先日、昼休みに本屋に行ってきました。
当院は、午前中の診療が診療時間内に終わらないことが多く、昼休みもろくに取れなかったりします。前日にある患者さんが当院を受診されることが分かり、“ある本”を用意しておきたかったのです。
その日に限り、ラッキーにも診療が12時半に終わったので、車を出し、本屋に向かいました。その本とは、子どものアトピー性皮膚炎について書かれた本でした。
日頃、本屋に行くと、ついアレルギー関係の本を眺めることがあります。その多くが専門医でも何でもない医師が、「こうすればアトピーが治る」というあまり根拠のない、独自の治療法(?)を薦めているものが多いのです。少し前に、たまたま本屋でアレルギー専門医が、しかも子どものアトピー性皮膚炎に特化して書いたもので、ステロイドのことなどを分かりやすく解説している本を見つけていたのです。
春に、遠路遥々重症なアトピー性皮膚炎の赤ちゃんが当院を受診されていました。かなり重症なお子さんでしたが、日頃やっていることをやれば改善させる自信はありましたので、30分以上かけてとにかく皮膚をきれいにする必要があることを強調しました。
最近は、皮膚から食事成分がいって食物アレルギーが悪化するという“経皮感作”が問題視されています。当院のホームページのトップから乳児のアトピー性皮膚炎について解説した番組を観られるようにしていますが、適切に治療すると1週間でこうなりますよと患者さんのビフォーアフターの画像を示していました。
まだ数ヶ月の赤ちゃんでしたが、顔から体が掻き傷だらけで、ジクジクも強く、とにかくガイドラインの推奨する治療をお薦めしました。いつも1週間後に再診して頂くのですが、「この子も相当良くなるだろうな」と私自身も1週間後が待ち遠しい程でした。
4日程して、親御さんからメールが届きました。「良くなり過ぎて怖い。ステロイドは怖いと認識しており、自然治癒を期待したいので、治療を辞退したい。」というものでした。
正直、愕然としました。以前、乳児健診で小児科医から「こんなひどい子、見たことない」なんてドクターハラスメントまがいの言葉を浴びせられたりと、適切な治療を受けてこられず、専門医の元でようやくガイドラインに沿った治療がスタートできるところまで漕ぎ着けていたのにです。
しかも、初診時に「ステロイドが怖い」などと親御さんはひと言も発していなかったのです。そういう言葉があれば、更に時間をかけ、ステロイドに対する誤解を解けたと思うのです。
メールで、親御さんにいろいろ訴えかけましたが、返信はありませんでした。私の中ではモヤモヤはない訳ではありませんが、この患者さんには誠実に、そして全力を尽くした感はありましたので、「あとはどうしようもない」と思っていました。
それからその患者さんのことが気にかかったまま、2か月が過ぎ去りました。つい先日、「やはり受診したい」と連絡が入りました。どうステロイドへの不安を取り除くのが最大のポイントとなります。
初診時に、アトピー性皮膚炎のガイドラインを示し、ステロイド軟膏を使うことは説明してありました。それでも不十分となると、別の手を使うしかなくなります。それが冒頭の、患者さん用に解説した専門医によるアトピー性皮膚炎の本だったのです。この本には、最初はステロイド軟膏を十分に使い、ゆっくり減らしていく方法が書かれており、巷にはびこるステロイドの誤解も取り去るような解説がなされています。
ガイドラインが存在するにもかかわらず、小児科医や皮膚科医がそれに沿った治療をしていないが故に、正しい情報がなかなか広まらないので、その本を貸し出し、“真実”を知って欲しいと思いました。
久々に患者さんと再開しましたが、予想通り悪化していました。アレルギーの体質が強いため、このように重症化している部分もあるでしょうから、もしかしたら長い付き合いになるかもしれません。
親御さんを安心させるため、私はこの子からは逃げないと言いました。他にも同じくらい重症なアトピー性皮膚炎の患者さんを診ています。6歳になるそのお子さんは、あいにくぜんそくも食物アレルギーも重症で、専門医抜きで管理、治療もできず、少なくとも地元にいるであろう18歳、つまり高校を卒業するまでは面倒をみるつもりです。お子さんも、そうするつもりであることを伝えました。
現時点で、アトピー性皮膚炎の治療としてステロイド軟膏を越える治療はないと思います。プロトピックもありますが、2歳以降の治療薬です。もしかしたら5年後、10年後に新たな治療法が誕生しているかもしれません。それは日頃からアレルギー関係の学会に参加していれば情報は入手できますから、日々努力し、その時代のガイドラインの推奨する治療法でこの子を診ていくつもりであることをお話ししました。
ステロイドについて心配し、治療を続けるかどうかは赤ちゃんには判断できないため、親御さんがそれを決定することになります。今回のケースは、外野からそれこそ“適切でない”ステロイドの情報が入っていたため、致し方ないと思います。とりあえず仕切り直しで治療を再開できたことは嬉しく思っています。またひとつ患者さんの将来を背負った訳ですが、それは新潟県では数少ない専門医として、それくらいは覚悟の上です。
アレルギーは慢性の病気のため、「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ところがあり、症状が良くなるとつい治療を中断してしまうところがあります。今回のようなケースは、私もあまり経験がありませんでしたが、以前よりはかなり減っているものの、ステロイドに対する根強い不安が残っていることを実感しました。
いろいろ経験すれば、私自身の診療に厚みも出てくると思っていますので、教訓にしつつ、重症な患者さんに当たっていきたいと考えています。


