土曜に講演に行ってきました。かなりの手応えを感じた講演でしたが、この話は近々したいと思っています。
皆さんご注目の新型ワクチンについてですが、これまで新型ワクチンの予約を開始できない理由を、今回は違った形の説明でしたいと思います。こっちの方が分かりやすいでしょう。
三種混合、MRワクチンは潤沢にあるため、当院が業者に注文すれば、必要なだけの人数分のワクチンをすぐに納入してくれます。しかし、当院が三種混合やMRワクチンをいつも買っている業者からのルートでは、新型ワクチンは買えないのです。
今回の新型インフルエンザのワクチンは、「国策」として国がワクチンメーカーからすべてのワクチンを買い上げています。市場には全く出てきません。そのワクチンを国が各都道府県に分け、今度は新潟県が当院をはじめとする1400件もの受託医療機関に配分します。
今は県が、どの医療機関に何本分け与えるかを協議しているところなのだと思います。受託機関が最も知りたい「何日に何人分のワクチンが入荷するのか?」が全く分からないのです。それが分かって初めて予約が開始されるのは、当たり前のことですよね。現時点で、どの医療機関も“待つ身”なのです。
市内には1ヶ月も前から新型インフルエンザのワクチンの予約を取っている医院があるそうですが、以前は主要な総合病院のみでしか打てないなんて話もあったくらいなので、何の根拠もなく予約を取り始めていることになります。どの患者さんも予約をしたくてウズウズしているので、さぞかし予約もたくさん入っていることでしょう。足並みを揃えていないので、逆に患者さんの不安を煽っています。
ある市では「無責任に予約を取るのは、倫理上また業務上も問題があるので待って頂く」ことを決定しています。どの医療機関も予約に踏み切れない理由が、この言葉に集約されていると思います。ワクチンを多く引き受ければ収益は上がりますが、当院は予防接種を“ビジネス”を考えていませんから、当院も「詳しく分からないので待ってください」と毎日繰り返しています。だいたい、人の命や健康に関する医療に根拠のないことをするのは医師のモラルに関わるのです。
先日も上越市の各家庭に新型インフルエンザのパンフレットが配布されました。やはり11月2日から妊婦と慢性疾患を持った患者が優先的に接種されると書いてあります。しかし、11月の上旬には新型のワクチンの供給量が極めて少ないことには触れられていませんでした。
当院のホームページをご覧になっている方々なら、「あまり入ってこないみたいね」と知っているでしょうが、ほとんどのぜんそく患者さんがこんな情報を知らないので、11月に入ったらすぐに打ってもらえるものとお考えでしょう。こんな調子では医療機関は大混乱を起こすでしょう。
先日、県から「週に何人くらい接種できますか?」というやや的外れな質問が来た際、欄外に「当院ではぜんそくの子どもたちを大勢診ている」と書きました。それは当院のようなぜんそく患者さんが多く集まる医療機関には、11月だけは優先的に多めに配分してもらわないと困るからです。普通の小児科はぜんそくは当院ほどは多くいないでしょうから、12月になったら多く配分してもらえばいいのではないかと思います。
本来なら、国が慢性疾患を持っている患者を優先すると宣言している訳ですから、それは守ってもらわなければ、全くの本末転倒です。しかし、1400もある医療機関でどの医院にどれだけ基礎疾患をもつ患者さんを診ているのかを県が把握しているとは思えず、本当に的確に配分できるのかという不安は残ります。仮に11月上旬に当院に少なくしか配分されなかったにしても、文句を言ったところでワクチン自体が当初は足りないので、増量される訳でもないだろうと思っています。
その場合、各医院間でワクチンの貸し借りができたりするといいなと思います。当院は11月に多くの新型ワクチンを必要としています。一方、普通の小児科は12月14日からの1歳から小学3年までの小児が打つべき時になれば、多くのワクチンを必要とします。必要になるタイミングが異なるので、「貸し借り」ができればぜんそくなど基礎疾患をもった患者さんが救われる可能性が高まると思うのです。
何百人も診ている当院のぜんそく患者さんは誰でも私にとって大事ですが、ワクチンが少なくしか入ってこないという予想が当たった時、例えばたまーにしか発作を起こさないお子さんよりは、重症なお子さんを優先するのが人道的にも適切な判断だろうと思っています。
