「敵に塩を送る」という言葉があります。
戦国時代に上杉謙信と武田信玄はライバル関係にありました。武田信玄が他の武将から経済封鎖を受け、塩不足で困っている時に、「義」の心を持つ上杉謙信が塩を送ったというところに由来しています。ちなみに、当院のある上越市は、上杉謙信が生まれ、城を構えた地であります。
当院には、毎日アレルギーで困っている患者さんが初診されていますが、前医で治療しても改善がなく、キチンと説明もなされていません。明らかに専門医でなければ対応できないようなケースでも、紹介されることもありません。
特に開業医は、患者さんを一人でも多く集めたいと思うのでしょう。同業者に引き渡したくない気持ちも分からなくもありません。収入も減り、少子化の時代には死活問題になります。専門医に紹介したがらない医師は、患者を紹介することは、それこそ逆の意味で「敵に塩を送る」とでも思っているのでしょう。小児科医たる者、「義」の心は忘れたくないものだと思っています。
先日、武田信玄の治めていた県から患者さんが来られました。その時は初診ではなく、親御さんのご実家がこちらにあるので、実家に帰ってきた時に当院を受診されたことはありました。
話を聞いてみると、4月末から0歳の赤ちゃんが咳が長引いているのだそうです。地元の小児科で診てもらっていたそうですが、改善がなかったそうです。ともすると1か月半も咳が止まっていないことになります。
前医の診断は、風邪とのことでした。0歳で、1か月半も治らない“風邪”はあるでしょうか?。お薬手帳を見てみると、見事なくらいに何度も同じ薬が出されていました。以前も書いたことがありますが、医師の処方を見ただけで、その医師の実力が分かります。ついでに言えば、良心的な医療を受けていたかさえも分かってしまいます。
まず言えることは、風邪でないから、風邪薬が効かないことです。症状が改善していないにもかかわらず、同じ薬を出し続けるのは、私のよく言う「ルール違反」に当たります。医師が分かりそうな医師に紹介するか、患者さんがその医師に見切りを付けて、医師を代えなければ、現状は打破できないと思います。
こういう場合、他の医師に紹介する小児科医はほとんどいないため、医者を代えるのが最も有効な“くすり”と言えるでしょう。残念ながら、これが現実です。
親御さんは、その医師を信じて何度も通っていましたが、多分、その事を実家の祖母に愚痴ってしまったのでしょう。当院を受診された時にお婆ちゃんも付き添ってこられましたが、「私が呼び寄せました」というようなことをおっしゃっていました。
要は、地元の小児科に見切りを付けて、当院を受診されることで現状を打破したいと思われたようです。孫を想う気持ちがそうさせたのだろうと思いますが、それは責任重大です(汗)。
この赤ちゃんは、以前RSウィルスに罹患していました。親御さんは、それも大事な情報と思い、地元の小児科医にそのことを伝えたそうですが、聞き流していたようです。実は、それは、絶対に聞き流してはいけない情報でした。私はそれを聞いて「ビビビッ」ときました。
乳児期にRSウィルスにかかることで、気管が弱くなることがあります。気管が弱くなると、“風邪”ではないので、“風邪薬”は効きません。だから、何度も何度も風邪薬が処方されても、一向に改善もなかったのです。本当は、医師が気付くべきことです。ましてや、お母さんから重要な情報を貰っていたのですから、聞き流してはいけません。
咳が出ると、反射的に「風邪」と診断する医師は少なくなく、その先入観から抜け出せない小児科医は結構います。もっとフレキシブルに考えないと、患者さんに多大な迷惑をかけてしまいます。
このお子さんの場合は、RSウィルスにかかったことが分かっていたからヒントになったものの、RSウィルスは外来でインフルエンザのように簡単に調べられるのに、上越は調べない医師も多いため、咳が長引く理由がよく分からなくなっている患者さんもいます。RSウィルスを疑っても調べないことも、患者さんに迷惑をかけてしまうことにつながったりします。
どういう訳か、祖母から見込まれてしまったようなのですが(笑)、こちらにいる間に何とか咳を止めてみたいと思います。期待されて、全力を尽くさない医師は、私は好きではありません。
今回は、祖母の機転でこういう形になりましたが、何とか症状は改善させられそうです。地元の先生には、もっとあれこれと悩んで頂きたかったと思います。いや、悩んだのかもしれません。しかし、お薬手帳に“証拠”が残っていますので、「全力を尽くした」と言われても、何の説得力もありません。
今は戦国時代ではありませんが、医師も「義」の心を持たなければ、まともな医療が行なわれないのだろうと思ってます。


