小児科の開業医の印象って、感染症を中心にテキパキ診療するって感じだと思います。
往々にして、その“テキパキ”に落とし穴があると思っています。当院には毎日のように小児科にかかっているのだけれど、咳が止まらないという患者さんが受診されています。1ヶ月以上とか、咳が止まらないとおっしゃるのです。
話を聞いてみると、患者さんが多く受診されるようなところに通っており、いつも“風邪”と診断されています。さすがに1ヶ月も続くと親御さんの方が「おかしい」と思い、当院を受診されます。
私には1ヶ月も咳が止まらなくて“風邪”と診断し続ける感覚が分からないのです。多分、何度も通っていても、その都度、「咳」がメインの症状だと、風邪という先入観で診療しているのだと思います。症状が長引けば「慢性」の病気を考えなければなりません。先入観はタブーです。
アトピー性皮膚炎もそうです。“乳児湿疹”と診断されていますが、これも先入観が邪魔していると思います。薬をもらっても、たいてい改善しません。これはいつも言っている過小診断、過小治療が原因です。良くなっていないんだから通っている訳で、患者さんの訴えにキチンを耳を傾ければ、「自分の診断が間違っているのではないか?」、「薬の選択や塗り方が適切でないのではないか?」と振り返るはずだと思うのです。親御さんの方が「アトピーを疑って、今回受診しました」とおっしゃいます。申し訳ないですが、親御さん達の方が、よほどまともな感覚をお持ちだと思っています。
アレルギーに関して言えば、ひとりひとりの患者さんと向き合い、耳を傾ける姿勢が最も重要です。すべてがそうだとは思いませんが、混んでいる小児科での“テキパキ”が、適切な診断や適正な診療の邪魔をしている気がしてなりません。診察のスピードと診断精度は反比例する可能性は高いと思っています。また、重症で手間がかかる患者さん程、専門医に紹介すべきだと思うのですが、紹介状を書くのも手間がかかります。「これは専門家じゃなきゃ無理でしょう」というケースも紹介されていません。私の考える“良心的”な医療って、なかなか手に入らないものなんじゃないかと考えさせられます。
患者さんの訴えに耳を傾けることが大切と言いました。先日、受診された1ヶ月の赤ちゃんのお母さんは「ゼーゼーする」とおっしゃるのです。最近、子どものぜんそくは増えています。当院にはぜんそくで定期的に通院している患者さんは多いのです。しかし、1ヶ月でゼーゼーすることは、まずありません。
診察室で聴診をして、ゼーゼー言っているのが聞こえたとします。何度も繰り返していれば、ぜんそくを疑いますが、初めてゼーゼーいった場合、「これはぜんそくだろうか?」と悩まなければなりません。
新潟県には、ぜんそくの専門家もさほど多くありません。プロはぜんそくの時に処置として使う吸入を行います。吸入は即効性があるので、吸入後にゼーゼーが聞こえなくなれば、ぜんそくの対処法が有効と判断されます。つまり、ぜんそくの病態が隠れていると考えられます。こういう駆け引きが大事だし、プロのテクニックだったりします。
診察室でゼーゼーが聞こえなければ、よく考えなければなりませんし、問診が大切です。ここで「ゼーゼーしていないから、風邪です」という小児科医があまりにも多いのです。逆に「ゼーゼーいう風邪ってあるんですか?」と聞きたいのです。親御さんには「お子さんの何倍も生きてきて、ゼーゼーしたことありますか?」と聞いています。ほとんどの方が「いや、ないです」と答えます。異常なことが起きている訳ですから、そこで“風邪”と思った時点で、思考停止してしまいます。
いつも悩むのは、親御さんの言う「ゼーゼー」と私の思う「ゼーゼー」は同じなんだろうか?ということです。その認識が異なると、すべてを間違えてしまいます。いつ頃から聞こえ始めたか?、痰が絡む咳が出るのか?、時間帯は?、ゼーゼーいう時の状況、ゼーゼーは息を吸った時に聞こえるのか、吐いた時に聞こえるのか?などを最低でも聞かなければなりません。
先の赤ちゃんですが、生後1ヶ月で普通はぜんそくを発症しませんから、「何だろう?」と悩む必要があります。
生後1ヶ月は風邪などにかかりにくいですが、RSウィルスは特別でいとも簡単にかかってしまいます。それはお母さんのへその緒からもらった免疫が効かないからです。最近は流行期が終わっているので、ほとんどみなくなりましたが、RSウィルスも調べる必要があります。ただ、検査すると費用が医院の持ち出しになるため、調べない医師がほとんどです。
診察時に、たまたま泣いてくれて、息を吸った時にかすれたようなゼーゼーを聞くことができました。お母さんの話では、生まれて間もなくからこんな「音」がしていたのだそうです。
ここで考えなければならないのは、先天性喘鳴という病気です。のどの奥が生まれつき狭い部分があり、強く呼吸した時にゼーゼーと聞こえる病気です。この場合、息を吸った時に聞こえます。
実は、少し前のことですが、別の小児科で「先天性喘鳴ではないか」と説明されていた患者さんが、良くならないと当院を受診されました。急に聞かれても答えられないでしょうが、ゼーゼーは息を吸った時か、吐いた時かよく分からないと言われました。「じゃあ、そのゼーゼーをビデオに撮ってきてください」と言ったら、「ビデオは持っていません」と言われました。「耳鼻科で喉を奥を調べてもらった方がいい」と説明したのですが、結局は様子をみたそうで、あとで聞いたら「徐々に聞こえなくなった」と言うことでした。本当はおかしいと思った時点で、「何が起きているのか?」と考えて、精査をすべきだったと思います。
今回の患者さんは、私が最初から診ていましたから、病院の耳鼻科の先生に紹介状を書きました。先日、返事があり、のどの奥に弱い部分があって、呼吸の時に震えるのだそうです。それがゼーゼーの原因だろうというコメントでした。成長とともに気管も太くなるし、ゼーゼーしなくなる可能性が高いと思います。これに関しては耳鼻科の先生に経過を追って頂くことにしました。こういう場合は、腕のいい耳鼻科医と連携することが大切になってきます。
耳鼻科に紹介した後、お母さんには会っていませんが、ゼーゼーが心配だったでしょうが、原因が分かり、しかも成長とともに治る可能性が高いことが分かり、ホッとされたと思います。他院でみられていたケースも結果的には、同じ病態だったと思いますが、しかるべき時に精査をしなかったことが不安を招いたと思っています。
ゼーゼーにもいろんな原因があるし、安易に風邪などと決めつけることは適切な医療からは外れてしまいます。食物アレルギーだけでなく、「3分診療」だと真実は見えてこないと思っています。やはり医療の基本は、患者さんの訴えによく耳を傾け、「なぜそういう症状が出るのか?」と考え、冷静に診断することが大切なのでしょう。「オレが何とかしてやる」って気持ちも欠かせないと思いますが、場合によっては紹介状を書き、専門医と連携して、より真実に近づき、患者さんに安心を与える姿勢が重要なのだと思っています。