福岡の専門病院で研修させて頂いている時に、もっともその怖さを思い知らされたのが重症な「赤ちゃんのぜんそく」でした。より重症な乳児ぜんそくの子を担当させて頂きましたが、結局症状を安定させるのに6ヶ月の入院生活を余儀なくされました。その時に日本の第一人者の先生からアドバイスを頂きながら、治療していきました。赤ちゃんの重症なぜんそくの怖さを県内のどの小児科医よりも知っているつもりですし、治療の技術もそれなりに持ち合わせているつもりです。新潟に帰ってきても、1~2ヶ月入院治療が必要なぜんそくの赤ちゃんも何人も診ていました。
その当時からすると、ぜんそくの治療法が少し進歩してきており、ある程度は外来で治療することができるようになりました。開業してみて、いろんな年代のぜんそくの患者さんが集まってきています。ほとんどの患者さんは2週間もあれば、症状を落ち着かせられる自信はあります。しかし、治療法が発達したとはいえ、ごく一部の重症なぜんそくの赤ちゃんには苦労しています。真面目に通院して頂き治療しているにも関わらずです。ほんのちょっとしたことで、すぐにゼーゼーしてしまいます。
もともと乳児のぜんそくは気管支が細い、痰の分泌が多い、呼吸困難を起こしやすい、治療の反応が悪いなどの特徴があります。そんなお子さんがインフルエンザにかかってしまうと重篤な発作を起こし、入院してしまう可能性が高まります。
当院に通院中のほとんどの患者さんがゼーゼーはさほど繰り返していないと思います。私の経験上も、治療によりぜんそくの状態が落ち着いていれば、インフルエンザにかかっても重い発作は起こさない可能性が高いのです。以上の理由から、ガイドライン通りの治療をしているにもかかわらず、ゼーゼー言いやすいぜんそくの赤ちゃんを当院における新型ワクチンの最優先とさせて頂きたいと思っています。
こういったお子さんはごく一握りですが、最優先でワクチン接種をし、それが無事に済んだとします。その時点でまだワクチンが不足している場合は、自分の中でその次に優先したいのがアドエア、フルタイド、キュバールなどの吸入ステロイドを“連日”吸入しているお子さんです。オノン、シングレアなどの抗アレルギー薬を使っても症状が落ち着かないお子さんに、より強力な吸入ステロイドを上乗せしているので、重症度は1段階上になるのです。そしてその次が抗アレルギー薬を連用している患者さんとしたいと考えています。調子がよく現在抗アレルギー薬も止めているお子さんよりも優先されるはずです。
正直言って、私を頼って真面目に通院してくださっている患者さんたちには公平に対応したいと思っています。となると「“公平”って何だろう?」と悩むのです。
「ワクチンの数が少ない」、「新型インフルエンザの流行が迫ってきている」ことを考えると、当院から重篤な発作を起こすお子さんをなるべく出さないとなると、“治療内容”や“現在の発作の起こしやすさ”に基づいて判断せざるを得ないと思っています。
本当ならよーいドンで予約を取るのが、私の悩まずに楽なのですが、重い赤ちゃんが悪くなるのを知っていて、軽い患者さんが優先されてしまうのは、国の意向にも添わないし、理不尽だと思います。自分が楽をするために、適当に予約を取るのは医師として恥ずかしいことだと思っています。
どんな決め方でも、かかりつけの患者さんから不満の声は上がるだろうと思います。ただ、私がその怖さを知っている赤ちゃんのぜんそくで、吸入ステロイドを続けているにもかかわらず、呼吸困難を起こしやすいお子さんを最優先とすることはお許し頂きたいと思っています。
本来なら、当院のかかりつけの患者さんで接種を希望される全員に新型ワクチンを打つのが筋でしょう。しかし、当院にはかなり多くの上越市外からの受診があります。そういった方には「優先接種対象者証明書」に私がサインをすれば、他の医療機関で接種ができるそうですから、そうして頂こうと思っています。上越市内でも、当院で接種が遅れるようなら、先の証明書を書く用意があります。
季節性ワクチンであっても、当院で受けることができず他院で受ける予定の患者さんが、その医院の先生から「本当に打っていいのかどうか聞いてきて」なんて問い合わせを既に何件も頂いています。アレルギーの子はなるべく当院で対応すべきだとは思っていますが、患者さんの不利にならないよう、なるべく公平で各患者さんにベストとなるような選択をしていきたいと思っています。


