人間の社会には、ルールが必要です。
ルールに従えば、円滑な社会生活が送れるはずだと思っています。これには誰も異論はないことでしょう。
医療も同じですよね。どの医院も良心的に診療すれば、どこに行っても同等な医療が受けられます。例えば、インフルエンザにかかった場合、鼻水を調べて、インフルエンザ検査が陽性であれば、タミフルかリレンザというインフルエンザの特効薬を出してもらい、あとは薬を飲んで待つだけです。実は、何故か抗生剤の点滴を繰り返されたり、“親切”に発症していない家族分のタミフルを処方されたり、3日後に必ず再診するように勧められたりと、「おやっ?」と感じることもありますが、医療の方向性はほぼ同じはずです。
当院はアレルギーを専門にしていますが、毎日のようにアレルギー症状で困っている患者さんが受診されます。咳が止まらない、痒い湿疹が良くならない、食物アレルギーと診断されたが何を食べていいか分からない、といった理由が多いのです。
先日、某市からアトピーの患者さんが受診されました。某市の小児科にかかっていたそうですが、良くならなかったため、隣の市の皮膚科を勧められたそうです。一般的に小児科医は軽症のアトピーは対応できるけれど、重症になると皮膚科の先生に紹介することがあります。そこまでは良かったのです。その皮膚科は、噂では患者さんの数は他の皮膚科より多いようです。評判がいいはずです。しかし、一向に良くなりませんでした。当院初診時は、手足や体に直径2~3センチの盛り上がった湿疹があり、その全てを掻き壊し、血がにじんでいました。診察中も体中を掻きむしり、両手の5本の指は血だらけでした。
お薬手帳を見れば、努力の跡は伺えますが、良くなっていませんでした。あんな血だらけの患者さんを診たのはそう経験がありません。最初にみた時は、誰だってビックリするはずです。そこで疑問に思ったのは、ご自分の治療に限界を感じ、病院などの他の皮膚科の先生に紹介をしていなかったことです。
アトピー性皮膚炎のガイドラインには、1ヶ月程度治療してみて、良くならなければ皮膚科か小児科のアレルギー専門医に紹介するように明記されています。その先生はアレルギーの専門医ではないため、本当は紹介すべきだったと思います。
なぜ、当院に来られたかというと、ホームページをご覧になったそうです。小児科医から勧められた皮膚科医の方が、「当たり外れ」は少ないはずです。でも良くならなかったため、ホームページを見て一度受診したいと思って下さったようです。当院はウソは書いていないつもりですが、美辞麗句を並べ立てたホームページもあるので注意が必要です。
私の名誉のために触れておきますが、初診から1週間後に再診して頂きましたが、痒みは減り、指は血だらけではなくなっていました。診察室で狂ったように体中を掻いていたのが、ほとんど掻かずに、いい子におもちゃで遊んでいました。お母さんも手応えを感じて下さっているようです。
私から言わせれば、1週間で良くなる治療を選択しなければならないのです。今回のケースはたまたまかもしれませんが、普通ならアトピーの治療で皮膚科から小児科に戻ることはないでしょうが、そうとは限らないこと、医師にも技術の差があることを理解頂けたのではないかと思います。
難治なケースは、治療している医師本人も内心困っているはずですから、変なプライドを捨てて、より良い治療ができる医師に紹介すべきでしょう。それがルールなはずです。ある程度重症で、一生懸命通院しても良くならないと、成長とともに通院を諦める患者さんもいます。医師の責任もあるのだと思います。先程も述べた通り「1ヶ月程度治療して良くならない場合はアレルギー専門医に紹介する」というルールがあるのですから、守って頂きたいものだと思っています。
上越の養護教諭の先生を対象にアレルギーの講演をする日にちが迫ってきました。もちろん、こういった話をせざるを得ません。新潟県民は人がいいので、「お医者さんに診せておけば」と考える人が多いのですが、「専門医に診せなければならない」時代になっていることを理解して頂く努力をしなければなりません。地元では、専門でない先生からの紹介がまずないので、今回は市外の患者さんでしたが、上越市内にも困っているお子さんは多いと思っています。私の知識と技術がお役に立てればと思っています。
ところで、食物アレルギーの専門医に紹介しなければならないポイントって知ってました?。ガイドラインには以下のように書かれています。
1)適確な診断を求める場合
2)除去食、代替食を含む食事指導を行う場合
3)保育園、幼稚園、学校などにおいて、除去食の指示書を求められた場合
4)除去食を解除し、次第に通常の食事を導入する際の栄養指導を行う場合
5)アナフィラキシーなどに備えて、アドレナリン(エピネフリン)自己注射の処方ならびに指導を行う場合
よくよく見てみると、食物アレルギーがあれば、専門医にかかりなさいと書いてあるようなものです。“適確”な診断をするためには「食物負荷試験」が必要だし、食物アレルギーに関する知識が豊富で、エピペンを処方できる立場の小児科医でなければならないのです。となると新潟県全体でも数人しかいません。
そもそも、このルールを知っている小児科医はどれくらいいるのかと思います。ガイドラインは専門医でない先生のためにあると言っても過言ではないのに、おかしなことに専門医が中心に利用しているという変な現象が起きてしまっています。ガイドラインには、食物アレルギーの診断には「食物負荷試験」が不可欠と書いてありますが、専門でない先生は誰もやっていないのです。
当院で上越の患者さんを全部が全部を診ることは難しいのですが、それくらいの覚悟はあります。患者さんのことを思えば、専門医に診てもらうしか方法はないと思います。先に挙げたのが食物アレルギーの紹介のルールになっているので、養護教諭の先生にだけはよく把握しておいて頂こうと思っています。
ぜんそくも、ここ最近書いていますが、児童生徒では「運動誘発ぜんそく」は見逃すべきではありません。医師によっては「運動して苦しくなったら、メプチンなどの吸い薬を吸いなさい」と指導されているケースも少なくないと思います。でもこれでは後手後手の対応と言わざるを得ません。過小治療だからこそ、運動誘発ぜんそくが起きやすくなっていると思われ、こういう場合は速やかに専門医のもとを受診してもらうよう養護の先生にお願いするつもりです。この年代で「運動誘発ぜんそく」がよく見られるお子さんは、「呼吸機能検査」も悪いでしょうし、一般の先生では手に負えないケースだからです。
ぜんそくは感染をかぶると悪化しやすく、園児くらいだとRSウィルスが悪化要因となりやすいのですが、学童生徒だとインフルエンザやマイコプラズマにかかるとゼーゼー言いやすくなります。上越では半年でマイコプラズマに3回かかったとおかしな診断をされるケースも少なくなく、マイコプラズマの診断方法にも触れなければならないかもしれません。
昨日も触れたように、日々診療しているとアレルギーが軽んじられているように思えることを寂しく思っています。患者を紹介するのを死活問題と捉える医院もあるかもしれませんが、日本の第一人者の先生方が、患者さんにより良い医療を提供するために作ったのがガイドラインです。これを守って初めて、適切な医療ができるのだと思っています。各医師が専門分野を活かして、ガイドラインに則ったルールの上で協力するのが地域医療だと思っています。まずは養護の先生にアレルギーに関するルールを知って頂こうと思っています。


