卵アレルギー予防の「提言」が出されました。
確かに卵アレルギーを発症して、必死になって除去している患者さんの姿を見ると、何とか予防できればと考えます。
ただ、そんなに簡単なことじゃないんですよね。もう一度おさらいすると、重症アトピー性皮膚炎の患者さんに卵アレルギーを発症しやすいと言われています。それは「経皮感作」するからで、では、皮膚をキレイにして「経皮感作」を防ごうというのがポイントです。これだけで予防できる可能性はあります。
既に皮膚から卵が入っていて、「経皮感作」が成立しているケースも少なくなかったようです。つまり、卵の値が既に高くなっているのです。学会発表を聞くと、アレルギー採血はクラス0、1といった陰性から、最高は5だったとか。結構高い人もいたんですね。
こういう赤ちゃんに、多めの卵白を与えてしまえば、蕁麻疹や嘔吐など一般的な卵アレルギーの症状が出てしまうのでしょうが、少ない卵を食べさせ続けることで、言わば「こっそり卵と仲良くさせてしまう」作戦と言えるでしょう。アレルギー採血の数値が上がることを「感作」と言いますが、「感作」から「発症」するのを引き止めるという感じでしょう。
ポイントはさじ加減でしょう。確か0.2gの卵を与えていましたが、それで発症してしまう患者さんはいなかったようですが、本当に全例に適応できるのかは、まだ何とも言えないと思います。もちろん、多ければ明らかな卵アレルギーを発症する人も出ていたはずです。
皮膚をキレイにし続けることもポイントでしょう。最初に皮膚をキレイにしても、のちに手を抜いて悪化させてしまえば、「経皮感作」を許してしまいます。
食物アレルギーに長く取り組んできて感じるのは、長く除去していると、食べられなくなるのではないかということです。実際、非専門医の医師から「除去しなさい」と言われ続けている患者さんに手を焼くこともあります。今回、生後6か月から卵を食べさせるというのもポイントで、生後10か月とか1歳過ぎから同じことをすると、同じ結果になったかどうかと感じています。つまり、与え始めるタイミングも重要なポイントだろうと思います。
今日の文章の中で、ポイントという言葉を4回使いました。その4つが組み合わさって、今回の素晴らしい研究結果が成立しています。どれが欠けても、ダメだっただろうと思っています。
果たして、「提言」をニュースで知った方々がどれだけそれを理解しているでしょうか?。小児科医、場合によっては専門医であっても理解は不十分だと思います。
今回、入院するくらい重症なアトピー性皮膚炎の患者さんが対象でしたが、重症でなくても「経皮感作」は起こります。多くの医師が“乳児湿疹”と診断しているケースで、実は「経皮感作」が起こっているのです。
「うちの子は医師からアトピー性皮膚炎とは診断されていない(“乳児湿疹”とはいわれている)から、生後6か月から卵を食べさせよう」と考えるのは、場合によっては危険なこともあるのです。
大々的に「提言」が出されましたが、感覚的に99%の人が十分理解していないこの状況で、問題が起きないか心配しています。先日、私の患者さんで市の保健師さんから「提言」の話が出たと言います。いい加減なことは言わないで欲しいと思っています。
行政側には、「提言」が注目されていますし、市の保健師を対象に勉強会をしませんかと提案するメールをお送りしています。まだ返事はありませんが、実現すれば、日本で最も早い保健師への研修会になるのではないかと思っています。