「何でもマイコプラズマという医師がいて困る」
以前、県外の小児科医で呼吸器、アレルギーを専門にしている先生にマイコプラズマ(以下、マイコと略す)の検査について相談した時に、そうおっしゃっていました。
他の医療機関でマイコと診断されて、点滴に通うように指示されたにもかかわらず、症状が改善せずに当院を受診されるケースはよくあることですし、この場でも繰り返し触れています。私と似たような経験をされている先生は他にもいるんだなと思いました。
ネットで調べてみると、患者さんの書き込みで、最初にかかった医師にマイコと診断されて、治療しても良くらなかったために、総合病院にセカンドオピニオンで相談に行ったら、今度はマイコではないと言われて、患者さんが困り果てているというものがありました。
マイコは決して珍しい病気ではなく、子どもがかかることが少なくないため、小児科医はなるべく的確に診断できなければならないし、プロであるはずです。しかし、先の例のようになぜ医師により診断が異なるのでしょうか?。病気には診断基準があることが多く、その基準に照らし合わせてみれば、医師の間で診断が異なることはないはずです。
私の経験したお子さん達は、血液検査をやった上で、マイコと診断されているようです。一般的には検査が間違いないと考えがちです。治療して良くならなければ、自分の診断が間違っていないか見直さなければならないはずなのに、「最近は薬の効きの悪いマイコがいる」と説明され、同じ薬を繰り返し点滴されているケースすらあります。医師も結果を信じ切っているのでしょう。
マイコに一部、耐性菌といってクラリスやクラリシッドのような一般によく使われる抗生剤の効きが悪いケースがあります。そういう時は、年齢も考慮に入れないといけませんが、ミノマイシンといった抗生剤を使うと有効のことが多いと言われています。内服で充分に対応できます。
当院は、上越の地でアレルギーの他に呼吸器の病気にもこだわって診療しているつもりですが、耐性菌と思われるケースはほとんど経験していません。勤務医時代にマイコが重症化し、入院治療が必要だったケースも経験はありますが、滅多にないと思いますし、そもそも開院以来、マイコで点滴したことは一回もありません。
こんな経験もあります。ある小児科で頻回にマイコと診断され、点滴を繰り返すにもかかわらず改善しないため、患者さんが鼻が悪さをしていると考え、耳鼻科を受診したところ、鼻が原因とは考えにくく、また「マイコはそんなに繰り返す病気ではないよ」と教えられ、当院の受診を勧めて下さったそうです。
マイコは、耳鼻科の先生にとっては専門外と言っていいと思います。本来なら、小児科医の方が詳しいし、よく診てるはずです。私も、マイコはそんなに繰り返す病気ではないと認識していますし、詳しく問診し、診察したとところ、ぜんそくであることが判明しました。それにしても、この耳鼻科の先生はよく勉強されている、すばらしい先生だと思います。
私がぜんそくと診断し、ぜんそく特有の治療をして症状が改善すると、患者さんは私の判断が正しいと納得して下さいます。こういうケースでは、マイコでなかったことが明らかです。
さて、これだけマイコの診断が医師の間で異なっている訳ですが、どうしてそうなるのか理由を考えなければなりません。
最近は、連日どの医療機関でもインフルエンザの迅速診断が行われていると思いますが、インフルエンザの場合、的中率は80~90%と言われています。結果にそれなりの信頼を置いていいと考えて良さそうです。この検査結果を元に、我々医師はインフルエンザを診断し、タミフルなどの薬を処方しています。
マイコの検査は、インフルエンザのように鼻水をもらって調べる方法は実用化されていません。2種類の血液検査がよく行われると思います。ひとつはIgMという抗体を調べる迅速診断で、当日のうちに結果が出ます。もうひとつは、PAと言われるやはり抗体を調べる方法が主流ですが、検査会社に外注で出すため、迅速という訳にはいかず当日には結果が出ません。
IgMを調べる方法は、当日に結果が出るというメリットは大きいのですが、以前も触れましたが、デメリットも少なくありません。つまり、発症してもすぐには陽性にならないこと、場合によっては1年も陽性が持続してしまうと言われています。何度もマイコと診断され、マイコ用の抗生剤を点滴されても効果がないのは、このことを表しているのだと思います。つまり、迅速検査の的中率がインフルエンザほど高くないのでしょう。実際、専門医の間では、正確な診断をする時はこの検査法を用いていないと聞いたことがあります。
もう一方のPAという検査法は、病初期と少し間をおいての2回調べ、抗体が40倍から160倍、80倍から320倍というように4倍以上はね上がっていれば確定できると言われています。これが最も確実な診断する方法とされています。1回調べて320倍以上なら、それをもって診断してもよいとする考えもあるようですが、320倍以上が数ヶ月持続するケースの報告もあり、先の抗体の値が4倍以上の上昇というのが正しい判断法です。
迅速検査も有効な場合もあるのでしょうが、前医でマイコと診断されていても、当院でPA法の検査をすると全く上がっていないことを何度も経験しており、個人的にはあまり信用していなません。PA法は院内ですぐには調べられないため、マイコに限っては、インフルエンザのような「迅速診断」は難しいと考えております。もし採血した当日にマイコと診断されて、治療しているにもかかわらず、改善がなければPA法を検査した方がいいのではないかと考えています。
先日、「私がマイコと診断された」というお母さんがいらっしゃいましたが、抗体が80倍という結果だったそうです。先の基本からすると、1回の検査で80倍ならマイコの診断は確定できないことになると思います。正常値が40倍未満ですから、やや上がってはいますが、以前かかった時の抗体が少し残っているだけかもしれず、間を空けて調べて80倍のままなら、「マイコではない」と診断できるはずです。
ぜんそくやアトピーの診断に診断基準があるように、マイコにも今日書いてきたような基準があります。それに則って診断されるべきでしょう。IgMの迅速検査のデメリットを分かっていないと、無駄に点滴治療に通わせることにつながりかねません。これがマイコの診断が医師によって異なってしまうことにつながっているだと思っています。
お子さんの通う園で「マイコが流行っている」という情報をよく耳にしますが、正直言って「本当だろうか?。どうやって検査しているのだろう?。」と思ってしまいます。実際、詳しく問診し、マイコではないだろうと判断されれば、マイコの治療はしませんし、ほとんどのケースが症状はじきに改善していますから、その噂の信憑性はどうなのだろうと考えています。
園の先生方もマイコの検査をする医療機関へ行って「マイコかどうか検査してもらって下さい」と勧めているケースもあるようですが、医師や親御さんだけでなく、子どもを扱う職種の方々もマイコの迅速検査の限界を知って頂きたいと思っています。マイコでないのに、疑われて点滴という痛い思いをさせるのは、極力避けたいものです。
どの医師も100%正しい医療はできません。私だって日々反省しています。でも正しいことをしようとする気持ちは医師である限り、ずっと持ち続けなければならないと思っています。


