少し前のことですが、内科の先生から大人のアナフィラキシーショックの患者さんの紹介がありました。
2回アナフィラキシーを繰り返していたのですが、建築業のお仕事をされており、いずれも現場で症状がみられていました。
アナフィラキシーショックを起こすとすれば、食物、ハチ毒、薬剤なでしょうか。食物の中には、食物依存性運動誘発アナフィラキシーも含まれますが、運動単独でも起こることがあります。
患者さんは40代で、特に変わったものを食べた訳ではなく、食物アレルギーもこれまではなかったそうです。運動もしたということはなく、もちろんハチにも刺されていません。
共通点としては、腰が痛くて、解熱鎮痛剤を飲んだということでした。実は、解熱鎮痛剤、いわゆる痛み止めを飲むことで、アナフィラキシーショックを起こすことがあります。俄然、これが原因ではないかと疑うのは当然だと思います。
2回とよほど状態が悪かったのでしょう、救急車で総合病院の救急外来に担ぎ込まれます。いずれも内科の先生から緊急処置を受け、回復するのですが、どういう治療をしたのか、血圧や酸素の取り込みなど落ちていたのかなど肝腎のデータも分からず、紹介状すら持たされていませんでした。
初回は「もう少し受診が遅ければ命が危なかった」と言われ、2回目の時は「地元に帰ったら、アレルギーの医者に診てもらいなさい」と言われたそうです。そこまでの危険な状態なら、紹介状すら書かない理由が分かりません。アレルギーに詳しい医師ならば、こういうことはしないと思います。
結局、小児科の当院を受診されました。本当、当院はアレルギーの大人は診ないのです。何故なら、私は小児科医で、アレルギー専門医なので、市内はもちろん、市外からもアレルギーで適切な医療を受けられずに困っている患者さんが遠路遥々受診されるので、大人を診る余裕なんてありません。
しかし、知り合いの内科の先生から依頼があったこと、地元でアレルギーに詳しい内科の先生がいるかどうかも分からないことなどから、できるところまで対応しようと考えました。
患者さんは40代で、私と同年代です。家庭のことなど詳しいことは聞いていませんが、ご家族がいて、お子さんもいるかもしれません。守るべきものがあるにもかかわらず、こらからもあるであろう、痛み止めを飲んで後にアナフィラキシーショックを起こし、生命の危機的な状態に陥っています。原因を追及しなければいけないと思ったのです。
まずは詳細な問診から始めます。先ほど述べたように、2回のエピソードの共通点は解熱鎮痛剤を飲んで出勤し、間もなくアナフィラキシーショックを起こしました。「これだ!!」と思いましたが、しかし、同じ薬を飲んではいないのです。
私の頭では、他のものは思い浮かばず、解熱鎮痛剤を原因と考え、掘り下げようと考えました。
そうそう、またアナフィラキシーショックを起こすと困るので、大人用のエピペンを処方しています。いざという時は使用して頂き、ご自分の命を守って頂かなければなりません。
私の経験不足かもしれませんが、あまり子どもでは薬でアナフィラキシーショックを起こしたケースは診ません。医学書を読んでも、症例として出てくるのは大人ばかりです。薬疹と思われる皮疹は診ますが、アナフィラキシーは稀のようです。
被疑薬品3種類を持ってきて頂き、その薬自体を用いて皮膚テストを行ないました。フルーツアレルギーで、果物そのものを小針で刺し、針先に果汁を付け、それを皮膚に刺すことで傷口から果汁を染み込ませ、そこが腫れるかどうか確認する方法です。
結果は、3つとも陰性でした。
患者さんから血液をもらい、薬とかけ合わせるリンパ球刺激試験という方法もあります。これも調べましたが、どれも陰性でした。
あとやれる検査と言えば、そう、負荷試験です。普段から「食物負荷試験」のことを強調していますが、薬剤アレルギーを考えた場合も、最終的には内服による負荷試験を行なうことになります。
原因を特定する努力をしなければ、患者さんは何に気をつけたら良いのか分からず、路頭に迷うことでしょう。ここまで来たら、トコトンつき合おうと思ったのです。
まず最も疑わしい薬を少量飲ませてみます。何も起きません。最終的には1錠飲んでもらいましたが、何も起きませんでした。
大人でなかなか仕事も休めないということで、しばらく時間をおいて、また薬を飲んでもらいました。肘に「じんましんか?」という発疹が1個出たようですが、その程度でした。この薬は今後使わない方がいいかもしれません。
患者さんには申し訳ないのですが、ここまでやって明らかなものがなければ、原因究明は難しいのかなと思っています。アナフィラキシーショックを起こした患者さんに、被疑薬品を飲んでもらうことはリスクを伴いますが、ちょっと古いですが「やるっきゃない」と思い、実施した次第です。
自分の知識をフルに活用していろいろやったので、それは患者さんには伝わっているようです。患者さんには非常に申し訳ない気持ちで一杯なのですが、薬剤アレルギーを考えた場合、このようなアプローチで精査をやるのだろうと思います。


