先日、テレビでクイズ番組を観ていた時のことです。
インフルエンザに関する問題が出題され、二択でした。例えば「インフルエンザワクチンが効き始めるのはどっち?」という問題が出ており、選択肢は「A.2日後、B.2週間後」といったような感じです。
ちなみに、この問題の答はB。一般的に、成人でと思いますが、接種して徐々に免疫ができて、2週くらいして予防効果を発揮すると言われています。
子どもの場合は、1回の接種では免疫の付きが悪いので、2回打つ必要があります。
間隔も1週間空ければ2回目の接種ができるのですが、1週間よりはできれば3~4週間空けるのが望ましいと言われています。少し間を空けた方が免疫の付きを増やすことができるのです。小児の場合でも、このクイズの答は、少なくとも2日後では全く効果は期待できないので、2週間と言っていいのか分かりませんが、Bを選択することになるでしょう。
このクイズ番組、いつもそうなのですが、1問目から10問目まであり、回答者が10人いて、一人一問ずつ答えます。後半になると難易度が上がっていきます。1問目、2問目などは「簡単、簡単」なんて思っていても、特に8問目以降は私も答えられないことが多く、かなり難しくなっています。タレントさんの解答者が後半の難問を難なく正解すると、司会者が「ファインプレイ!!」と言って、番組を盛り上げています。
今回のインフルエンザに関する問題で、10問目のいわゆる“難問”とされる問題がこうでした。「インフルエンザのワクチンを受けられないのはどっち?」という質問に対し、答が「A.卵アレルギー、B.小麦アレルギー」というものでした。
番組では、医学博士の肩書きを持つタレントさんがこの問題の答を、卵アレルギーと答えます。司会者がいつものようにファインプレイと持ち上げ、本人もしたり顔をしていました。
ここで「ちょっと待った」です。本当に卵アレルギーの患者さんが、インフルエンザのワクチンを接種できないのでしょうか?。
一般的には、卵製品でアナフィラキシーという強いアレルギー反応を起こした患者さんや、アレルギー検査で卵がクラス6の場合は、要注意とされています。
当院では、卵製品を食べてアナフィラキシーを起こしたことのあるお子さんにも、インフルエンザのワクチンを接種しています。卵のアレルギー検査が最高であるクラス6であっても、接種してきました。他の小児科で接種できないと断れたお子さんでも、これまで一人残さず接種してきました。
最近は、医師もリスクを嫌います。安易に引き受けて訴訟になってしまったら一大事です。卵アレルギーの「た」の字を聞いただけで「うちでは打てない」と断る医師もいます。断るのは自由です。自分には荷が重すぎると思ったら、手を出さない方が無難です。ただ、接種を希望されているのですから、できる医師に紹介するのが筋でしょう。
そのお子さんがインフルエンザワクチンを希望していたのに、打てなかったがために、インフルエンザにかかってしまい、最も恐ろしい合併症であるインフルエンザ脳症にかかってしまったら、誰が責任を取るのでしょう?。
今シーズンの印象として、当院を受診したインフルエンザの患者さんのほとんどがインフルエンザの予防接種を済ませています。あまり予防効果が期待できないようです。先日観た別のテレビの情報番組で、インフルエンザの予防接種は「予防するんじゃない、かかっても軽症化させるんだ」と言っていました。
今シーズンに流行っているのは新型インフルエンザと思われますが、新型は医師ならそういう印象を持っていると思いますが、全体的に軽いと思っています。タミフルなどの抗ウィルス薬もよく効きます。あっさり治ってしまうと、薬が効いているのか、予防接種が効果的に働いてるのか区別がつきません…。
ただ、新型でもインフルエンザ脳症の報告はあります。例年のインフルエンザの流行時も、予防接種をやっていても脳症を発症してしまう報告もあります。予防接種をしてもインフルエンザ脳症を予防はできないのです。
しかし、インフルエンザワクチンをすれば、打たないよりはインフルエンザの発症や軽症化に役立つのは確かでしょうから、ですから当院では卵アレルギーのお子さんにも自らのリスクを冒してまで接種にこだわっているのです。自分のかかわった患者さんが、インフルエンザ脳症で死亡したり、後遺症を残す姿はみていられません。接種に関しても、ベストは尽くすべきだと思っています。
もし卵アレルギーのせいで、予防接種を受けられず、万が一インフルエンザ脳症に陥ってしまったら、親御さんは「ワクチンを受けていれば、防げたかもしれない」と一生後悔すると思うのです。ワクチンをやっていれば、「やるべきことはやった」と思えると思っています。
やや考え過ぎかもしれませんが、そこまで考えて、自分へのリスクを顧みずに卵アレルギーのお子さんへの接種を行っています。
そこで、今回のクイズ番組です。田舎の開業医の言うことよりは、テレビの影響は大きく、一般の方は信用してしまうことでしょう。ましてや、「難問」、「ファインプレイ」とはやし立てています。視聴者たちが、翌日の会話の中で「卵アレルギーがあると、インフルエンザの予防接種ができないんだって」とか、「うちの子、卵アレルギーだから、打たなくてよかったわー」なんて会話がなされたいたのだろうと思っています。
卵アレルギーの患者さんや、当院のように食物アレルギーの正しい知識を広めようと一生懸命やっている小児科医にとっては、“不適切な問題”だったと思うのです。少なくとも当院で診ている卵アレルギーのお子さんで、接種希望者にはすべて接種を行っています。今回の問題ついて、私は「答なし」と言いたいと思っています。そういう意味でも不適切問題だと思います。
テレビの影響力はとても大きいので、間違った知識を広めるのは、番組の意図とも反すると思います。専門家に確認するなど、監修がしっかりなされなくてはいけません。
ついでに言えば、卵アレルギーは治りやすい傾向にあります。非専門の医師が間違いやすいものとして、アレルギー検査の結果だけで判断されている(卵がクラス5以下の場合)ケースも目にしますし、卵アレルギーがあったのが、既に治っているにもかかわらず、卵アレルギーがあると診断し続けられているケースも多々あると思います。
また、例えば茶碗蒸しを食べてアナフィラキシーを起こしたことがあっても、インフルエンザワクチンに含まれる卵成分はごくごく微量なので、濃い卵製品ではアレルギーを起こしても、微量なら起こさないケースが多いのです。それをリスクを避けたいが故に、「接種できない」としている医師もいると思います。自分で接種に自信がなければ、専門医に紹介すべきなのに、紹介はまずありません。そういう「閉鎖性」も正しい知識が広まらない一つの要因になっていると思います。
正しい知識を広めるのは、医師しかいませんし、テレビも専門家の力を借りて正しい情報を発信すべきです。今回のような安易な問題で傷ついている患者さんは少なくないと思っていますので、このようなことがないようにして頂きたいと思っています。


