まずはこの記事から見て頂きましょう。
「ショック症状の児童、学校が自己注射薬使わず」という見出しで、2010年2/27付けの読売新聞に載せられた記事です(以下、抜粋)。
兵庫県姫路市の市立小学校で1月、食物アレルギーの男児が給食を食べて急性反応・アナフィラキシーショックを起こした際、学校が保護者から預かっていた緊急用の注射薬を使わずに119番、搬送直前に駆けつけた母親の注射で回復していたことがわかった。
文部科学省は昨年、ショック状態の児童生徒には教職員が注射をしても医師法に触れない、との通知を出していたが、学校側には正しく伝わっていなかった。専門家は「学校の危機管理の問題。症状が重い場合は、ためらわずに教職員が注射を」と呼びかけている。
市教委によると、男児は1月15日の給食で脱脂粉乳入りのすいとんを食べた後、目の周りが赤くなる症状や頭痛、嘔吐(おうと)などを訴えた。学校は、症状を和らげる自己注射薬を保管していたが、「注射する取り決めを保護者と交わしていない」などとして使わず、119番。連絡で駆けつけた男児の母親が、学校を出る直前の救急車に乗って注射を打つと男児の症状は軽快し、2日間の入院で回復した。
自己注射薬は、円筒形容器の先端を太ももに強く押しつけると針が出て、薬剤が体内に入る仕組み。服の上からでも打てる。男児については、食育担当教諭と保護者が給食の献立表でアレルギー食材の有無を確認していたが、この日は脱脂粉乳が入っているのに気付かなかったという。
文科省は、アナフィラキシーショックで危険な児童生徒に対しては、教職員が自己注射薬を打っても医師法に触れない、として適切な対応を取るよう求める通知を出している。しかし、市教委は「通知は認識し、各校にも伝えていたが、注射は児童本人や保護者、搬送先の病院の医師らが使うものと考えていた」と説明。今後は研修会などで教職員に周知する。
同省によると、埼玉県内の小学校で2008年12月、発症した男児に養護教諭が注射をして回復している。また、東京都教委は教員向け手引に「児童生徒が自ら注射できない場合は、ためらわず注射して命を救う必要がある」と記している。
※アナフィラキシーショック=体に入った異物に過剰に反応するアレルギー症状。ハチ刺されや食品、医薬品が原因となり、呼吸困難や血圧低下で意識を失うことがあり、死に至るおそれもある。文科省によると、児童生徒の有病者数は全国で約2万人とされる。
記事を読んで、学校側に批判的な論調で書かれていることに気付きます。確かに、脱脂粉乳が入っていたことを見逃していたので、学校側が細心の注意で当たっていてくれたら、「誤食」は起きなかったはずです。
ただ、人間は残念ながらミスをしてしまうのが常で、注意をしていても、弁当の日に隣の子から乳を含む食材をもらって、つい食べてしまうかもしれません。こういう形で「誤食」が起きても、結局は管理責任を問われてしまうと思います。
どういうルートでマスコミに、今回の事故が漏れたのかは定かではありませんが、親御さんが学校側の対応に疑問を持ったのは確かでしょう。ただ、学校側と親御さんとの間で「注射する取り決めを保護者と交わしていない」ということなら、確かにアナフィラキシーショックとは言え、使いづらかったのは事実でしょう。
けれども、お子さんが重症な牛乳アレルギーを持っていることは分かっていて、しかもエピペンを預かっていました。しかも、単純ミスの「誤食」です。親御さんからすれば、ギリギリに駆けつけた母のエピペン投与により改善したため、学校側の対応が“適切ではない”と思われたのだろうと思います。
当院でもエピペンはかなり処方していますが、園児もいれば小学生、中学生もいます。エピペンを処方するのは、当然重症な食物アレルギーの患者さんです。中には、ずっと除去を続けていて、当院で「食物負荷試験」をやった結果としてアナフィラキシーを起こしてしまい、エピペンを持っていた方が良いと判断したケースもあります。
この場合は、これまでアレルゲンを食べておらず、症状が何も起きなかったため、気付かれなかった訳ですが、これまで何ともなかったからと言って、今後も「誤食」がないとは言えず、しかもアナフィラキシーを起こしてしまった事実は残るので、今後も注意が必要です。エピペンはいざという時に速やかに使えるように、念のために持っておいた方がいいと思っています。
エピペンは、いざという時に使えなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。今回ご紹介したケースでは、エピペンを使っても2日も入院したそうですから、重篤な症状だったと思います。もし、母がエピペンを打っておらず、時々話題になる救急車のたらい回しのようなことが起きていれば、死亡していたかもしれません。
やはり、エピペンを持っている以上、周囲の大人が使える知識を持っていなければならないのだと思います。アナフィラキシーショックの際は、エピペンなどの処置が30分以内に行なわれるべきとされます。親御さんの到着に時間がかかったり、救急搬送に時間がかかれば、タイムリミットを過ぎてしまうかもしれません。
つまり、園や学校での対処が重要になってきます。救急車がすぐに到着し、救急病院に速やかに搬送され、医師によりスピーディに治療がなされれば問題はありません。学校や園側はエピペンを打つという「医療行為」はできないし、する義務もないので、誤食があれば救急車を呼べばいい、と決めつけているところもあるようです。今回の学校の対応も、こういう思いがあったのかなと推測しています。
新聞記事にも書いてありますが、教職員がエピペンを打つことは、こういう緊急時には人道面が重視され、「医療行為」に当たらないとされます。まず、ここから理解していく必要があります。


