上越の地で開院してから、あっという間に5年以上の月日が流れました。
毎日、地元の子ども達のために没頭できることは嬉しいことです。ただ、地元には何かおかしな、他地域の多くの小児科医に理解しづらい“風習”があるように感じます。
先日、かかりつけのお子さんが目やにが出て、お父さんからは「すこやかさん(当院)では絶対に診てもらえない」と言われたそうですが、お母さんは淡い期待を持って当院を受診されました。
目やには、目に菌が入って起こることが多く、その結果として膿ができます。ウィルスなどでも目やには出ますが、菌が原因だと黄緑色でドロッとしていることが多いでしょう。
現在、溶連菌が外来でみられますが、治療の感想をお子さんに聞くと「すぐに症状が良くなりました」という意見が聞かれます。溶連菌に効果のある抗生剤は「特効薬」なので、ものの見事に熱や喉の痛みという溶連菌でよく見られる症状を取り去ってしまうのです。
目やにの場合も、同様な印象を持っています。目に入った菌をやっつけるため、抗生剤入りの目薬を使うと、あっという間に良くなってしまうのです。何らかの理由で改善が思わしくなければ、眼科医へ紹介することになるのでしょうが、そういう経験はほとんどなく、「特効薬」を使うことで、ものの見事に完治してしまいます。
ですから、目やには小児科医の“守備範囲”なのだろうと思っていました。ところが、上越では多くの患者さんが「目やには眼科にかからなければならないもの」という認識を持っているようなのです。先のお父さんの主張もそうですが、とても違和感を覚えてしまうのです。
中耳炎や湿疹も小児科医の“守備範囲”のはずですが、多くの患者さんが耳なら耳鼻科、湿疹なら皮膚科に行くものと考えているようです。逆にとびひで皮膚科にかかり、良くならないために当院に救いを求められるケースもあります。そういう場合は、お薬手帳を確認し、どういう治療をなされていたかをみる訳ですが、「ここをこう変えると良くなるだろう」と考えて、薬を変えるとあっという間に改善することも多いのです。水イボの相談も受けることもあります。
小児科医が、これらの病気に対処するのが「常識」だと思っていたのですが、上越ではそう思っていない患者さんが結構目立つように感じています。
県内の他地域の病院にも勤務したことがありますが、「点滴待ち」という言葉も上越で初めて聞いた言葉です。要は、点滴を必要とする患者さんが多過ぎて、すぐには点滴をしてもらえず、点滴のスペースが空くまで、待たなければならないというものです。
また、1日2回点滴に通わせ、しかもそれを1週間も続けるところもあるようです。そんなやり方なら、そういう状況にすぐなってしまうのかもしれません。普通の小児科医なら、病院に紹介し、入院加療してもらうレベルだと思います。
本当に、上越には独特のやり方が存在するようです。病気ではないですが、予防接種も違和感を覚える場合があります。
インフルエンザ等のワクチンも、ちゃんと診察して以前のカルテを見て、接種が適切であると判断するという行為は、多くの小児科医が当たり前のようにやっていることですが、それすらせずに接種をやりまくるというスタイルを取っているところもあるようです。
子どもの健康を守るのが予防接種の根本ですから、とにかく大勢こなしたいというようなやり方は、いずれ事故が起こるのではと案じています。今度触れようと思っていましたが、先日某市の消防隊からの要請で、アナフィラキシーの講演を行いましたが、その時に集めた資料にインフルエンザワクチン後にアナフィラキシーを起こした事例が紹介されていました。
「うちで予防接種をするように」と患者さんに手紙を出したり、電話をかけるような医院さんもあります。子どもの健康を最優先でそうしているのなら、日頃、症状が良くならないのに、同じ薬を出し続けるようなことはしないはずです。
これらの違和感を感じる行為は、どうして行なわれるのか考えると、私の頭では経営面しか思いつかないのです。医療はどこか自己犠牲的なところがあり、損得ばかり考えていてはまともな医療はできないと思っています。
巷では胃腸炎が流行っていますが、軽いケースが多いようです。当院では、利益を上げるために点滴をやろうとは思っていません。胃腸炎は、悪くなるのも早いけれど、回復も早いため、峠を過ぎたと判断すれば、点滴はしていません。それで十分回復します。お子さんだって、しなくていいような点滴はしたくはないはずです。
痛い思いは必要最小限にする、というのが当院のモットーです。これは小児科医としての“腕”や“良心”の見せどころだと思っています。ちなみに、開院して5年以上経ちますが、当院では「点滴待ち」の状態になったことはありません。点滴の適応のレベルが、雲泥の差なのでしょう。医師にその判断を任せるしかないにしても、この差は大きすぎるくらいだと思っており、「しなくていい点滴」をしていない結果なのだと思っています。
この秋、市内に新しく小児科さんができました。秋は学会などで当院が休診が多かったこともあり、休診の日にその小児科さんを受診されることもあったようです。2~3人は病院に紹介され、入院加療となっています。私と同じ感覚で医療の取り組んでおられるのだと思います。
こういったように同じ感覚で、真面目に取り組んでいる小児科の先生もいるので、協力しながら上越での小児医療の「スタンダード」を作っていかなければなりません。
多くの小学校や保育園、幼稚園の先生方がアレルギーと言えば、当院への受診を薦めて下さるようになってきました。最近、当院がアレルギーだけでなく、小児科としても知名度も上がってきているようですから、「スタンダード」を作る上で、当院の役割は大きいと思っています。
更に、アレルギーだけでなく、子どもの健康を守るのが当院の目的でもある訳ですから、ライフワークとしても上越市民に訴え続けていきたいと思っています。
何年かかろうが、「スタンダード」を作り上げていきたいと思っています。


