医者の世界は、エビデンスが重視されます。
科学的根拠という意味です。要は、医師のやることって職人芸みたいなところもあるので、経験や勘が重視されがちですが、それよりも何よりも科学的根拠という“証拠”を重視しようというものです。
私が医者になった20数年前は、エビデンスがそれほど重視されていませんでした。途中から、各疾患のおける「ガイドライン」が作られるようになりました。
ガイドラインとは、日本の第一人者が集まり、その疾患に対し、エビデンスに基づいた診断や治療、つまり適切な診療ができるようにした「ルール」みたいなものです。
いまは、サッカーのワールドカップが行われていますが、ルールがなければ、試合は成立しませんよね?。医療もルールが必要なのは明らかです。
ただ、医師の経験や勘が重んじられる部分が残っており、ガイドラインに沿った医療をしなくても、診察した医師の判断が重視されるという、摩訶不思議な“ルール”も存在しています。
お医者さんは偉いので、ルールを無視してもいいと言わんばかりです。こういう悪しき習慣が医師の間に存在するため、学会に行って最新情報を勉強しなくてもいいという勘違い医者が多く存在しているのも事実でしょう。
さて、そのガイドラインは遵守すべきものだと私は捉えていますが、食物アレルギーはまだ解明されていない部分も多く、エビデンスが足りない箇所も多く存在すると思います。
先日、日本小児アレルギー学会誌が私の手元に送られてきましたが、「食物アレルギーの診療の手引き2017」という冊子が同封されていました。
見てみると、「うーん」と思ってしまいました。食物経口負荷試験に基づいた栄養食指導と題された図についてです。
最近は当院が以前からやっているように、「少量」、「中等量」、「日常摂取量」の3段階に分けて負荷試験をし、アナフィラキシーを避ける努力が示されています。
以前はどうにでも卵焼き1個、牛乳200mlを目標の負荷試験を行い、アナフィラキシーが繰り返されてきました。言わば、医者の都合を押し付けるようですし、アレルギー症状は繰り返されますし、それに比べれば、いい傾向だと思っています。
この図の左端を見て欲しいのですが、「少量」で負荷試験をし、陽性なら「完全除去」と書かれています。
卵なら卵黄1個ないし、加熱卵1/32、牛乳なら3ml、小麦ならうどん2、3gと書いてあります。それを食べられなければ「完全除去」なのだそうです。
それなりに重症なレベルなのでしょうが、「完全除去」を推奨するエビデンスはどこにあるのでしょうか?。私の経験上の感覚で、それこそエビデンスはないのですが、重症な患者さんに「完全除去」を続けると、食物アレルギーがより重症化する恐れがあると思います。ですから、少しでも食べて慣れさせようとしているのです。
当院では、先程示した卵や乳、小麦の量が摂れない患者さんであっても、何らかのものを食べさせる努力をしています。つまり、「完全除去」にしないようにしています。
確かに少量で症状を起こす人は、口にしない方が“安全”なのかもしれません。ただ、除去を続けても一向に食べられない患者さんが多いのも事実でしょう。学会がエビデンス、エビデンスというのなら、「少量」摂れない患者は「完全除去」した方が治りやすいというエビデンスを出していただきたいものだと思っています。
果たして「少量」の設定も妥当なのかどうか?。もちろん目安を提示することは大事だとは思います。
エビデンスがハッキリしない中、五里霧中のように診療していかなければならない私のような開業医のために、もっとガイドラインを整備して欲しいと思っています。
