先日、お母さんがお子さんを抱きかかえて診察室に入ってこられました。
普通は、高熱や繰り返す嘔吐でぐったりしていると、自力で歩くこともままならないので、こういう風景は小児科ではよくあることです。
しかし、このお子さんは違いました。手と足に水ぶくれがある状況だったのです。熱が続いている訳でもなく、嘔吐を繰り返すこともありませんでした。では、なぜ歩けなかったのか?。
足の裏に水ぶくれが幾つもできており、立って重力がかかることで足の裏に痛みを感じていたのです。小児科医を20年やっていて、こんなことは初めての経験です。
今年の手足口病は、例年とは全然違います。もちろん、手と足と口に発疹ができるのが病名の由来ですが、いつもの年なら手のひらと足の裏に水ぶくれができるのですが、今年のタイプは、それ以外のところ、つまり肘や膝にかなり大きな水疱が目立ちます。お尻にも出ます。
なぜこんな違いが出てくるのかと言えば、先日も触れましたが、ウィルスの型が異なるのです。コクサッキーA6型というウィルスが主体のようです。ただ、他のタイプも混在しているため、今シーズンで手足口病に2回かかったというお子さんも目にします。これはインフルエンザのA型にかかって、B型にもかかるような感じだと考えて下さい。
夏風邪の代表格は「手足口病」と「ヘルパンギーナ」です。以前も書きましたが、ヘルパンギーナは熱とのどの発疹が特徴です。その上、手と足にも発疹が認められれば、手足口病と診断します。
熱の患者さんが来て、診察でのどのブツブツが見られたとします。この時点で、「ヘルパンギーナ」と診断したいところです。実は、曲者なのが、1~2日遅れて手足に水疱が出てきて、手足口病と診断が変わってしまうことがあります。同時に出てくれれば、分かりやすいのですが、今年の手足口病はこんな意地悪タイプが多いように感じています。
当院は、何度も受診してもらわなくていいよう、診察の時点でヘルパンギーナと思っても、「1~2日したら手足にブツブツが出るかもしれませんよ」と言っています。日頃の診療の経験から、患者さんがビックリしないように、予め分かることは伝えておこうと思っています。そして、結構その通りになることが多いのです。
一部、後に受診された時に「ブツブツは出ませんでした」という方もおります。でも、比率から言えば、圧倒的に手足口病が多いのです。実際、全国的にも今シーズンは手足口病が大流行しており、ここ上越も同じことが言えます。ヘルパンギーナは例年通りという印象です。
先日、手足と口にも発疹のある患者さんが受診されました。「手と足と口にブツがあるから、手足口病ですね」と言うと、意味ありげに「そうですよね~!!」とおっしゃいます。何かあるのかと聞いてみると、同じ症状(手足にブツブツがある)で某医院さんに行くとヘルパンギーナと診断されるのだとおっしゃっていました。同じ症状で、小児科医の言うことが異なるほど、患者さんの困ることはありません。
確かに上越の一部の感染症情報を見ると、手足口病はほとんどなく、ヘルパンギーナが爆発的に流行っていると書かれています。何か勘違いをされているようです。
当院の場合、咳が出ると当院を受診し、熱だと近くの小児科を受診される方もいますが、手足にブツブツがあり「手足口病にかかったんだね」というと「○○医院さんでヘルパンギーナと言われました」という返事が何人かから聞かれました。後から手足にブツブツが出てきているのなら、ヘルパンギーナと“誤診”されても仕方ないのですが、既に手足に出ているのにヘルパンギーナの診断はおかしいと言わざるを得ないのです。
一部の勘違いが地元の感染症情報で、違う病気が流行っているとされるのは、怖いことだと思っています。それを正すのも、私の役目のひとつだと思っています。
患者さんが望んでいるのは、正しい診断と適切な対処法だと思っています。明らかにおかしいと判断されれば、「手と足にブツブツが出ると、手足口病と診断するんですよ」と訂正しています。病名が分かりやすい分、皆さん納得して下さっています。上越のレベルアップのためには、患者教育が重要だと思っています。
医師の勘違いや判断ミスで診断が異なることは、残念ながらあることです。あまりに多く、正直どうにかしたいと思っているのが、ぜんそくをマイコプラズマと間違い、ミドシンなどの抗生剤の点滴を繰り返されているケースが多いことです。これも必要性の薄いことが行なわれています。
この場で何度も指摘した影響でしょうが、これまでずっと調べていなかったRSウィルスを調べるようになった医院さんもありますし、アレルギーのみならず感染症においても上越のレベルをアップさせるために、適切な診断を心掛けるよう訴え続けていきたいと思っています。
幸い、秋に上越の学校の先生を対象に感染症と呼吸器(ぜんそく)の講演を依頼されています。誤解されている先生も少ないでしょうから、手足口病やマイコプラズマなどの話も盛り込んで、正しい情報を提供させて頂こうと思っています。


