食物アレルギーで最も避けなければならない状況は、間違いなく「アナフィラキシーショック」でしょう。
血圧が下がるという生命の危機的な状態ですが、食べ物を食べるという何げないことで起こり得るのです。その一歩手前の状態を「アナフィラキシー」と言います。一般的には皮膚症状と呼吸器症状(咳込みやゼーゼー)、皮膚症状と消化器症状(嘔吐、腹痛)というように2つの臓器に分かって症状が出てしまう状態を指します。
アナフィラキシーで症状が強めに起こった時は、アドレナリン注射の適応になります。アドレナリンはどの診療所にもあるような薬ですが、それを患者さん自身が注射できるようにしたものが「エピペン」です。食物アレルギーで死亡することは実は稀ですが、生命の危機を一気に改善させるのがエピペンであり、自費診療のため1本1万円と高いですが、食物アレルギーでアナフィラキシーを起こしたことのある患者さんは持っておいた方がいいと言われています。
しかし、いつも言っているように、食物アレルギーの専門医は非常に少なく、アナフィラキシーを起こして病院に担ぎ込まれても、アドレナリンをキチンと使用できる医師は少なく、ステロイドや抗ヒスタミン薬の点滴が優先的に行われていることが多いように思います。
このエピペン、どの医師も処方できる訳でなく、使い方を研修していないと処方できない決まりになっています。上越で処方できる小児科医は2~3人でしょうか。アナフィラキシーを起こしても、当院に紹介されることもなく、エピペンも処方されていないケースがとても多いのです。敢えて言えば、食物アレルギーの患者さんは多いのに、適切な対応がなされていないケースが少なくありません。
今月上旬に行われた小児アレルギー学会で言われていたことですが、学校でお子さんがアナフィラキシーを発症したそうです。県外の患者さんで、きっと専門の先生が主治医だったのでしょう。エピペンが処方されていました。
これまではエピペンを使えるのは本人と親だけでしたが、救急救命士は打つことができるようになり、学校で起こした場合は、学校の先生も人道上の問題で打つことが許されています。
その患者さんの場合、学校の先生が打てず、救急救命士も打てず、病院に搬送されました。そこで初めて、小児科医がエピペンを使用したのだそうです。「やっぱり医師が打ってくれたんだ」とお思いでしょうが、病院には保険で認められたアドレナリンがあるにもかかわらず、1万円のエピペンが使用されたのです。
本来なら、病院のアドレナリンを優先しないと、家族にしてみれば1万円の出費になってしまいます。結局、小児科医がアナフィラキシーの対応に慣れていなかった証拠でしょう。ある意味、日本の食物アレルギーに対する医療が充分でないことを表しているエピソードと言えるでしょう。
当院に来られた患者さんで、エピペンを既に処方されている患者さんは見たことがありません。中には冒頭に述べたアナフィラキシーショックを起こし、意識がなくなった患者さんに対してもエピペンが処方されておらず、当院にも紹介すらありませんでした。それを聞いた私の方がショックを受けたくらいです。
当院で診ている卵アレルギーのお子さんで、先日弁当を食べてアナフィラキシーを起こし、上越市の方でないため、地元の病院に救急搬送されたそうです。原因は分からなかったそうですが、卵アレルギーと考えています。実は弁当の中に、卵焼きが入っていて、当然それを除いたのですが、卵焼きと隣り合わせだったおかずに卵成分がしみ出し、それを食べたがためにアナフィラキシーに至ったと考えています。
その時の症状が体に蕁麻疹が広がり、呼吸困難も見られたそうです。親御さんもそれをみて、あれよあれよという間に重いアレルギー症状を起こしてしまい、ビックリされたと思います。この患者さんはアナフィラキシーまで起こしたことがなかったので、私が診ていたとは言え、エピペンは処方していませんでした。
ちなみに、搬送された病院ではキチンとアドレナリンの注射も行われていました。キチンと対応できる小児科医もいることはいるです。逆に言えば、それくらい重かったとも言えるでしょう。
タイトルのセリフは、自宅でアナフィラキシーを起こした際に、親御さんがそう感じたものです。救急搬送されながら、「アナフィラキシーを改善させるような薬があるといいな」と思ったそうです。
新潟県はエピペンを処方できる小児科医が非常に少ないため、当院が処方せざるを得ない状況です。残念ながら、小児科医からの紹介はないため、お子さんが強い症状を起こしてしまい、親御さんが「何とかしたい」と思って当院に相談して、初めてエピペンの存在を知り、処方されるのです。新潟県の食物アレルギー情勢もまだまだと言わざるを得ません。
親御さんから弁当を食べて、アナフィラキシーを起こした状況をお聞きし、エピペンを処方すべきだと思いました。まずエピペンの使い方のDVDを貸し出し、一通りエピペンに関する情報を頭に入れて頂き、処方を希望されるかどうかを確認する必要があります。希望されないケースも過去にはありましたが、ほとんどの患者さんが希望されています。
今回の患者さんも希望されたため、つい先日エピペンを取りに来て頂きました。場合によっては、小児科医も打つべきタイミングを外すこともありますし、今回のように自宅で起こした際は真っ先に対応すべきは親御さんということになります。ましてや、アナフィラキシーの状態を見ているので、親として「自分が何とかしなければ」という思いを強く持たれたようです。その気持ちに頭が下がります。
アナフィラキシーを起こしていて、エピペンを処方されるべきなのに処方されていない患者さんは、新潟県には他にも大勢いると思っています。その患者さん達がエピペンの存在も知らされていなかったりするのは、やはり問題があります。医師も患者さんもエピペンについて正しい認識を持つよう、知識を啓発していく必要があると実感しています。


