べる量を増やしていく方法ですので、アナフィラキシーというリスクも伴います。意外なことに、さほど重篤な症状もなく、スイスイと食べられるようになることもあるようです。

この治療法でリードしているのは、先日も当院の食物アレルギー啓発イベントである「すこやか健康フェア」で講演をお願いした高増先生の所属する神奈川県立こども医療センターだろうと思います。この治療法を始められたトップの栗原先生が近々新潟市に来られるようです。

私も聞きに行こうと思っているのですが、残念ながら一般の方は参加できません。場合によっては、小児科医よりも食物アレルギーの子を持つ親御さんの方が聞いてみたいとお思いでしょうが、なかなかそういう機会はないものです。ですから、当院が「すこやか健康フェア」をやる必要があるのです。来年以降も全国レベルの先生にお越し頂き、最新情報をお話しして頂く予定です。

さて、私も読んでいますが、その栗原先生は「食べて治す食物アレルギー」という本を書かれています。今回の新潟市での講演も「経口減感作療法」の話になるでしょう。

いつも言っている通り、新潟は食物アレルギーのレベルが全国的にも高くなく、アレルギー検査の値だけで食べられる、食べられないの指示が出されていることがほとんどです。これまではアナフィラキシーを起こすと困るから「食べてはいけない」という指示だった訳ですが、今後は「なるべく食べなさい」のように180度違った対応になるだろうと思うのです。

食物アレルギーは乳幼児の5~10%に見られると言われており、県内の全ての小児科医が食物アレルギーの患者さんを扱っているはずです。いま注目の治療法なだけに、きっと多くの小児科の先生が講演を聞きに参加すると思いますし、一人でも多くの先生に今回の講演を聞いて頂きたいと思っています。

ただ、ひとつ心配していることがあります。下手をすれば、アナフィラキシーが増えてしまう可能性を案じているのです。

私が新潟県に広めたいと思っている「食物負荷試験」という検査があります。これはアレルギー検査の値が当てにならないため、食べられるかどうかを調べる方法です。実は、「経口減感作療法」をやるには「食物負荷試験」をなくして行うことができません。つまり、「食物負荷試験」が広まっていない現状で、「経口減感作療法」ができるはずがないのです。

どういうことかと言いますと、一口に卵アレルギーといっても、ごく微量の卵成分、例えばビスケットくらいでアナファラキシーを起こすお子さんもいるでしょうし、茶碗蒸しを1口食べてアナフィラキシーに至る患者さんもいるでしょう。患者さんによって、症状が誘発される卵の量は異なるのです。「経口減感作療法」では、まずその量を設定してから、そのおよそ10分の1量から開始し、2割ずつ増やしていく方法を栗原先生は推奨されています。

閾値(いきち)と言うのですが、その症状が誘発される量は患者さん毎に異なりますので、それを「食物負荷試験」によって個別に調べる必要があります。例えば、卵10gで症状が出た患者さんの場合、10分の1ですから1gから開始することになります。別の患者さんに同じ量である1gで開始したら、その患者さんがより重症であれば、それだけでアナフィラキシーショックを起こし得るのです。まず閾値を調べることから全てが始まるのです。結局、最低限「食物負荷試験」を行える技術を持った医師でないと、対応すらできないのです。

講演を聞いた先生方が「最近は食べて治すんだ」と患者さんに話してしまう可能性があり、それを信じた親御さんが家で限界以上の量を食べさせてしまい、アナフィラキシーを起こすこともあるでしょう。安易に話すべきではないと思っています。

私は勤務医の頃から「食物負荷試験』を行ってきました。3年前に開業してからも「食物負荷試験」を積極的に行っています。開業医が「食物負荷試験」を行うと時間も取られ、アナフィラキシーのリスクを伴います。面倒なことはせず、軽い症状の患者さんを大勢診た方が経営的にも有利なのです。開院に際し、「食物負荷試験」を“封印”してしまうやり方もあった訳です。しかし、敢えてやる方を選択しました。食物アレルギーの患者さん達への不必要な除去をなくたいと切に願ったからです。

当院が「食物負荷試験」を始めた頃は、県内ではこの検査をやっている小児科医はほとんどいなかったと思います。当院に来られた患者さんの話を聞くと、「○○先生のところで、負荷試験をやった」なんてことを言われることが数回ありました。その先生の責任を負える範囲内でやって頂くことは構いません。ただし、私も専門病院で手取り足取り教えて頂き、ようやく“独り立ち”した状態です。「食物負荷試験」はある程度の確実性が要求されますので、「それくらい自分でもできる」という気持ちでは限界があると思います。

こういう状況を見ても、「最近は少しずつ食べさせればいいのね』と「経口減感作療法」を真似た対応を始める医師が出てくるかもしれません。当院から100キロくらい離れた街から当院に卵アレルギーで受診して下さっている患者さんがいるのですが、近くの小児科に風邪でかかり、当院で対応されていることを知ると「そんなところまで行く必要はない。卵アレルギーは卵黄から食べさせていけば治るんだ」と言われたそうです。

もしかしたら「経口減感作療法」を既にご存知で言われたのかもしれませんが、これだけの説明で患者さんは理解できないと思います。最初の食べる量や増やし方、食べる間隔、緊急時の対応などなどを説明しなければいけないはずです。軽い患者さんはそういう対応で上手くいくのかもしれませんが、この患者さんは決して軽くはないのです。医師の発言は重いので、慎重に言葉を選ぶ必要があろうかと思っています。

ちなみに「経口減感作療法」には緩徐法と言われる、外来で数ヶ月の時間をかけて食べる量を増やしていく方法もあるのです。実は、この方法でも限界を超えた際にアナフィラキシーを起こす可能性があるので細心の注意が必要ですが、最大のメリットは外来でもできることにあります。つまり開業医でもできるかもしれない方法です。

実は、私の知り合いのアレルギー専門医で始めている先生が複数おります。私自身は、この治療法の実施には慎重だったのですが、当院のかかりつけの患者さんへの導入も検討しています。この分野では、それなりに知識を持っているつもりですが、私でもこれくらい慎重なのです。安易な「経口減感作療法?」が増えないことを念じています。