少し前に、市内の中学校から職場体験をさせて欲しいという依頼がありました。
医療関係に興味のある生徒さんが2名、当院での研修を希望されているということでした。こういう企画は、好きです。
私自身は医師になりたいと思ったのは、だいぶ後のことだったので、中学生の時からなんとなくでも興味のある職業に触れてみて、「この仕事に就きたい」と強く思ってくれたら、それは好ましいことだと思います。私なんて、苦労して入りましたが、医学部に入った後も「自分に医師という職業が務まるか?」と随分悩みましたから(汗)。
もちろん、お引き受けしました。せっかく希望されているのに、断ってその生徒さんの将来の芽を摘むことになってしまったら困ります。
将来の希望の欄に「看護師」と書いてありましたので、主な対応はスタッフに任せました。ただ、私自身も何らかのことはせねばなりません。朝から晩まで忙しいので、生徒さんに指導する時間はなかなか取れないのが気がかりでした。
小児科の場合、小さな子だと診察を嫌がり、素直に口を開けてくれなかったり、泣いて体を揺らすことも多いのです。診察介助といって、体をなるべく固定し、診察をしやすくする仕事も必要です。
その時は診察室に一緒にいますので、私がどうやって診察し、どのように説明しているかを見ることになります。まだ中学生なので、また医療系に興味があるといっても詳しい病気のことはよく分からないでしょう。いま流行っているヘルパンギーナや手足口病と言っても「はぁ?」って感じだと思います。
日頃からこの場で書いているように、医学は医師の経験や勘に頼るだけでは不十分で、キチンと根拠を示すべきと言われています。たとえば、ヘルパンギーナや手足口病はのどに特徴的な所見があります。のどが痛くなるので、食欲もがた落ちするお子さんも多くいます。
私が心掛けていることは、なるべく親御さんにものどを見て頂くようにしています。情報の共有という意味合いもありますし、診断根拠を示すということも考えています。その結果、患者教育にもつながります。院内にも生徒さんが研修に来ていることは掲示してあり、親御さんも分かっていますので、何人かは協力を求め、生徒さんにものどを見てもらいました。
当院は、診察室にiPad(アイパッド)を置いてあり、そこに水痘や突発性発疹などの発疹やおたふく風邪の耳下腺の腫れた画像を親御さんに見られるようにしています。ヘルパンギーナや手足口病ののどの所見や、手足の水泡の画像も入れてあります。生徒さんにもそれを見せ、患者さんののどと同じであることを示し、根拠のあることをやらなければならないことを伝えたつもりです。
生徒さんが診察介助をしている時に、一人ぜんそく発作で少しゼーゼーしているお子さんの診察をしました。親御さんに聴診器で音を時々聴いて頂いているのですが、この日は親御さんにお願いして生徒さんにも聴いてもらいました。「ゼーゼーしています」と喘鳴は聞こえたようです。
ぜんそく発作の時は、気管支拡張薬の吸入を行ないます。重ければゼーゼー言う音は消えませんが、比較的軽ければ、音はきれいに消失することもあります。吸入して頂くことにし、生徒さんには吸入という治療も見てもらいました。
また診察室に戻ってきて、音を聞き直してみると、もうゼーゼーは聞こえませんでした。生徒さんにも、それを確認してもらいました。中学生にはまだやや難しかったかもしれませんが、「ぜんそく発作用の治療としての吸入をして、症状が改善したんだから、ぜんそく発作という診断は正しい判断だったよね」と言いました。これも根拠を示したつもりです。
ちょっと生徒さんに話す時間があったのですが、親御さんは子どもが病気になると、とても不安になるので、医師は根拠のあることをして、なるべく正しい診断をして、適切な治療に結びつけることが、親御さんの安心につながるということをお話ししました。
また、生徒さんの研修の間に、当院の午後の診察は13時半から始まるのに、午前の診療が立て込んで13時15分に終わった日がありました。
生徒さんは予定通りに昼休みに上がってもらいましたが、私は急いで弁当を頬張り、15分後には診療を始めざるを得ませんでした。あまりネチネチ言うことではないのでしょうが、社会人の責任として午前の診療が長引けば、昼休みもろくに取れないこともあるということも知っておいて欲しいと思いました。
3日間の研修でしたが、どれだけ生徒さん達に役立ったか分かりません。地元では、急いでいるようで質問すらできない医院さんもあるようですが、当院は「反面教師」でやっているつもりです。当院も同じことをやっていたら、いつまで経っても地元の医療レベルは上がらないことになると思うからです。
ありふれたヘルパンギーナや手足口病であっても、キチンと診断し、これらはウィルス感染なので抗生剤が必要ないこと、症状さえ治まれば登園してもいいことをひとりひとりに説明しました。そういう姿を見て、何か伝わってくれたら、それで上出来だろうと思っています。
巷では看護師が足りないと言われており、“若い力”は必要です。私自身も小児科の開業医では一番若く、若い方が最近出されているガイドラインなど新しい医療に対応できるように思っています。
先日、当院に咳が止まらないと受診されたお子さんは、1年に5回もマイコプラズマにかかり、点滴などを繰り返されたそうです。こんなことは有り得ないと言ってよく、いつも通りというか、ぜんそくが見逃されていました。ベテランの医院さんにかかっていて、敢えて言いますが、この有り様です。“根拠”のあることをしたいと日頃から思っていて、患者さんのことを優先に考えれば、こんなことは避けられるはずだと思っています。
私自身、あまり若くなくなってきましたが(汗)、地元の医療には“若い力”は必要だと強く思いますし、アレルギーや感染症においても正しい知識を広める立場にあると考えています。更に、今回の職場体験のような“若い力”を育てるような企画にも力を入れていきたいと思っています。


