小児科 すこやかアレルギークリニック

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2013年11月07日 更新

先日、中学生に食物負荷試験をやりました。

ここ最近2回ほど、食後に強い腹痛を訴え、痛みのせいで立っていられなくなるくらいなのだそうです。

食後に何らかの症状が出れば、食物アレルギーを疑うことになります。ただ、食物アレルギーで一番頻度の高い症状はじんましんなどの皮膚症状で、9割ほどの確率で見られます。次が咳込みなどの呼吸器症状、3番目が腹痛、嘔吐などの消化器症状と言われています。

このお子さんの場合、じんましんなどは出ず、強い腹痛が見られています。腹痛だけとなると、食物アレルギーとしてはやや珍しいと言えるのかもしれません。

食事の中に原因を求めるとなると、普段からバンバン食べているものは考えにくいと言えます。あまり食べておらず、原因として可能性があるものとしてカシューナッツが候補に挙がりました。

ここで血液を採取し、特異的IgE抗体を調べることにしました。カシューナッツでアレルギー症状が見られるケースがあるということで、検査会社でも数年前から調べられるようになりました。

結果はクラス0。食物アレルギーでは、食品を食べてアレルギー症状が見られる場合、間もなく症状が誘発されるのですが、この特異的IgE抗体がその反応に関与しているとされます。一般的には、数値がクラス0なら原因として考えにくく、数値が6まであるのですが、高ければ高いほど症状が見られやすいと言われます。

その検査が0だったので、「カシューナッツが原因ではないのかな」と思いました。ただ、他に原因が思い浮かばなかったので、カシューナッツそのものを用いて、プリックテストと言われる皮膚テストを実施しました。

プリックテストは、その食品に対する敏感さを見る検査で、大きく腫れれば腫れるほど、原因の可能性が高いとされます。通常は、卵白や牛乳の検査用エキスが市販されており、それを用いるのですが、カシューナッツはエキスがありません。でも、カシューナッツそのものがあれば、小針でカシューナッツ自体をグリグリとし、針先にカシューナッツの粉をつけてから、腕にその針で小傷をつけると、検査ができます。

ちなみにその結果も陰性でした。つまり、血液検査と皮膚テストのいずれも陰性でした。要するに原因としては考えにくいということになります。

食物アレルギーのこのふたつの検査が陰性なら、アレルギー専門医であれば「カシューナッツが原因ではないだろう」と考えると思います。私もこれまで、そう考えてきました。

10代の男の子がうずくまってしまうほどの強い腹痛を起こしている訳ですから、プロとして原因を追及しなければなりません。しかも、もし食物アレルギーならエピペンを持たせた方がいいくらいの症状だと判断しました。

ここまでやっても自分の中でモヤモヤが残っており、「では、カシューナッツが大丈夫であるという検査をやりましょう」と親御さんに提案しました。つまり食物負荷試験をやることを決意したのです。

負荷試験は、食べて何ともなければ自信がつくし、食べて症状が出れば、いわば白黒がつけられる訳です。ということで、先日、負荷試験を実施しました。

まずカシューナッツ1個の1/4を食べさせてみて、何ともなく、自分としては「予定通り」と思っていました。残りの3/4を食べてもらい、しばらくしたらスタッフから「患者さんが少しお腹を痛がっている」と報告がありました。

先にも述べたように頻度の高い皮膚症状は一切なく、本人から腹痛の訴えがありました。それ程強いものではないようです。申し訳ないですが、この時点で食物アレルギーの症状であると断言できるものではなかったので、もう少しだけ様子をみて、それから検査続行するかどうかを判断したいと思いました。

少し経って、スタッフから「痛みが増している」という報告がありました。やはり、じんましんや咳などの症状はないですが、「さすがにこれは症状であろう」と判断しました。ステロイド薬を内服し、症状の改善を待とうと思ったのですが、まもなく「涙を出すくらいお腹を痛がっている」という報告がありました。

実は、7月末に日本小児アレルギー学会がひとつでも症状があれば、エピペンを使用していいとする指標を出しました。大きく消化器症状、呼吸器症状、ショックを思わせる全身症状の3つに分けられています。消化器症状は「繰り返す嘔吐」と「我慢できないほどの腹痛」のふたつが挙げられています。

ステロイド薬を内服して少し経った上で、「我慢できないほどの腹痛」が見られている訳です。次の治療で、症状を回復させるとなると、エピペンと同じ成分のアドレナリンの注射を使うほかないと判断しました。

エピペン(アドレナリン)は即効性があるので、注射後、じきに効いてくるであろうことは親御さんに説明していました。

私も体ひとつで診療と負荷試験をやっているので、スタッフに患者さんの経過観察を委ね、診療を再開しました。エピペンは5分もあれば効いてくるため、それくらいしてスタッフに「患者さん、どう?」と尋ねました。

ここでのスタッフの返事が、今日のタイトルです。診療室から患者さんの元に歩み寄ると、確かに横になりながら、母のスマホをつかってゲームに興じてしました。目に浮かべた涙も乾いていました(笑)。先程、私の見た光景とは180度異なるものでした!。

この結果を受け、私は、この患者さんの2回繰り返した激しい痛みの原因はカシューナッツが原因で間違いなかろうと考えています。

特異的IgE抗体と、食品の過敏性をみる上で結構当てになるとされる皮膚テストはいずれも陰性でしたが、過去に2回カシューナッツを食べたあとに強い腹痛があり、負荷試験をやることで私の目の前で“再現”できた訳ですから、カシューナッツが原因と考えてもいいと判断しています。

不意にまたカシューナッツを口にしてしまえば、動けなくなり、涙を流すほどの症状が誘発されてしまうので、もしもの時のためにエピペンも処方することとし、この子の通う中学校にも説明に行こうと思っています。

それにしても、主要の検査2つが陰性だったのに、食物負荷試験がそれとは異なる結果になったことに正直驚いています。私のこれまでの診断に“誤診”があったかもしれず、不安になりました。

「やはり、食物アレルギーの診療は難しい」ということを再認識した1日でした。今後はこの経験を活かし、もっと診断精度を高めていかないといけないと思っています。