真面目に診療していると、患者さんがいい噂を流してくださるようです。
先日、某市から耳鼻科でぜんそくと診断されていないのに、ぜんそくの治療をされているお子さんが当院を受診されました。
耳鼻科のフルネームは耳鼻咽喉科です。文字通り、耳と鼻、咽頭、喉頭のスペシャリストです。喉頭とはのど仏の辺りを指します。つまり、のどより上が守備範囲と言うことです。中には優秀な先生もいらっしゃるかもしれませんが、のどより下が気管、気管支になりますので、いわゆる(気管支)ぜんそくは専門でない分野だと思います。
では気管支は誰が診るのかと言えば、成人なら呼吸器内科、子どもなら小児科だと思います。ただ、いつも言っている通り、アレルギー専門でない小児科医で、ぜんそくを“風邪”と診断している医師もいます。技術のある医師がしっかりと管理、治療する病気だと思います。
そのお子さんは4歳でした。ぜんそくと診断されていないのにもかかわらず、アドエアという重症ぜんそくの治療に使われる薬が使用されており、スペーサー(後述)は使われておりませんでした。
この文章に中にいくつものおかしな点があるかは、小児科のアレルギー専門医でなければ分からないと思います。まず、いつも言っているように、ぜんそくと診断されていないにもかかわらず、軽症を通り越して、最重症のぜんそく児に対する治療がなされています。ぜんそくは慢性疾患のため、まず診断を付け、それから重症度を見極めてから、その重症度に合った治療法を選択するのが普通です。
アドエアとは、吸入ステロイド薬と気管支拡張薬の2種類混じった吸入薬です。重症だと、常に気管支が狭くなりたがっているので、気管支拡張薬で気管支をこじ開けると、呼吸が楽になるのです。しかし、重症でなければ使う根拠がありません。そもそも小児ぜんそくのガイドラインには“5歳以上”の重症患児に使うべきと明記されています。
この吸入薬は、ボタンを押すとシュッと霧状の薬が出てくるタイプの薬になっています。口元にくわえて、ボタンを押しても一瞬出る薬を大人のようにうまく吸えるものではありません。だいたい大人でもスペーサーを使わないやり方は推奨されていないのです。スペーサーとは、霧を容器の中に噴霧し、容器の脇についている吸い口をくわえてゆっくり吸えば、吸入の効率が上がる訳です。4歳の子にスベーサーを使わずに、吸入させる方法は有り得ないと言っていいでしょう。
もともと5歳以上に使われる薬なのですが、キチンと吸えていれば、ぜんそく症状はピタリと止まらなければなりません。過剰治療ですが、効かないはずはないのです。しかし、スペーサーを使っておらずうまく吸えていませんでした。その結果、時々発作を起こし、ステロイドの内服が処方されていました。ぜんそくにステロイドの内服は安易に行うものではなく、これもぜんそく治療に精通した医師が使うものとされています。
残念なことに、治療をして良くならなければ、どこかが間違っていると考えるべきだと思います。しかし、ステロイドの内服が時々処方されていました。そこまで余裕がなかったのでしょうか。
耳鼻科の先生でもキチンと理解して治療している医師もいるとは思います。実際、私の地元でも、長引く咳でこどもの医院に通い、その都度マイコプラズマと診断されていましたが、それ用の治療をしても良くならないため、今回とは別の耳鼻科に相談に行ったそうです。「マイコプラズマを繰り返すのはおかしいので、ぜんそくがあるかもしれない」と判断され、当院への受診を勧めてくださいました。当院で詳細な問診と診察の結果、ぜんそくと診断され、ものの1週間で症状は軽快したということがありました。小児科医以上に優秀な耳鼻科医も存在するのです。
最近は小児科医の間でも、アドエアが過剰と思われるケースで処方されているのも散見されます。過去にぜんそくで死亡例が急増した際にも気管支拡張薬の乱用が指摘されており、確かにアドエアはいい薬ですが、本当に必要な患者さんに使うべき薬なのです。
経験豊富な専門医が、同じ轍を踏まないように示したしたものが「ガイドライン」なのです。小児アレルギーの専門医だけが子どものぜんそくを診られるのなら必要ないものでしょうが、専門でない先生も診ています。やはりルールに沿った、同じ方向性を持った治療がなされるべきでしょう。子どものぜんそくを治療するなら、最低ガイドラインの大筋を頭に入れておかないと、今回のような事態が起きてしまうのでしょう。
ちなみに、今回の患者さんは当院で、軽症の治療をしていますが、初診以来安定した状態が続いています。初診時に充分説明し、親御さんは相当落ち込んでいましたが、今は喜んで当院に通院してくださっています。今回は、アレルギーの専門医に紹介すべきだったのは明らかだと思っています。
ぜんそくのガイドラインができて10年以上経ちますが、新潟ではアレルギーの関心がイマイチ高くないので、なかなか浸透していません。食物アレルギーだけでなく、ぜんそくもアトピー性皮膚炎もガイドラインに沿わない“我流”の対応で良くならずに困っている子ども達がとても多いのが現状です。この場で問題点を提示し、正しい知識の啓発を行っていなければならないと思っています。


