休み明けの外来は、いつも混雑します。
診療中に廊下から「すいません、けいれん起こしました」と母親らしい声が響きました。
スタッフが処置室に運び入れ、私も診療を一時停止し、隣の処置室を向かいます。2歳のお子さんが、待合室でけいれんを起こしたようです。発熱を契機に全身性けいれんを起こしており、何とかしないといけません。顔色も良くありません。
こういう時は呼吸する筋肉も引きつるので、呼吸が上手にできなくなります。嘔吐もみられました。
多くの小児科医が何十回と熱性けいれんを診ていると思います。何度診ても“見たい”ものではありません。親御さんなら、二度と見たくない光景だと思います。
ただ、医院には医師は私しかおらず、こういう場合はスタッフが一丸となって、冷静に対処する必要があります。吸引して口腔内の嘔吐物をきれいにしなければなりませんし、酸素不足にならないよう酸素吸入もする必要があるし、点滴をしてけいれんを止める薬を注射しなければなりません。
スタッフもけいれんを起こす子が来るなんて思ってないし、吸引と酸素、点滴やけいれんを抑える薬があっという間に出てくる訳ではありません。処置室は、一時的ですが「戦場」と化します。
処置室のベットの脇には酸素が常備してあります。酸素が一番出てきやすいので、酸素マスクを口元にあてがいます。スタッフが二人掛かりで、1人は吸引器を用意し、もう1人が点滴の準備をします。
それから、吸引器で口の中の嘔吐物を吸い取り、酸素をスムーズに取り込めるようにします。ただし、けいれんが止まらないと、呼吸が上手にできません。けいれんを止める処置も必要になります。それは点滴の管からけいれん止めの薬を注射しますが、経験上、即効性があるので、いち早く針を手の甲に刺して、ライン確保をしなければなりません。
けいれんをいち早く止めることが大切ですが、と同時に熱の原因を調べる必要もあり、「ああ、そうだ。針を刺したついでに採血もさせてもらおう」と採血も行ないます。スタッフは冷静に何時何分にけいれんが起き、何分にどういう処置をしたとメモ用紙にささっとメモしてくれています。
点滴の針を入れて、すぐにけいれん止めの注射薬を注射します。ちょうどその頃、けいれんが止まってくれました。けいれんを起こすと、往々にしてゴロゴロっぽくなるため、落ち着くまで酸素は必要になります。
けいれんが止まってくれれば、「ホッ」とすることはできます。ただ、なるべくならけいれんの引き金になった発熱の原因も究明する必要があり、「周囲に何か感染症がないですか」と親御さんに聞くと、アデノウィルスがいるという話だったので、のどを綿棒でこすって検査することにしました。結果は、陽性。
このお子さんは3月にも熱性けいれんを起こしており、今回が二度目でした。一度けいれんを起こしていれば、診断はつけやすく、しかも発熱の原因はのどに付いたアデノウィルスと考えました。あとは、けいれん後は頭が疲れるのか眠ることが多く、目を覚ましてくれるまで、点滴をしながら様子をみることなります。
この状態になり、ようやく「戦場」が解除になります。
親御さんにとってが一番長く感じると思うのですが、それは私にとっても同様です。実際のところは、数分の出来事のことが多いのです。
診療には優先順位がありますから、けいれんのお子さんがいれば、最優先で全力で対処しなければなりません。待合室の患者さんの診療は、完全にストップしてしまいます。
普段、食物アレルギーの講演を繰り返し行っており、園や学校関係の方が知りたいのが誤食時の対応でしょう。緊急事態にいかに上手に対処するかを求められており、親御さんや救急車が到着する前だと、対応できるのが園や学校職員しかおらず、やらざるを得ないのです。
先日、この熱性けいれんの対処をやっていて、ある意味アナフィラキシーの対処にも似ているなと感じました。命の危機的な状況から速やかに脱却させるという点が共通していると感じました。
今回は、プロとして冷静に見極めつつ、けいれんを止めることに全力をあげた訳ですが、こういう処置は何十回とやっており、慣れているから結構テキパキとできたと言えます。
誤食は、普通は何度も起こすものではないので、対処に慣れるということも難しいと思います。しかも、園や学校の先生方は医療のプロではないので、上手に対処することを求めるのも酷だろうと思います。
ただ、調布市での死亡事故もあった後ですし、しかも立場上、必要最小限の知識は持っていて頂かざるを得ないのだと思います。酷だとは思いつつも、私は園や学校の先生方にアナフィラキシーの対処法を知って頂く努力を続けなければいけないのだろうと思っています。


