20日は新潟市に講演を聞きに行ってきましたが、時には私が講演をする立場になります。今後も食物アレルギーなどの講演の予定が組まれています。
その時に必ず使用させて頂いているデータがあるのですが、愛知県の伊藤先生のものです。どういうデータかといいますと、卵白が陽性の患者さんにゆで卵を1個食べさせて、何%の患者さんにアレルギー症状が出たかと言うものです。
一般的に、アレルギー検査のクラスが2以上が陽性と言われていますが、クラス2で何%、クラス3で何%というようにクラス6まで個別に調べています。具体的には、クラス2だと約15%、クラス3だと約40%と、クラスの上昇に併せて症状の出る確率は上がり、この研究では、クラス6の場合は100%の症状が出たと言うものです。
「この研究では」と書いたのは、クラス6でも食べられるケースがない訳ではありません。ただ、伊藤先生も日本の第一人者の先生ですし、クラス6の場合は、卵の加工品は食べられても、ゆで卵や卵焼きなどはちょっと厳しいというのは事実でしょう。
ただし、アレルギー検査は、年齢によっても左右します。低年齢だと症状が出やすく、成長とともにズレが生じる場合があります。今回お話しする患者さんは2歳になったばかりでした。卵白の検査はクラス6で、既に加工品は食べています。残すは卵焼きです。そう、卵焼きを使った「食物負荷試験」を決行したのです。
さすがの私もちょっと緊張します。ただ、アレルギー検査が当てにならないことは良く理解しているつもりでしたし、「食べられるものは除去しない」というのが食物アレルギーの大原則です。普段からそう外来でも言っているので、お母さんも乗り気で受診されていました。
昨日も言いましたが、食物アレルギーの場合、患者さんは素人で、よく分かりませんから、医師がリーダーシップを持って対応すべきです。具体的な量などを示さずに「家で食べさせてみて」、「症状が出たらすぐに飛んで来なさい」というのは責任転嫁に他なりません。
「食物負荷試験」の場合、何かあったら全責任は私にあります。責任をかぶりたくなければ、負荷試験なんてしなければいいのです。ただ、しなければガイドラインの推奨する“正しい医療”は行えません。ここで対応は二つに分かれるのでしょう。「卵焼きで負荷試験をやりましょう」と言ったのは私ですから、クラス6であっても「やるっきゃないでしょう」という気持ちでした。
お母さんの持参した卵焼きを、正直な表現としては「恐る恐る」少し食べさせてみました。診察室のすぐ隣の部屋で負荷試験を行っていますから、何か起きれば、すぐに連絡が来ることになっています。気にかけながら他の子の診察を続けていますが、何の連絡もありません。気になってスタッフに聞いてみても、「順調です」の返事。
順調なら、増やさざるを得ません。また量を増やして、食べさせてみます。何も起きません。その繰り返しで、結局、何と、何と、卵焼き1個をカンショクしてしまったのです!!。
あまりの神がかりな様子に、負荷試験が終わった時、お母さんに「神が降臨したんじゃないの?」と冗談を言ってしまいました。
食物アレルギーでは、そのお子さんがどれくらい食べられるのかを調べる必要があり、症状が誘発されてしまう量を“閾値”と言います。今回はさすがに途中でアレルギー症状が出てしまう可能性が高いと考えていましたので、例えば1/2個食べたところで症状が出た場合、家でも1/2個以内に抑えておけば、症状が出ない可能性があります。負荷試験により出された閾値から安全域を考えた上で「これくらいなら食べてもいいんじゃないか」という量を設定することも患者指導として大切です。
今回の結果を踏まえると、「1個程度なら家でも食べていいのでは」と判断されました。あとは何度か家でも卵料理に挑戦して頂き、ご家族にも自信を持って頂く必要があります。生卵や半熟卵はどうか分かりませんが、充分に加熱してあれば卵アレルギーはないも同然です。繰り返しになりますが、クラス6であってもです。
最近は、除去を続ける程、食べられなくなるという意見が強くなっており、20日の新潟市での講演でも栗原先生が理論的に述べておられました。私自身も診療をやっていて、そういう感覚は持っています。やはり、「ちょっと食べさせてみる」という姿勢は大切なんだろうと思います。
実際に今回のお子さんも、以前から卵はクラス6だったのですが、「食物負荷試験」で卵の加工品は食べられることを確認していました。それが今回の卵焼きを食べたことにつながったのかどうかは分かりませんが、プラスに作用した可能性はあります。
自分で言うのも何ですが、私以外の医師が診ていたら、この子はいつ卵を食べさせていたのだろう?と思います。「アレルギー検査が高いと食べられない」という“常識”にとらわれていては、前には進めないということを患者さん達に知って頂きたいと思っています。


