ずいぶん前のことですが、小児アレルギー分野のレジェンドである馬場実先生が「アレルギーマーチ」という概念を提唱されました。
多くのアレルギーの子ども達を診ていると、アレルギー疾患の発症には規則性があるというもので、0歳でアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、1歳頃ぜんそく、のちにアレルギー性鼻炎を発症していくというものです。
私もこだわって、アレルギーの子ども達を赤ちゃんから診ることが多いのですが、多くのケースでアレルギーマーチを実感しています。逆に、アレルギー診療に切っても切れないというか、いや必須という情報です。
アレルギー疾患で悩む患者さんは多いですから、多くの医師がこれに則って診療すべきだろうと考えています。ところが、現実は大きく異なります。
まず、アトピー性皮膚炎ですが、いつも書いているように、多くの小児科医、皮膚科医はアトピー性皮膚炎の診断は苦手なようで、“乳児湿疹”と言っています。多くのケースで、当院に逃げてこられるまで、乳児湿疹と「誤診」されています。
アトピー性皮膚炎から食物アレルギーを合併することが多い訳ですが、卵などを食べてじんましんが出るなど、食物アレルギーの存在が疑われる状況になって初めて、アレルギー採血が行われるようです。もしくは、じんましんが出て驚いて「食物アレルギーなら当院」と、かかりつけには行かずに当院に直行されることも少なくありません。
多くの医師が「経皮感作」という言葉は知っているでしょうが、目の前で診ている患者さんの湿疹をアトピー性皮膚炎と考えることはできないようです。
過少診断・過小治療ではアトピー性皮膚炎という慢性疾患は改善しません。そんな甘いもんじゃありません。最初は小児科にかかっていて、皮膚科に代えたり、またその逆だったり、いくつかの医療機関を転々とすることになります。
その間に「経皮感作」が悪化してしまうのですよ。医者達は自分の責任なんて何にも感じていない訳です。
そうこうしているうちに、痰絡みの咳がみられるようになります。多くの小児科医にとって「咳」=「風邪」ですので、何度通っても“風邪”としか診断されないようです。ゼーゼー言っても“気管支炎”とか言って、ぜんそくの存在を疑いもしません。
その頃には、鼻症状も長引くようになり、アレルギー性鼻炎の存在も考えなければいけない状況になっています。
以上のように、「アレルギーマーチ」は古い概念ですが、未だに現役で、アレルギーマーチを頭に入れて診療することは、アレルギーを診る上で不可欠だと思っています。
にもかかわらず、皮膚は皮膚科、咳は小児科、鼻は耳鼻科に行っているケースもあり、誰も責任を持ってトータルで診ようとしていないのも、日本のアレルギー診療の問題だろうと思っています。
親御さんにしてみても、2、3カ所も医療機関を回るのであれば、1カ所で専門的にトータルで診てもらえる方が有利ですよね?。親御さん自体も、医師を信用し過ぎて、アレルギーとはつゆ知らず、なんてことも多々あるようです。
多くの医者がアレルギーマーチを活用しないのが、不思議でなりません。アレルギーマーチを無視していれば、アレルギー診療に見逃しは出てくるでしょうね。
アレルギーは、多くのケースで驚くほど忠実にアレルギーマーチに沿って出てきますので、親御さんは自分の子を守るために、アレルギーマーチを活用していただきたいと思っています。