上越の地に小児科の医院を開業して、3年半になります。
以前、大きな病院に勤務している時、話し込んで外来に時間がかかっていると、上司から「急げ」と催促されたことがよくありました。確かに、大勢の患者さんが受診されるので、私だけ時間をかけ過ぎてはいけないのですが、別に世間話をしていた訳でもなく、一生懸命診療していたので、ちょっと腑に落ちなさを感じていました。
医療というのは、良心的にやろうとすると、つまり患者さんのことを良くしたいと願えば、いろいろな情報が必要になります。ましてや、診断をつけて治療を開始してみても、思いのほか改善がなければ、自分の診断や治療方針が間違っているのかもしれないと考え、更なる問診が必要になります。
今の保険診療では、大勢の患者さんを診れば診る程、有利なのです。乱暴な言い方になりますが、流れ作業で、患者さんの話を話半分に聞いて、とりあえず薬を出しておけばいいということになります。そして、「改善がない」とまたその患者さんが再診された時に、「これで様子をみて下さい」と言って同じ薬を出せば、医師の側からすれば“効率”のよい診療ができます。
アレルギーに関して言うと、どこの医療機関に行っても、こういう感じの医療がなされているように感じてなりません。少なくとも、皮疹が良くならないと何度も医療機関を代えるアトピー性皮膚炎の患者さんの話を聞くと、間違いなくこんな対応が繰り返されています。
往々にして、「良くならなければ、ドクターに質問すればいいのに」と言うと、一様に「そんな雰囲気ではなかった」と言われます。忙しそうだったとか、嫌な顔をされたと、そこには何もできず、萎縮した患者さんの姿が目に浮かびます。
これは患者さんが言っていたのですが、ある開業医では、質問しようと話し始めると「お母さんの話よりも私(医師)の話の方が重要だから、聞きなさい」と注意されるのだそうです。
別の小児科では、ほとんど説明もなく、すぐ「検査」、「点滴」となり、質問する暇も与えなれないそうです。意を決して聞こうとすると、「はい、次、次」と看護師に指示し、退室を促されるのだそうです。
いやいや、お母さんの話の中にこそ、診療に役立つヒントがあるのです。ぜんそくやアトピーと確実に診断するのに事足りる情報に溢れています。それをみすみす断ってしまうのは、おかし過ぎます。
当院は、質問にはかなり応えているつもりです。上越は、「皮膚なら皮膚科へ、耳なら耳鼻科へ、目なら眼科へ」と言っている小児科があるらしく、それもおかしいと思います。小児科医はある意味、オールラウンドプレーヤーでなければならないからです。
当院の場合は、例えば咳で受診され、説明して次の患者さんを呼ぼうとしたら、「そういえば、皮膚のことも聞きたかった」とか「耳を診て欲しいんですけど」など言われるのは日常茶飯事です。
それで待ち時間が長いからと、当院への受診を避けられたら、どうしようもありませんが、質問に応えることを続けていれば、逆にそうしない医療機関が困ったことになると思っています。質問に応える義務を放棄していることに患者さんが気付くと思うからです。
こういう質問さえ許さないような診察室の風潮は、きっと上越だけではないと思いますが、往々にして“有名”な小児科は、「患者が多い」→「診察時間が短い」→「説明がなくて当たり前」となっていると思います。私に言わせれば、有名だからと言って本当にレベルの高い医療をやっているとは限らず、ぜんそくを“風邪”、“マイコプラズマ”、アトピーを“乳児湿疹”、“乾燥肌”と誤って診断されていることが決して少なくないのです。もう少し落ち着いて患者さんの話に耳を傾ければ、診療も変わってくるはずです。自分の診断が間違っているのでは?と気付く可能性も増えると思います。
他院で予防接種をやって翌日熱が出たと当院に相談に来られたり、他院で処方された薬の副作用について聞かれたりすることもよくあります。本当なら、当院で相談されるのはおかしいはずです。でも、聞けない雰囲気の診療スタイルでやっておられる医院さんなのでしょう。正直、そういう場合のみ受診されるのも複雑な気もしますが、それなりに信頼されているから、質問されるのだと受け止めるようにしています。
質問さえ許さないようなスピード重視の医療は、失うものも少なくないと思っています。


