19日、20日と横浜で小児アレルギー学会がありました。
毎年秋に開催されますが、毎年責任者が異なります。今回は相模原病院の海老澤先生が開催されました。昨年の当院独自のイベント「すこやか健康フェア」の講師の先生です。会場は、神奈川県ではよくイベントの行なわれるパシフィコ横浜で、また先生が食物アレルギーの第一人者ということもあり、かなり食物アレルギーに特化した学会だったと思います。
これは学会で聞かれた話ですが、少し前まではぜんそくに関する演題が多かったのですが、ここ最近はぜんそくのガイドラインが広まり、かなり症状を抑えることができるようになったためが、ぜんそくに関する発表は激減し、それに代わって食物アレルギーに関するものが増えてきたそうです。
私も今回の発表で平成14年から12年連続14回の発表をしてきましたが、その半分は食物アレルギーの演題です。よりこだわっているため、自然とそうなってしまうのだと思います。
少し前にも触れましたが、今回の学会の発表内容を見ていて、一番驚いたのが調布市で食物アレルギーの誤食事故で亡くなったSさんの追悼シンポジウムがあり、冒頭でご両親が言葉を述べられるということでした。
他にも興味のある発表が目白押しでしたが、このシンポジウムだけは参加せねばと思い、金曜の診療が終わったらすぐに電車に乗り、前日から横浜入りを果たしました。
これまで私もマスコミを通してしかSさんのことは知りませんでしたが、伝え聞くところでは、聡明で、優しい女の子というイメージを持っていました。
このシンポジウムは19日に開催されたのですが、奇しくも10月19日は、生きていれば12歳の誕生日だったそうです。普通、こういうシンポジウムはなかなかないと思うのですが、海老澤学会会長の企画立案で実現しました。
これまでプライバシーに配慮してSさんのお顔を見ることはありませんでしたが、ちょうど1年前の11歳の誕生日に兄弟に囲まれて笑顔のSさんの写真がスクリーンに映し出されました。将来美人間違いなしと思いますし、ご両親が壇上で生前のエピソードをご紹介下さったのですが、私のイメージ通りでありました。
生物学者になりたいこと、「人の役に立ちたい」というのが口癖で、家の家事を積極的に手伝っていたことなどのお話が披露され、私も目頭が熱くなってしまいました。
ご両親の意図は、娘の死を無駄にしないで欲しいということだったと思います。今後、第二の死亡事故が起きないように国が、学会が対策を講じて欲しいという願いもお話を通じて伝わってきました。お母さんからは、誤食時の対策も大事だが、もっとシンプルにアレルゲンを食べないようにするシステム作りも必要ではないかというご提案もありました。
シンポジウムはここで終わらず、文部科学省の方が食物アレルギーにどう取り組んでいこうとしているか、その後海老澤先生が学会側の今後の方針についてもお話がありました。
お母さんのお考えはごもっともなのですが、人間はミスをする動物ですし、学校給食を進めている上で、残念ながら誤食は今後もなくならないと思っていた方がいいと思うのです。となると、エピペンなどの有事の際の対処法を身に付けることも大切で、それは避けられないと思います。
双方の話を聞いていると、今後は死亡事故は起きないのではないかと思えるくらいに思うのですが、ただここである意味、現実的な問題が示されました。
学校側は勤務時間の関係で平日の日中に研修会を望み、指導的な立場にある医師は日中は仕事があるので、夜に研修会を行って欲しいというものです。
壇上で、応酬といったら言い過ぎですが、そういう食い違いの部分が出ました。文科省は学校側、医師は医師側をみているので、お互いがそこからして譲れないのでしょう。
聞いていて、正直「おい、そこじゃないだろう」と思ってしまいました。子どもの命がかかっていて、しかも緊急の課題なのですから、そういう本質からズレたところで噛み合ないと、前には進めない訳です。
ちなみに私も演題を出していて、発表してきましたが、水曜午後の休診の時間を利用してエピペンを処方している子ども達の通う園や学校に講習に出掛けているという内容の話をしてきました。
学校側の勤務時間の話は私も知っていて、「勤務時間内にお願いしたい」という話はよく聞いていました。17時前には終わらせたいという学校が多いようで、15時過ぎから開始して下さいというお願いはいつものことです。
病院勤務だと水曜午後は立派な“勤務時間内”でしょうが、開業医はだいたい水曜か木曜の午後が休診となっています。私はまさにその時間にエピペンに関する“出前”の講演を毎週繰り返している訳です。
私自身はボランティアに徹していて、お金のためにやっている訳ではありません。交通費を頂くこともありますが、頂かないこともあります。そういう意味では、個人に負担を強いる「活動」をやっていると言えるのでしょう。
日本の第一人者の先生方は、ほとんどが専門病院や大学病院に勤務されており、その先生を待っている患者さんがいる訳で、“勤務時間内”には身動きできないのも事実であろうと思います。
ただ、学校側の都合もある訳で、すぐには変えられそうもない雰囲気でした。そうなると、ここは食物アレルギーにこだわった、平日の時間を使える場合のある小児科医の有志が活躍できる場なのだろうと思っています。
日本小児アレルギー学会も発表の多くは専門病院や大学病院の先生方で、開業医によるものはとても少ないのが現状です。私だけかもしれませんが、ちょっと肩身の狭い感じもなくはありません。
大きな病院よりは敷居が低いため、軽い患者さんの多くは開業医を受診します。1日100人以上診療した上で、学会発表やエピペン研修のような“院外活動”をやることは負担と言えば負担になります。
ただ、食物アレルギー対策が緊急課題で、学校も医師も研修会の開催時間でもめているくらいなら、学会側は時間を使える開業の専門医を有効に使うのも一法だと思っています。
私の今回の発表は、ある意味力技で、学術的なものではなかったかと思います。ただ、私は学校側の立場も理解した上で活動しているつもりですし、今回浮き彫りになった課題の現状打破にひとつの方策を示したつもりであり、本当は文部科学省の役人や日本の第一人者の先生にも聞いて頂きたかったと思っています。
私の発表を聞いた同業の先生から、院外活動のあまりのハードスケジュールさに「お身体を大切に」と言われるくらいでした(汗)。
今回、亡くなられたSさんのお父さんの絞り出すような声でのお話が私の胸に突き刺さっています。一番辛いのはご家族であることは間違いありません。当院は開院して6年経ちましたが、診療とこういった院外活動で、多分これまでで最も忙しいのだと思います。ただ、これしきのことで弱音は吐けません。
学会側、学校側の研修時間のやりとりを親御さんはどういう気持ちで聞いたのだろうと思います。私が言うようなことではないですが、お互いの持っていきたい方向性は間違っていませんが、枝葉末節にこだわらず、ここは同じ気持ちですぐにでも前に歩み出さなければいけないところのはずです。
この問題がどうなるかは私には分かりませんが、その決着を待つつもりもないし、私は私にできることを今後も続けていこうと思っています。
とにかく、ご両親の願う「娘の死を無駄にしないで欲しい」という気持ちは、承ったつもりです。


