小児科医の存在意義は「子ども達の健康を守ること」にあると言っていいでしょう。
私はアレルギーを専門にしています。小児科医は子どもの病気全般を扱わなければなりませんので、アレルギー以外の分野で頑張っている先生方も多いと思います。
私がアレルギーの専門施設で研修させて頂いて驚いたのが、アレルギーという学問の奥の深さでした。毎日のようにこの場で偉そうなことを書いていると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、まだまだ分からないことだらけです。知りたいことが沢山あります。
医師を長くやっていると、様々な経験を積むことができます。医師の世界も経験年数が物を言うことも基本的には真実だと思います。しかし、専門分野となると話が違ってくると思います。たとえば、食物アレルギーは血液検査の結果が高いとその食品は食べないように指示する小児科医がほとんどだと思います。結局、そのやり方ですと検査値が下がるのを待つしかない訳です。逆にベテランの先生程、そういう対応に慣れていると言っていいかもしれません。
近頃、食物アレルギーの患者さんには、まだ一握りの小児科医ですが、「食物負荷試験」が積極的に行われてきています。「食物負荷試験」をやっている医師は、アレルギー検査の値が陽性であっても食べられる可能性が高いことを知っています。「食物負荷試験」は最近少しずつ広まってきているので、経験年数が多くても実際に負荷をやっていない医師にとっては“未知の世界”でしょう。
ある程度専門的知識を持つと、過去の自分のレベルの浅はかさを思い知らされます。私よりも若い先生の場合、医師としての経験年数は私の方が上の訳ですが、別の分野を専門に頑張っている先生にはかなわないと思います。その分野においても自分なりに努力することも大事だと思います。しかし、アレルギー以外の分野も当然奥行きは深いので、その分野を志して日々こだわりを持って勉強している先生にそう簡単にかなうはずもないと思っています。
ですから、簡単に諦めているつもりはないのですが、これは自分の手には負えないと思ったら、その分野の先生に紹介しています。経営面を考えると、開業医は一人でも多くの患者を集めることが重要かもしれません。なかなか手放そうとしない医師もいるのも事実でしょうが、私は知ったかぶりをするつもりはないし、患者さんにベストの選択をするのが“良い医療”だと思っています。紹介状を書けば、返事をもらえますので、「へー、専門家はこう治療するんだな」と分かるし、自分の知識を増やすことができます。
そんなまだ未熟者と言っていい私の元を、毎日アレルギーで困っているお子さんが受診して下さっています。私には知識も経験も充分ではないと思っていますが、初心者ではないと思っています。それなりの心得は持っているつもりです。
先日、ゆで卵をちょっと食べて皮膚症状が出たという理由で新型インフルエンザのワクチンを断られた患者さんが当院を受診されました。別の病院に行っても、同じことを言われたそうです。
確かにアレルギーの体質のある子は、ない子どもに比べて予防接種をした際のアナフィラキシーを起こす確率は高くなります。しかし、さほど頻度が高いとは思いません。これも私の専門分野だからかもしれませんが、断る理由が分からないのです。
小児アレルギー学会では、卵アレルギーの強い子に卵の成分が微量に含まれるとされるインフルエンザや麻疹ワクチンを接種する際、皮膚テストをするように推奨しています。そのお陰で、私は卵アレルギーの重症なお子さんにも接種を断ったことがありません。これまでは特に強い症状が出ることもなく、無事に接種を完了しています。
今シーズンは新型インフルエンザでだいぶ騒がれましたので、親御さんも是非ともワクチンを受けさせたいと考えていらっしゃいました。その期待に応えようとするのが小児科医の役目だと思っています。「皮膚テストをする」、もしくは「できる医者に紹介する」のが親切だろうと思っています。ちなみにその患者さんは、もちろん接種を済ませましたし、新型インフルエンザにかかることもありませんでした。それ以来、何かあると当院を頼って下さっています。
医師は自分の身を守ることも必要でしょうが、期待に応える努力をする方がもっと大切だと思います。できそうもなければ、その次にどうすべきかアドバイスをすることが重要だと思います。


