話は、2月13日の東京で開催された食物アレルギー研究会に遡ります。
私が新潟県の食物アレルギー事情について報告し、日本の第一人者の先生方に新潟に講演に来て、啓発活動をして頂きたいという旨の発表をさせて頂きました。その会場で、NPO法人アレルギー支援ネットワークさんから声をかけられました。「今度、新潟でプレアレルギー大学をやるので、食物アレルギーの話をして欲しい」というものでした。
アレルギー支援ネットワークさんは、愛知県を拠点に東海地方を中心にアレルギーについて啓発活動をしていらっしゃいます。そのひとつが「アレルギー大学」です。食物アレルギーについて医学的だけではなく、栄養学、食品学、調理学的な側面からも広く学ぶことができる場を提供していらっしゃいます。つまり各分野の食物アレルギーのエキスパートを育成するのが目的です。
実は、愛知県には日本を代表する食物アレルギーの専門医が何人かいらっしゃいます。そんな先生方から比べると、私なんてまだ“ペーペー”です。講師はなるべく地元からという方針だそうですが、「私なんかが話していいの?」ってずっと思っていました。「かなり見劣りするな..」とも考えていました。
私が福岡のアレルギーの専門施設で学んだことはご存知でも、私がどんな話をするのかは未知数だったはずです。それでも依頼されたからには、アレルギー支援ネットワークさんのニーズに合った話をするのがプロだろうと思っています。
ずっと頭の中で構想を練っていました。新潟県の小児科医の中では、小さな勉強会も含めれば、私が最も多く食物アレルギーについて話しているだろうと思っています。でも今回は、それだけじゃダメだろうと思っていました。今まで話した中でベストの講演をしなければならないと自分にプレッシャーをかけ続けていました。
4月下旬から発表のスライド作成に取り組み始め、ほぼ出来上がったのが5月10日でした。当初はあれもこれもとアトピー性皮膚炎も小児ぜんそくの話もしようと意気込んでいました。でも講演時間が2時間あっても足りないくらいのボリュームでした(汗)。結局、その後の打ち合わせの中で講演時間が1時間そこそこということになり、となると食物アレルギーに絞った内容にせざるを得ませんでした。
またそこから悩みました。食物アレルギーのメインの2つのタイプは「食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎」と「即時型の食物アレルギー」です。後者は卵やソバ等でみられる一般的なタイプです。一方、前者は皮膚科や非専門の小児科の先生があまり認めていない病態であり、一般の方に理解しやすいように説明するにはどうしたら良いだろうと、さまざまな食物アレルギーの本を読みあさり、「この図は使えるかな?」などと試行錯誤していました。平日の診療が終わって疲れた体では、スライド作成は思った程はかどりませんでした。
食物アレルギーの診療は、「食物負荷試験」なしには不可能と言われています。新潟県はキチンとやっている小児科は極めて少なく、つまりほとんどの患者さんが正しい管理をされていないといっても過言ではありません。
当院のやっている負荷試験のデータをお示しし、アレルギー検査が悪くても必ずしも卵なら卵全てを除去すべきではないという証拠を示そうと思いました。確かにアレルギー症状が誘発されることもあります。当院での実績ではアナフィラキシーはほとんどなく、的確な知識と技術と経験があればかなり安全性を持って負荷試験ができることを理解して頂く必要がありました。カルテを一人ずつ広げて、データを抽出し、参加者の皆さんに分かりやすく数字で示そうと思いました。
そんな中、また問題が…。当日はマスコミの取材が入り、私の講演を撮影するというのです。小心者の私は、より一層プレッシャーがかかります。しかも、当日のスケジュールがタイトで、講演、質問も合わせて1時間半の時間厳守と言われています。ほぼ完成したと思っても、また「あれが足りない、これも入れたい」となり、切りがありません。ただ、刻々と23日が迫っています。
ちょっと恥ずかしいのですが、発表前日の22日の夜にこっそりと3回練習しました。緊張で上がっても、自分の言いたいことを頭に覚え込ませるためです。それだけでも合計で3時間かかりました(汗)。
そして本番の23日を迎えた訳です。当初は3~40人も集まればという予想だったのですが、100人以上入る会場が一杯になりました。練習の成果もあってか、思った程の緊張もなく、いい“緊張感”の中で質問も含め1時間半を終えることができました。終わった後、アレルギー支援ネットワークさんからは「良かったですよ。時間もぴったりだったし。」とお褒めの言葉を頂きました。そこで「やっと自分の任務を終えることができた」と思いました。
これまではレベルの決して高くない新潟県の食物アレルギー事情を「一人でも何とかしてやる!」と思ってはいましたが、ちゃんと理解のある協力者がいれば、「こんなに簡単にイベントを成功させることができるんだ」と実感しました。
イベント終了後、別の講演の依頼や新潟市のアレルギーの患者会の方とも話ができました。今回のイベントで「新潟を変えられる」という手応えを感じることができました。思ったより多くの参加者があり感激しましたし、ご協力頂いたスタッフの方々には感謝しております。
私の講演後に、テレビ局から取材を受けました。それだけは緊張してしまい、どう答えたかあまり覚えていませんが、「食物負荷試験」を広めたいと言ったことはおぼろげに覚えています(笑)。
今度、当院に「食物負荷試験」の現場を取材に来られるそうです。これは新潟県の放送史上、初めてのことになるでしょうし、テレビの力がどれだけのものが楽しみですが、これを皮切りに新潟県の食物アレルギーで苦しむお子さん達が「食物負荷試験」を受け、除去食品が必要最小限になることを切に願っています。


