とにもかくにも、懸案だった感染症の講演を終え、だいぶ気が楽になりました(笑)。
ただ、アレルギー学会や、来週に初めての試みである“院外”勉強会の控えており、まだまだ気が抜けません。寒暖の差でぜんそくの調子の悪いお子さんが多く、しかも、胃腸炎や溶連菌などの感染症も多い状態が続いています。溶連菌を疑うと、扁桃腺の辺りを綿棒でこすり、それを検体として検査をしています。結果が出ると、また診察室に入って頂き結果説明となります。仕方のないことですが、2倍の手間がかかります。
今はロタ・アデノウィルス腸炎やRSウィルスをを疑うケースも見られ、その都度、検査してからまた説明を繰り返しており、まさに体力勝負だったりします。
日々良心的に診療をやっているつもりですが、アレルギーやそれ以外の新患も多く、他院で治療していて、良くならないと心配になって当院を受診される方も少なくありません。同業者で良くならない患者さんを診る場合は、小児科医としてのプライドを掛けることになります。「オレが何とかしてやる!」って気持ちになります。
ちょっと気になったケースを経験したので、今日はそれについて触れようと思います。
ある医院さんで診てもらっていたお子さんが、当院を初めて受診されました。相談は2つあったのですが、まずはヒューヒューが心配と言うことでした。
ヒューヒューいうのは、ぜんそくでよく見られる症状です。ぜんそくは慢性の病気であり、風邪を引くとヒューヒュー、ゼーゼーを繰り返すお子さんがいますが、「繰り返す」のがポイントです。ヒューヒューを繰り返していれば、ヒューヒューしやすい体質を持っているということになります。その結果、ぜんそくと診断できる可能性が高まります。
ただ、初めてヒューヒューが聞かれた場合はどうでしょうか?。これは「熱性けいれん」の場合と似た対応になります。
お子さんが発熱した上で、全身性のけいれんを起こしたとします。子どもは熱の急激な変化に弱く、その際にけいれんを起こすことがあります。それを「熱性けいれん」というのですが、子どもの7%くらいに見られると言われています。かなりの頻度です。
では、子どもが熱を起こしたら熱性けいれんかといえば、必ずしもそうではありません。確かに、一度熱性けいれんと診断がついていれば、急な発熱の際にけいれんを繰り返す子もいますので、2度、3度けいれんを起こせば、「また熱性けいれんだ」と分かります。しかし、初回の場合は、髄膜炎や脳炎も考えられるし、そういった恐い病気を否定しなければなりません。
先に述べた、ヒューヒューの場合も繰り返して初めて「ぜんそく」と診断できる訳です。初めてのヒューヒューは、ぜんそくの初回発作かもしれないし、ウィルス感染で気管支に溜まったタンが呼吸のたびに震えてヒューヒューだったり、ゼーゼーすることがあります。
赤ちゃんが感染でヒューヒューいう原因の最多がRSウィルスと言われていますし、小児科医なら誰でも知っていることでしょう。乳児、特に生後半年以内の赤ちゃんがRSウィルスにかかると、ただでさえ細い気管支にタンが絡むのです。大人みたいにエヘンとタンを切ることもできないので、気管が狭くなり、呼吸困難につながります。
赤ちゃんがヒューヒュー言ったら、それは危険な状態に陥りつつあると思って構いません。赤ちゃんは苦しくても「苦しいから病院に連れてって」とは言ってくれませんから。にもかかわらず、前医の診断は“風邪”でした。それで親御さんが心配になって、あわてて医者を替え、当院を受診されたという格好です。患者さんは病気に関しては素人ですが、素人にも分かるようなおかしなことを言っていると、患者さんからの信頼を失ってしまいます。
RSウィルスを外来で調べると、医院の持ち出しになり、つまり赤字になります。調べることを嫌う医師もいますが、個人的には、そういうレベルの低い対応をすべきではないと思っています。武士は食わねど高楊枝じゃないですが、損をしてでも正しい診断にこだわるべきだし、私は小児科医を20年近くやっていて、風邪でヒューヒューした子どもを一度たりとも診たことがありません。
風邪でヒューヒューすることはないのは、素人でも分かります。中には医師から言われ「風邪なんだ」と信じている親御さんもいますが、親御さんに「これまで風邪を繰り返してきたと思うけれど、風邪を引いてヒューヒューしたことがありますか?」と聞けば、ぜんそくを持つ親御さん以外は「そんなことはありません」と答えられます。それを風邪と言うのは、患者さんを愚弄する行為とさえ思います。
そこで最も疑わしいRSウィルスを調べてみた訳ですが、RSウィルスは検出されませんでした。
赤ちゃんがヒューヒュー、ゼーゼー言った時の原因の多くは、RSウィルスと言われています。それが陰性だった場合、その他のウィルスでヒューヒューしたんじゃないかという考え方もできます。迅速検査は100%正しい訳ではないので、たまたま陰性だったのかもしれません。はたまた、患者さんが将来的にぜんそくと診断されるはずで、その初めての喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼー言うこと)だったのかもしれません。
なぜヒューヒューしたのかと考えなければいけないし、それを治療に結びつけなければならない訳です。真面目に診療に取り組んでいれば、それくらいは悩み、考えるべきだと思っています。“風邪”と診断すれば、ものの1~2分で診察が終わり、次々と患者さんを診ることができます。悩めば悩む程、一人の患者さんに時間を取られることになります。しかし、日常診療において、簡単なケースもあり、難しいケースもあります。判断が難しいケースを1~2分で診療できるはずがありません。
この患者さんには、いろいろと今回述べたようなことを説明しました。今後、ヒューヒューを繰り返せば、ぜんそくと診断されることもあり得ると話しました。ただ、この喘鳴が一過性でぜんそくと診断されないこともあります。医師の診療には、差があることもよく理解して頂けたと思っています。
以前、別の親御さんがいろいろと医師に説明して、話が終わってないうちに、あっという間に“風邪”と診断された時に「この先生はうちの子のことをよく分かってくれている」と思ったそうです。結局、良くならず、今は当院に通って下さっています。
私は、地元の医療レベルを上げたいと思っています。待ち時間が短い方が便利でいいと思う親御さんも多いでしょうが、医療の質が落ちれば意味がありません。地元も含めて世の中には、いろんな医師がいて、いろんな“医療”があることを知って頂くことも大切だと思っています。私は真剣に悩むことが良い医療につながると信じています。
明日は、今回の患者さんのもうひとつの相談について触れようと思っています。


