今回の学会でいろいろな話を聞いて、日本の第一人者の先生方と個別に話をさせて頂いて、かなり勉強になりました。
昨日も書いたように、小児ぜんそくと食物アレルギーの2種類のガイドラインやアレルゲン早見表、その他にも感染症に関する本も入手してきました。話すネタはいつくもあります。
ところが、気になっていることがあり、そのことに触れたいと思っています。
地元ではRSウィルスが大流行しています。当院では開業以来、地元のRSウィルスの認知度のあまりの低さに驚き、アレルギーだけでなく、RSウィルスに関しても啓発を行なってきました。
今シーズンのマスコミのRSウィルスの報道はかなり多く、一昨年も上越で大流行しましたが、何故その時に取り上げてくれなかったのだろうと思います。いずれにしても、2歳以下の子どもを持つ親御さんは知っておかなければいけない病気の一つです。
当院は、アレルギーや呼吸器感染の患者さんが多いのですが、地元の感染症情報をみてもさほどRSウィルスは多くないように見受けられますが、かなり見落としが多いとしか考えられない状況です。
生後1~3ヶ月の赤ちゃんが痰がらみの咳が出たとします。もちろん、心配で小児科を受診されるでしょうが、“風邪”と診断され、薬を飲んでも良くならないという理由で当院を受診される患者さんは多いのです。私はこの時点で、風邪とは考えず、RSウィルスを疑います。
何故なら、生後1~3ヶ月と言えば、母からもらった免疫の影響で感染症には最もかかりにくい時期だからです。しかも、痰が絡むと言えば、気管支で痰が作られている状態ですから、上気道(のどより上)でなく、下気道(のどより下)に異常が出ていることを表しており、RSウィルスは下気道炎を起こしやすい代表格だからです。しかも、生後1~3ヶ月でもRSウィルスにだけはかかりやすいことが知られています。
1~3ヶ月といった低年齢児が具合が悪くなると、1ヶ月健診を受けた小児科に駆け込むことが多いと思います。当院は、地元では知名度が高くないため、この年代の赤ちゃんはあまり受診しないのです。にもかかわらず、鼻水が多い、痰が絡むといった理由で当院を受診される赤ちゃんが極めて多いのです。
鼻水をもらいRSを調べてみると、ほぼ全員からRSウィルスが検出されます。兄弟がいれば、園で上の子がもらってきて、下の子に移したんだと分かりますが、兄弟がおらず、感染ルートが予想できないこともあります。低年齢の赤ちゃんは一人でどこかに出掛ける訳ではありませんから、市内にはRSウィルスが蔓延していて、親御さんがどこかからもらってきて、赤ちゃんに移してしまっているのではないかと考えています。
ちなみにRSウィルスは、2歳までに子どもの多くがかかっているとされています。0歳児もかかりやすく、その1/3が下気道炎を起こすと言われています。それ以外は、上気道炎、いわゆる風邪症状で済んでしまうことになります。年齢のいった子どもや大人は、風邪症状程度なので、「風邪を引いたかな」くらいに思っていると、実はRSウィルスが原因で、家の赤ちゃんに移してしまっていると考えられるのです。
当院だけで何人もRSウィルスにかかった数ヶ月の赤ちゃんを診ていますので、市内にRSウィルスが蔓延しているという予想は、確からしいと考えています。ということは、大して咳も出ていないので風邪と診断されている幼稚園児、保育園児もそのうちの多くはRSウィルスによる症状だと思っています。
先月中旬から0歳児に限り、RSウィルスを検査しても医院の“持ち出し”にならなくなりました。保険診療でまかなわれるのです。しかし、1歳以降は調べると医院の損になるということです。
下の表をご覧下さい。トップページに戻り、(差異)をクリックし、出てきた紺色の四角をクリックすると表が現れます。
一昨年にRSウィルスが大流行した時、当院では医院の損になろうが、患者さんに正しい診断、指導をするために真面目にRSウィルスを調べた結果を示しています。一番上の段の11/30などの数字は、例えば11/30から12/6までの1週間に当院でRSウィルス感染を確認した人数が3人だったと言う意味で、12/21から12/27までには10人も確認できたことを表しています。下段は某県、某市の小児科さんの公表の“感染症情報”です。
感染症情報にこれだけの差があるのは、RSウィルス感染に気付いていなかったのだとしたら、実力的に問題ですし、分かっていて調べていなかったのなら、それ以上に問題でしょう。
医師だって損はしたくありませんが、露骨であれば、患者さんに感染症情報という真実を伝えられなくなります。少なくとも、ウソのつけない私にはこんな芸当はできません。ちなみに、当院では、このデータをもとに地元の園にRSウィルスに関する注意喚起を行ないました。それにより初めてRSウィルスを認識した園関係者もいらっしゃったと聞いています。
ふと、この話を書いていて、食物負荷試験のことを思い出しました。食物負荷試験をやっている医師は「こういう検査があることを知って欲しい」と言い続けますが、やっていない医師は、検査の存在すら患者さんに知らせていません。
つまり、患者さんに「真実」を伝えたいと思えば、損をしようが、手間がかかり、アナフィラキシーを起こすリスクがあろうが、正しいことをやろうと努力するのだと思います。敢えて言えば、“都合の悪いこと”を患者さんに伝える医師と言わない医師に分かれてしまうということでしょう。こだわりや良心により、医療はどうにでもなってしまうところが、逆に“怖いところ”でもあります。
先日、当院で診ている軽いぜんそくのお子さんが、熱を出し、強い咳き込みがあるということで受診されました。ぜんそくがある子がRSウィルスにかかると、ぜんそく症状が極めて悪化します。私はこのお子さんがRSウィルスにかかっているだろうと考えました。「どこの園に通っているの?」、「RSウィルスが周りにいませんか?」と聞いてみると、「○○保育園に行っており、RSウィルスが流行っているとは聞いていませんが、“風邪”の子は大勢います。」との返事。
この子がその園での第一号と考えるのでなく、RSウィルスが調べられていないだけで、RSウィルスが園にはかなりいるのだろうと予想しています。今回の検査も、検査費用は当院の持ち出しですが、患者さんの悪化要因を明らかにするため、その子の通う園でRSウィルスが流行っていることを知らせるために、敢えてRSウィルスを検査してみました。園の先生も、「RSウィルスがいる」と伝えられなければ、何も気付かないし、他の児に注意喚起さえもできないのです。
医療は、意外と「正直者が馬鹿を見る」ようなところがあります。親切心で長めに説明すると、多くの患者を診られなくなったり、他の患者さんの待ち時間が長くなったりします。利益が減ったり、スタッフに超過勤務手当を払わなければいけなくなったり、自分の帰りも遅くなります。
アレルギーでは食物アレルギーでしょうが、感染症ではRSウィルスの対応により、その小児科の技術や良心を測ることができると思っています。地元の医療のためには、“馬鹿”でもあっていいかなと思っています。


