以前も触れましたが、食物アレルギーがあるという中学生が上越に引っ越してこられました。
このお子さんは、小さい頃に牛乳でアナフィラキシーショックを起こしたことがあり、話を聞く限り、「アナフィラキシー」ではなく、更に重い「アナフィラキシーショック」の状況と思われます。
以前かかっていた病院でエピペンを処方されたことがあったそうです。エピペンを処方されたお子さんであれば、というかアナフィラキシーショックを起こしたことのある患者さんは重症です。中学校の養護教諭の先生から勧められて当院を受診されたようです。
エピペンを処方できる小児科医は、地元にはほとんどいません。ようやく地元の学校や園に重症者はアレルギー専門医にかからないといけないという“流れ”ができてきたようで、患者さんにとっても良かったと思います。
初診時に、いざと言う時のためにエピペンを携帯されていましたが、何と使用期限は2008年であり、3年前に切れていました。数年前にエピペンを処方したのは私も知っている専門の先生でしたが、春まで診ていたのは、専門でない先生でした。専門でないから、こうなったのでしょうが、管理不行き届きと言われても仕方がないと思います。
いずれにしても、当院に来られ、最初はエピペンの再処方が必要と思いました。ただエピペンは保険診療でまかなわれないため、1万ほどかかりますし、しかも使用期限は1年で、使わなくても1年ごとに1万円が飛んでいきます。
話を聞くと、アナフィラキシーショックのエピソードは10年以上前の話です。その後は除去し続けていたこともあり、大した症状は起きていなかったのです。そもそも、ミルクアレルギーが残っているのかどうかを確認する必要があります。こんな時は「恩師ならどうするだろうか?」と考えるようにしてます。
私の恩師は、患者さんを最優先に考え、「食物負荷試験」が広まるずっと前から「食べられるものを増やしてあげたい」という気持ちから、リスクを冒してでも負荷試験を行ってこられました。手取り足取り教えて頂いた者として、できる限り恩師の選択と同じことをやりたいと思っています。
アナフィラキシーショックを起こしたことのある患者さんだと、通常行っている負荷試験よりは緊張します。近隣には紹介できるような施設があれば別ですが、そうではないので、私のできる範囲内でできることはやるべきであろうと考えました。
牛乳アレルギーの場合、負荷食材は牛乳200mlを用いますが、当院の場合、年間数百件の負荷試験をやっていますが、何とか自分の技術を駆使し、より安全に確認したいと思いました。
いつもやっていることですが、食材をいきなり濃い牛乳を使うのではなく、乳成分を含む加工品を使えば、怖い思いはせずに済む可能性が高まります。ということで、先日この患者さんに負荷試験を行ったのですが、1食分のシチューを持参して頂きました。
ショックを起こした時の対応を想定しつつも、少しずつ食べてもらいました。結局、何も起きず、喜んで食べてくれました。本人もお母さんも喜んでくれて、嬉しかったです。
この春まで10年以上に渡り、頑に乳製品を除去してきましたが、乳成分を濃く含まない食品なら食べられることが分かりました。食べられる時は、こんなものです。当院で負荷試験を終えた親御さんは、大抵「今まで必死に除去していたのは何なのでしょう」とおっしゃいます。
負荷試験は、日頃の食生活に反映されなければなりませんので、乳成分を含む食品の薄いものから濃いものまで示した表を提示し、「この辺まで食べていいでしょう」と説明しました。これくらいの年齢になると、本人が怖がって食べてくれないのが常なのですが、進んで食べてくれたのが良かったのです。
今度は“本丸”まで攻め込まなければなりません。つまり、牛乳を使って10年以上前のリベンジを図ることになります。中学生なので、夏休みにやる予定としました。
普通の小児科にかかっていれば、「乳製品は食べない方がいい」の一言で済んでしまっただろうと思います。下手に食べさせて、ショックでも起こそうものなら医師の責任になるので、そうした方が手っ取り早いのだと思います。その結果、更に長期間を乳製品におびえ、暮らしていかなければならなかったのだろうと思っています。
そう考えると、それを阻止するのが「プロ」であるのは間違いなく、自分も少しは「プロ」らしくなってきたのかもしれないとちょっぴり感じます。
と同時に、ある意味、医療は“巡り合わせ”なんだろうなと思います。いい出会い、そうでない出会いにより、一生を左右するかもしれない危険性をはらんでいると言えるでしょう。
今後も「恩師ならどうする?」ということを念頭に置き、患者さんから「いい出会い」だったと感じて頂けるよう、努力していかなければならないと思っています。


