以前、リン酸コデインという麻薬系鎮咳剤の話をしました。恐い名前ですが、有り得ないようなひどい咳の時には使うことがあります。
もともとぜんそくのあるお子さんなのですが、咳が長引いていました。ある小児科でまず抗生剤や咳止めが出され、それでも止まらなかったためにそのリン酸コデインが処方されていました。最終的にはぜんそくの悪化だろうとフルタイドという吸入ステロイドが出されていました。
当院はぜんそく、呼吸器にこだわっているため、他院で咳が止まらないと当院を頼って受診して下さるケースが多いように思います。今回も「これは」と思い、ご家族の判断で受診して下さったようです。
咳が長引く場合、ほとんどのケースで良くなっていないのに同じ薬が出されています。いつも言っている通り、良くならないのに同じ薬を出し続けるのは、医師として“マナー違反”だと思っています。「良くしよう」と思っていないと言われても仕方ないと思います。その点、この患者さんの場合はその先生の苦労が忍ばれます。
リン酸コデインもフルタイドもある意味、強い薬の部類に入ります。患者さんは「強い薬」と言うと「えっ」と思う方も多いでしょうが、特にリン酸コデインはごく稀に必要なケースで使わなければならない場合もあるのです。ただし、キチンと強い薬を使うだけの根拠を持たなければなりません。
そういった薬を使ったにもかかわらず、それでも咳は止まりませんでした。良くならなければ、自分の方針が間違っているのではないか?と立ち止まって考えてみて欲しいのです。ただ、自分が間違っていると考えるのは、ちょっと勇気のいることかもしれません。
私の場合、この患者さんには「心因性咳嗽」といってお子さんのストレスが“咳”という形で表出する病気と考えました。プロなら咳を聞けば疑うのは難しいことではありません。強い薬を使って良くならない場合は、当然頭に入れておかなければならない病気のひとつなのです。
このお子さんを取り巻く環境を聞いてみると、咳の原因であろうストレスが予想できましたので、ご家族にその対処をお願いしました。そして2週間後に再診して頂きましたが、「咳はピタリと止んだ」と喜んでおられました。何でもかんでも症状を薬で抑えられる訳ではないことを再認識させられるケースだと思います。これで診断は心因性咳嗽と確定していいと思います。
初診された時に明らかにぜんそくの咳ではないと分かっていましたが、ご家族の努力もあり予想通り咳は止まりました。心因性咳嗽と確定し、フルタイドなど不要な薬を中止しました。その後時々様子をみせに受診して頂いていますが、もちろん止めても咳の悪化は見られていません。
ここで、親御さんはお子さんのことをまだ子どもだと思っていたと思うのですが、予想以上に“大人”だということが分かりました。よくよく話を聞いてみると、同年代のお子さんよりは周囲に気を遣うタイプのようです。ということは、親御さんにストレスをかけるつもりはありませんが、より繊細に接していかなければならないのだろうと思います。
当院にはこれまで時々「心因性咳嗽」と診断した患者さんを診ていますが、それまでかかっていた医院では“風邪”などの気道感染と診断されていました。その患者さんが初診した際に、当院のスタッフは「この咳おかしいな」とだいたい気付いてくれています。つまり医師でなくても病気を知っていれば、診断は難しくはないのです。そもそも、「咳」=「風邪」と決めつけられていることが多く、だからぜんそくや心因性咳嗽が見逃されることが多いように思います。
例えば、心臓や神経などの病気が見つかると専門医に紹介しようと考える小児科医が多いと思うのですが、咳が止まらない状態が続いても「風邪が長引いている」などと説明され、紹介もせず様子をみられているケースがあまりにも多いと感じています。「咳」は日常的にみられる症状のひとつなので、軽んじられている気がしてなりません。このお子さんが心因性咳嗽と聞いて、前に診ていた先生はビックリされると思います。子ども達のSOSに気付く配慮も必要だと思うし、さらに病んでしまう前に早めにご相談頂ければと思っています。


