話によると、先に冬期を迎えた南半球では、新型インフルエンザがそれなりに流行しているようです。
それからすると、まもなく訪れる冬にはインフルエンザが流行ることが予想され、新型インフルエンザであろうと考えられます。そんなこともあって、当院に限らないことでしょうが、インフルエンザの予防接種が本格化しています。
昨年との大きな違いは、ワクチンが充分量確保されていると言うこと。昨年は、優先順位を守らない医師もいたようですが、基礎疾患のある患者さんが優先されたり、最終的には余ってしまいましたが、ワクチン不足が問題化しました。ワクチン争奪戦となり、大混乱したのは記憶に新しいところです。
当院は、いわゆる基礎疾患を持つお子さんが多いため、インフルエンザに罹患するとぜんそく発作を起こしてしまい、呼吸苦や睡眠障害につながりかねません。発作が重ければ入院治療を要します。当院にはぜんそくの患者さんが多いため、早めに接種を済ませておきたいと考え、接種希望者が受診されています。
昨年は当院で受けるべき患者さんが他に流れ、ご迷惑をお掛けしました。ワクチンは、大人数を集めれば収益が上がります。そりゃ誰だって収入が多ければいいですが、当院の場合は慢性疾患のお子さんが多いため、いわば気心の知れた患者さんが多いのです。収入云々以前の問題で、通い慣れた医院で受けることを親御さんも希望されています。そういう意味では、開院以来その期待にずっと応えてこられなかったので、今年はなるべくは応えたいと考えて枠を大幅に拡大しています。
アレルギー体質のお子さんが多ければ、食物アレルギーを持っているお子さんも少なくありません。いや、他の医院さんよりは食物アレルギーのお子さんの頻度が極めて多いと言っていいでしょう。卵白のアレルギー検査が強い陽性のお子さんは結構います。
毎年のように、卵白がクラス6のお子さんにもインフルエンザのワクチンを打っています。先日、接種に来られた患者さんは、アレルギー検査の項目の多くが陽性で、卵はクラス6でした。ほとんどの医療機関で打てないと断れることでしょう。
断るのは簡単です。「アナフィラキシーを起こしたりすると危険だから、止めておいた方がいい」と言えばいいだけです。ただし、打ったことがないのですから、本当にアナフィラキシーを起こすかどうかは分からないはずです。もし接種できるのなら、親御さんは受けたいはずです。可能性を言い出したら、きりがありませんし、医師は当然自分がかわいいし、誰も危険は冒したくないと思っていることでしょう。
実際に、アレルギー体質が強ければ、ワクチンの原液を10倍に薄めたものを皮内テストをすることが推奨されています。その結果、少し腫れるくらいなら、通常接種をしてよく、かなり腫れれば2回に分けての分割接種、大きく腫れれば見合わせる、という方法です。
抗ヒスタミン薬を2~3日前から飲ませておいて接種するというやり方をしているケースもあるようですが、アナフィラキシーを抑えるとは思えず、あまり一般的でないと思います。この皮内テストの方法は、小児ぜんそくのガイドラインに明記されています。
上越に開院して3年。その話をすると、「そんなやり方は聞いたことがない」とおっしゃる卵アレルギーの親御さんも少なくありません。そういったやり方があるにもかかわらず、それをしないのは私はどうかと思います。食物アレルギーの子どもはかなりの頻度があり、そのうち卵が最も多いアレルゲンです。要はどの医療機関にも、卵アレルギーで接種を心配している親御さんはいるということになります。
実際、「卵アレルギーのある子は打てない」と決めつけているような医療機関もありますが、ハイリスクを断り、リスクのほとんどのないような、都合のいい接種ばかりを受け入れるのは、かかりつけの本来の姿ではないでしょう。好きで卵アレルギーになった訳はないので、何もせずに接種を断るのはマナー違反と言っていいと考えています。
先のクラス6のお子さんは、その値で打てない根拠は何もないので、10倍希釈のインフルエンザワクチンで皮内テストを行いました。そうしたら予想外に多く腫れ、縦横がともに13ミリでした。先程述べた接種できない場合の「大きく腫れる」というのは縦横が15ミリ以上です。私のこれまで経験した皮内テストの中では、最大級の腫れでした。
“逃げる(回避する)”こともできました。しかし、私がやならければ誰も接種しないことでしょう。万が一にも、インフルエンザ脳症になってしまったら私にも責任があると考え、親御さんの期待に応えるべく、実施することにしました。
基準を下回っているとは言え、本当にギリギリです。打てない訳ではないとは言え、正直私だって心配です。いざという時のことを考え、アナフィラキシーも想定しながら、ガイドライン通りに2分割で接種してみました。大きな心配をよそに、何も起きませんでした。何も起きずホッとしましたし、肩の荷が下りました。
当院はアレルギーの患者さんが多いので、プレッシャーのかかるケースも時々ありますが、心配であればアレルギー専門医に紹介するという道筋をつけてあげるのが“プロ”の対応だと思うのです。
正式な手順も踏まずに、「打てない」と一方的に言われているケースは他にも聞きます。しかも専門医に紹介もされずにです。こういう患者さんを減らすことが、私の役目でもあろうと思っています。


