どこの小児科でも、インフルエンザの予防接種で忙しかったと思いますが、接種のピークは過ぎていると思います。
当院でも10月の上旬からせっせと希望者に接種をしてきましたが、11月の中旬から下旬にかけてピークを迎え、12月に入って徐々に減ってくるのが常です。今シーズンは、上越では予想外の早期の流行もあり、駆け込み需要と思われる接種希望者が増えています。ちなみに、新潟県の学級閉鎖の状況を調べてみると、18日現在で5校程あるようです。
いずれにしても、通常の診療に加えて、健康な子ども達(一部大人も)が接種を希望され受診されますので、医院の受診数は増えます。インフルエンザの予防接種の希望者がいる限り、疲れた身体に鞭打って頑張らないといけませんが、一段落してきて正直ホッとしています。
ただ、いつも胸を痛めていることがあります。インフルエンザワクチンは卵アレルギーとの関係が取り沙汰されており、親御さんはインフルエンザの予防接種を受けたいのに、卵アレルギーの「た」の字を聞いただけで、接種を断る小児科が後を絶ちません。
先日も言いましたが、接種を希望されれば、全力で対応しようとするべきです。もし接種できないと判断すれば、自分ができないなら、できそうな医師に紹介して初めて自分の任務を完了したと言えると思っており、それが筋でしょう。
最近は、筋を通さない医師が多いように感じます。最近、「日本人のモラルはどこへいってしまったの?」と言う場面に多く遭遇しますが、これも医師のモラルの問題でしょう。
私も自分がかわいく、自分の身を守りたいですが、守り過ぎるとそれは単なる「無責任」となると思っています。実際、どれだけの医師が接種によりアナフィラキシーショックを経験しているのでしょう。
先日、中越の某市から患者さんが受診されました。当院までは80キロ離れています。まだ小さい子でしたが、親御さんがインフルエンザの接種を希望されていました。市内の小児科を3~4カ所に電話をしたそうです。
残念ながら、すべて「アナフィラキシーショックを起こしたら困る」という理由で断られたそうです。1施設くらいは「オレが何とかしてやる」という気概を持った小児科がないものかと思ってしまいます。
そのお子さんは、軽いアトピー性皮膚炎があり、アレルギー検査も既に実施されており、卵白がクラス2でした。その辺りの状況も電話で話されたのだと思いますが、これで卵アレルギーと言うのは正しくありません。「卵アレルギーの可能性がある」が正しい表現です。
この場で何度も触れていますが、卵を含む食品を摂ることで、アレルギー症状を起こすものが卵アレルギーであり、この子は卵を摂ったことがないので、卵アレルギーとは言えないのです。ですから、これだけでは、卵アレルギーとは言えず、予防接種が打てないことにはつながりません。
現在のインフルエンザワクチンは高度に精製されており、卵の成分がほとんど残っていませんので、通常の卵アレルギーがあっても接種できなくはないのです。実際、当院では卵を制限している患者さんにも希望者には接種をしています。
その辺を理解していないと、本来、地元の患者さんは地元の医師が守らなければならないのに、今回のように地元の小児科にあっちでもこっちでも断られ、80キロの距離を接種しに来なければならないのです。
私の場合、インフルエンザ脳症はそんなに頻度の高いものではありませんが、自分がインフルエンザのワクチンを断り、もしその患者さんがインフルエンザ脳症にかかってしまったら、誰の責任だろうと思ってしまいます。インフルエンザワクチンの効果は、低年齢ではさほど期待できないのも事実ですが、予防効果にはそれなりに期待しています。万が一、脳症になって後遺症でも残してしまえば、親御さんは「接種しておけば、子どもを守れたかもしれない」と後悔すると思うのです。
そうならないように、私はインフルエンザの予防接種にはそれくらいの気持ちで取り組んでいます。卵製品の摂取でアナフィラキシーの既往のあるお子さんに接種することもあり、こちらもかなり緊張して接種することもありました。そういう経験から言えば、多くの医師が思う程、危険なものではないと思っています。
逆に、卵アレルギーの「た」の字を聞いて断り続けていては、その分野に関しては医師としての成長もないし、多くの患者さんの期待を裏切ることになります。さらに、患者さんに不必要な恐怖心を植え付けることにもつながります。
せめて紹介状を書いてくれれば、返事をみて「あの患者さん、打てるんだ」と学ぶこともできます。逃げ続けていれば、何も得ることもないのです。
今回の患者さんは、お兄ちゃんが食物アレルギーがあり、当院にかかっていたこともあり、下のお子さんについて当院という「受け皿」があったため、接種ができました。
以前」ワクチンを10倍希釈して皮膚テストを行ない、その腫れ具合いでそのまま接種するか、分割して接種するか、接種を推奨されないかに分かれるという方法を紹介しました。悩ましいケースはこの方法を用いれば、多くの患者さんに安全に接種ができます。ちなみに、この患者さんはそこまで必要ないと考えたので、通常に接種を行ない、何も起きていません。
つまり、ある程度の知識があれば、地元の小児科で接種ができたのです。80キロ離れた当院を受診せざるを得なかった親御さんの気持ちを、地元の医師にはよく考えて頂きたいと思っています。
新潟市から転居されてきたお子さんで、やはり卵アレルギーを理由に予防接種を断れていた患者さんにも当院では接種しています。今回の80キロ離れた街だけでなく、問題は新潟県全体の問題なのだろうと思っていますし、当院のような受け皿がなければ「接種は危険なもの」という誤った判断を持ち続ける親御さんも一向に減ることもないでしょう。
今シーズンも小児科から卵アレルギーを理由に接種を断られた患者さんが何十人、何百人もいると思うと心が痛みます。
地元上越では、咳や湿疹が治らないと園や学校の先生が医者を代えるように進言してくれるようになってきました。有り難いことです。インフルエンザの予防接種についても、医師からあそこなら打ってくれるかもという紹介がほとんど期待できないので、かかりつけ医から断られれば、医者を代えることを選択肢にしなければいけないようです。


