小児科 すこやかアレルギークリニック

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「ちょっと食べさせてみる」
2010年10月21日 更新

水曜日の夜に新潟市で食物アレルギーの講演がありました。

新潟市の小児科の先生の会合の講演だったのですが、市外からでも参加OKということでしたので、出かけてきました。平日の夜に120キロ離れた新潟市に行くのは結構大変でしたが、新潟では滅多に聞けない話のなで、車を飛ばして行きました。

講演のタイトルは「食べて治す食物アレルギー」。いま話題の内容です。演者は今月2日に当院主催のイベント「すこやか健康フェア」の講師としてお招きした神奈川県立こども医療センターの高増先生の上司である栗原先生でした。この治療法で先頭を切っておられる先生ですので、聞かない訳にはいきません。

新潟市の小児科の会合は参加したことがないので、いつもより参加者が多かったのかどうかは分かりませんが、私以外にも中越の先生もご参加のようで、注目の高さを垣間みることができました。

私は普段、この場でも経口減感作療法という言い方をしていますが、SOTI(特異的経口耐性誘導)とも言います。いわゆる免疫療法です。

花粉症はスギ花粉の飛散シーズンには外出をなるべく控えたり、我慢するものと考えておられる方も多いと思います。実は減感作療法と言って、スギ花粉のエキスを注射して、体をスギ花粉に慣れさせる治療法は以前からありました。ただ、治療に時間がかかり、通院も頻回なので、なかなか普及しませんでしたが、有効率は7割とも言われています。栗原先生のグループは、以前からこの減感作療法に取り組んでこられており、食物アレルギーにも応用できないかと考えていたそうでした。

SOTIには、「急速法」と「緩徐法」の2種類があります。もちろん、劇的に効いて、衝撃的なのは「急速法』の方です。

講演の中で、急速法で一番最初に取り組んだ卵アレルギーの患者さんの時は、医師の方も正直、かなりドキドキだったそうです。より慎重に対応し、3週間弱で卵1個を使ったスクランブルエッグを食べられるようになりました。それ以来、経験を重ね、平均2週間で卵1個を食べられるようになっているそうです。

これまでの食物アレルギーの対応と言えば、「強いアレルギー症状を起こすと困るから、食べないように」という指導がメインでした。こう書くと、「是非ともやってみたい」という方もいらっしゃるでしょうが、アレルギー症状を起こすことなく食べられるようになる訳ではありません。当然、ある程度の“危険”はついて回ります。実際のデータを示して下さいましたが、広範囲の蕁麻疹、嘔吐、咳き込みなどが起きることもあります。アナフィラキシーショックだって起こし得ます。

食物アレルギーといっても、中には2~3歳であっさりと治ってしまう患者さんもいます。そんなお子さんにアナフィラキシーを覚悟して食べさせるのも、疑問がない訳ではありません。現時点では小学校に上がっても、少量でアナフィラキシーを起こすような重症例で、治る見込みがかなり少ないケースがこの治療の対象になるようです。

学会で経口減感作療法の話を聞いていると、卵や小麦に比べ、牛乳は治りが遅いそうです。それはどの施設でも共通しています。エビやソバも強いアレルギー症状を起こすことがありますが、年長になって発症することもあり、現時点では研究対象になっていないそうです。理論的には可能なのだと思っていますが、すべての食材で有効という訳ではないのです。

現時点では、優れた効果を期待できる、夢の治療法ではありますが、いくつかの課題があるのも事実でしょう。すべての食物アレルギーの患者さんが飛びつくべき治療とは思っていません。ただ、これまでの「食べてはいけない」という治療とは言えないような唯一の対応が正しくないのではないか、というデータが沢山出てきており、食物アレルギーの治療が転換期にさしかかっているのだろうと思っています。

講演の最後に「ちょっと食べさせてみる」のがポイントとおっしゃっていました。新潟県内では数少ない「食物負荷試験』を積極的に行っている私としては、昨日の話のようにクルミを患者さんに“ちょっと食べさせてみて”、アレルギー症状を起こさせてしまいました。私は例えば卵の検査がクラス5や6であっても、ひるむことなく「食物負荷試験」を行っています。ですから、栗原先生のおっしゃる「ちょっと食べさせてみる」という“ニュアンス”は理解できるつもりです。

ほとんどの小児科医が、これまでも食物アレルギーの患者さんに「家でちょっと食べさせてみて」と指導されてきたと思います。その中には、家でアレルギー症状を起こしたお子さんもいるでしょうし、恐くて食べさせられないという親御さんもいらっしゃることでしょう。

私の場合、「ちょっと食べさせてみる」のを医師の目の前でやることが大切だと思っています。「どれくらいの量を何処で、どのように食べさせるのか」を明確にしてからでないと、下手な指導はできないと思います。今後、先程のニュアンスを軽んじて、「ちょっと食べさせてみる」と指導する医師が増えてしまうかもしれません。もちろん指導したからには、指導した医師がアレルギー症状など食べて起きたことに関して責任を負うべきです。

「ちょっと食べさせてみる」が一人歩きをして、アナフィラキシーなり、患者さんが不利益を被るようなことにはならないように慎重に行われるべきことだと思っています。