先日、診療中にあるお母さんから本のコピーを手渡されました。
お母さんの書かれた手記が、本に載ったそうで、何やら私も出てくるとのこと。正直、自分がどう書かれているのか緊張します(汗)。
そこには、お母さんが母親になって、図らずもお子さんが病気になってしまった時の心理が、冷静に分析された上で記載されていました。
一般的に嘔吐がみられれば、確率的には胃腸炎のことが多いのは確かでしょう。小児科の診療においては、風邪の次に多いくらいメジャーな感染症です。
最初、当院に受診された時は嘔吐も頻回で、ぐったり感も強かったため、入院も考えて病院を紹介するのですが、その時は「ロタウィルス」が原因でした。予想通りというか、入院加療を要しました。
実は、現在もロタウィルスによる腸炎は、それなりに流行しており、名前がついているだけあって嘔吐、下痢を繰り返し、熱もなかなか下がらないこともあります。点滴が必要なくらい脱水になることが多く、更にはそれでも改善がなければ入院に至ることも少なくないのです。原因が分かっても特効薬はなく、しかも症状が強く出るので、やっかいな感染症と言えます。
ロタウィルスにかかったのは、仕方ないとして、このお子さんは、その後も嘔吐を繰り返しました。その時は別のこどもの医院さんを受診したそうですが、治療の他に、なぜ胃腸症状を繰り返すのか原因を知りたいと相談したかったそうです。
診察室に呼び入れられ、嘔吐を繰り返すと言ったところで、「はい、点滴」と言われ、医院で作った胃腸炎に関するパンフレットを渡されたそうです。あまりのあっけなさに、「いや、この子は嘔吐を繰り返しているんですよ」と言っても、とりつくしまもなく、「胃腸炎でしょ。点滴!。」と言われ、質問しようにも医師は「ハイ、次!」とスタッフに指示し、退室を余儀なくされたそうです。
その後、また当院に救いを求めることになります。私がアレルギー専門のせいか、“繰り返す”というフレーズには敏感に反応してしまいます。この場でよく書いているように、咳が長引いても“風邪”とか“マイコプラズマ”、湿疹が治らなくても“乳児湿疹”と誤診されているケースは、よく遭遇します。他院に通っていて、良くならないと当院に相談に来られる患者さんは、とても多くなっています。
昨日も触れましたが、典型的なアトピー性皮膚炎をMRSAという耐性菌がついた言わば“とびひ”と診断されていました。普通は「おかしい」と考えないといけません。今回の嘔吐に関しても、小児科医を真面目にやっていると、胃腸炎を繰り返すことはあまりなく、不思議に思わなければなりません。
そもそもこのお子さんには、注目すべき点がありました。下痢がないのです。胃腸炎の時は、体に入ったウィルスを上から追い出すのが「嘔吐」であり、下から追い払うのが「下痢」です。胃腸炎の時に、“嘔吐だけ”、“下痢だけ”にこともありますが、毎回嘔吐だけと言うのも変です。
私は「繰り返す」ことからおかしいと思い、この状態が続けば成長にも差し支えかねないと考えました。消化管に何らかの通過障害が起こっているかもしれず、この場合は小児科ではなく、小児外科の先生に紹介した方がいいと考えました。
結局、このお子さんは精査の結果、「胃軸捻転」が見つかりました。たまたまかもしれませんが、私の勘が合っていた訳です。この病気は、胃がねじれていて、嘔吐や体重増加不良などの原因になるのです。急激に悪化した場合は手術になりますが、そうでなければ、まず保存的治療と言って生活指導を行います。
特にアレルギーは、医師の言っていることが様々で、こんなにもアレルギーの知識の差が大きなものかと思っています。しかし、今回はアレルギーではなく、普通の小児科でもよく見るような「嘔吐」という症状です。
親御さんは今回の件で、医師にもいろいろなタイプがあると気付かされたと手記に書いてありました。前医の対応は、その時点で嘔吐があり、点滴をしたのは正しい処置だったかもしれないが、話も充分聞かないまま、診察室を追い出すようにし、結局は母の不安に応えていなかったと感じられたようです。
私は当時の詳細までは覚えていませんが、ただならぬものを感じたことは覚えていて、これまでの経過を細かに聞いたそうです。当時は胃軸捻転という病名までは想定していた訳ではなかったのですが、精査が必要と考えて、紹介状を書き、小児外科の先生に治療を委ねました。
言い方は悪いですが、募る不安がそうさせていたのでしょうが、お母さんの“殺気立った”感じは強く印象に残っていて、今にして思えば、別の医院さんで邪険に扱われ、藁をもつかむ思いで、当院を受診されたことに気付かされます。
当院の診察室を出る時に、私も心配だったので「何か分かったら教えてください」と言ったらしいのですが、それもお母さんに安心を与えたようです。今回の件について「責任を持ちますよ。また相談してください。」という風に感じてくださったそうです。
日頃から思っているのですが、やたらたと診察の早い医師はいますが、「ミスしないのだろうか?」と心配になります。敢えて言えば、アレルギーに関して言えば、“誤診”は多いのです。私も時には判断ミスはします。細かいものを含めると、しない医師はいないでしょうが、ある程度時間をかけゆっくり考えると、ミスは減るのは当たり前で、これは医療に限りません。
特に今回のように“繰り返す”場合は、おかしいと感じるべきだし、点滴をしても本質は変わっておらず、母の不安も更に増強させた結果につながりました。「医療」って何だろう?と考えさせられます。少なくとも、母の不安に耳を傾ける姿勢がなくては、良い医療は行えないと思っています。
混んでいるからとスピードを重視するのは、自分の都合であって、軽い患者さんには時間をさほどかける必要はないでしょうが、今回のようなケースは時間をかけて話を聞いて、異常に気づくべきケースでした。昨日のMRSAと診断していた先生も、今回の医師も自分の“失敗”に気付いていていないのは、患者さんにとっては怖いことと言わざるを得ないと思っています。同じことを繰り返す可能性が高いからです。
今回のお母さんは、2件の小児科医を受診することで、医療には差があることを気付いて頂けました。当院が開院した当初は、アレルギーの専門病院ができたと様々な医療機関から患者さんが受診してくださいましたが、最近は一部の医院さんから流れてくるケースが目立ちます。医療の取り組みの差に、上越の患者さん方が気付いてくれてきているのだと思っています。
上越の医療レベルを上げるためにも、これまで通り真面目に医療に取り組んでいきたいと考えています。


