先日、中越地方の某市から小学生の患者さんが初めて当院を受診されました。
訴えは「咳が止まらない」というもの。一応ぜんそくと診断され、治療をしているようです。
申し訳ないですが、新潟は専門医が少ないため、まずぜんそくなのかどうか?、治療は適切なのか?、そこから検証をしています。まあ、ぜんそくなのにぜんそくと診断されていないことは結構見受けられますが、その逆はあまり見かけません。つまり、ぜんそくじゃないのに、ぜんそくと診断されているケースは稀でしょう。
何故なら、典型的な症状を来しているので、さすがにぜんそくと診断されているのです。ただ、何度も何度も繰り返してから、ようやく診断されていることが多いように思っています。
今回のケースは、ぜんそくは間違いないようです。吸入ステロイド薬も処方されていました。では、何故治療しても良くならないかを考えなくてはなりません。
ぜんそくの診療のポイントは、日頃の咳の状態を問診にて把握することです。診察室で発作を起こしてないことの方が多いため、問診が重要なのは明らかです。夜間ゼーゼー言って苦しがっていたのに、日中の診察室でゼーゼー言っていないことを理由に“風邪”と診断されていることは多く、正直「何やってんだか…」と思ったりします。親御さんの訴えに耳を傾けることはとても重要です。
問診の結果、親御さんも感づいていたことですが、ぜんそくっぽくない咳が長引いているということでした。しかし、その一方で、走ると呼吸苦はみられるようです。
いろいろと検討した結果、ぜんそくっぽくない咳は心因性の咳と考えられました。「心因性咳嗽」はストレスがきっかけとなり、口先だけの咳をするのが特徴です。
この患者さんのストレスとは何か?。それは間近に迫ったマラソン大会のようです。
この子はぜんそくと診断されており、吸入ステロイド薬が処方されてはいましたが、ぜんそく症状を抑え切れていませんでした。そこそこ抑えられていましたが、走ったりするとゼーゼーする「運動誘発ぜんそく」が見られていました。
もともと運動は好きなお子さんでしたが、走って苦しくなってしまうので、マラソン大会は回避したかったようです。それで「心因性咳嗽」を起こしていたと考えています。
となると、元凶の「運動誘発ぜんそく」を抑える必要がありますが、この子はぜんそく治療がなされていたものの、“過小治療”でした。運動も含め、この子の生活なので、運動誘発ぜんそくを抑える治療が必要だったのですが、前医ではそこまでの配慮はされていませんでした。
残念ながら、専門医でないと「やるべきことはやっている」つもりになっていたりします。大人になると運動は避けられますが、子どもは避けることができません。運動が発作の誘因になりますので、運動時の咳の有無も気をつけてみていく必要があったのです。
本来、治療しても良くならなければ、専門医に紹介するのが筋ですが、「やるべきことはやっている」、「誰が診ても同じ」と思っている小児科医は少なくありません。専門医に紹介しないから、その先の治療があることを認識できてないのだろうと思っています。
結局は、心因性咳嗽の原因は、これまでの治療不足にあると考え、治療の強化を行ないました。つまり、吸入薬の変更を行ったのです。
先日、再診して頂きましたが、運動誘発ぜんそくはかなり抑えられているようです。さらに、心因性と思われる咳も見られなくなっていました。マラソン大会が終わったというのもあるとは思います。
もっと早くこの薬が処方されていれば、運動誘発ぜんそくをより抑え、心因性のストレスを与えることなく、心因性咳嗽も起きなかったのだろうと考えています。子どもなりに大きなストレスを感じていただろうに、気の毒なことをしました。
この辺は、専門病院でトレーニングを受けてきたため、心因性咳嗽を考え、その誘因を見出し、その通りに治療して、2種類の咳を減らせたので、私の考察は正しかったのかなと思っています。
ちなみに、初診時に診察の終わりに、患者さんの住所が私の故郷で、苗字が同級生と同じだったので聞いてみたら、やはり同級生のお子さんでした。お母さんが連れてきたので、最初は分かりませんでした。
聞くと、当院に食物アレルギーでかかっている患者さんの同級生で、親御さんから当院の受診を勧められたとのこと。有り難い話ですが、そういうつながりがなければ、今回の患者さんは治療不足の上、本来は運動好きなのに、運動も思い切りできず、ストレスを溜め込み続けていたのだろうと思っています。
前医は、自分の患者さんでこんなことが起きているとはつゆ知らないでしょうし、専門医に診てもらう必要性も感じていなかったでしょう。敢えて言いますが、医療の怖さを感じて頂ければと思っています。


