小児科 すこやかアレルギークリニック

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“思い込み”
2011年10月15日 更新

「仮性アレルゲン」という言葉があります。

卵や乳製品などを摂ると、それが体の中でアレルギー反応を起こし、結果として蕁麻疹や咳、腹痛などの症状が出るのが食物アレルギーです。これとは違い、食品そのものの中に既に“かゆみ物質”が含まれていて、それを食べて痒くなるのは、体の中でアレルギー反応は起きていませんから、食物アレルギーとは区別される病態です。

先日、当院を受診された患者さんのお母さんに「家族歴」を聞いた時のことです。アレルギーを診る上で、当然両親の影響は受けますので、聞き逃してはいけない情報のひとつです。

お父さんが、10年前に青身魚を食べて蕁麻疹が出たことがあるとおっしゃいます。それ以来、その魚はずっと食べていないそうです。「お父さんが食物アレルギーがあるのね」と思っていると、続けて不思議なことをおっしゃいます。

職場の同僚との食事会だったそうですが、10人ほどが同じ腹部症状が出たのだそうです。こういう状況を聞けば、一度に10人が魚アレルギーがあり、同時に発症するのも合点がいきません。普通の人なら食中毒を考えることでしょう。確かにそうかもしれません。

私が考えたのは、「仮性アレルゲン」です。

青身魚は、鮮度が落ちると仮性アレルゲンを起こしやすいと言われています。実は、青身魚はアレルギーを起こしやすいと思っている方は多いでしょうが、新鮮であればそうでもないと言われています。お母さんの話を聞いてピンときたのは、似た話を「すこやか健康フェア」にお越し頂いた柴田先生からお聞きしたことがあるからです。

その時に医療機関にかかったかどうか、かかったならどの医師からどういう説明をされたのかも確認してはいませんが、私は仮性アレルゲンが怪しいと疑っています。それにしても、お父さんは10年もその魚を食べていないというのも、もしかしたら“思い込み”なのだろうと考えています。

私は小児科医ですので、お子さんの診療をすればいいのですが、お節介の虫が騒ぎ、もしかしたらその魚を除去する必要がないのではないか?という話もしました。もし本当に“思い込み”なら、10年にも渡る除去はそれなりの労力だったと思っています。

もうひとつ、医師も患者さんもかなり“思い込み”が強いのは、卵アレルギー児に対するインフルエンザの予防接種でしょう。

未だに卵アレルギーのある旨を話しただけで、「うちでは打てないから」と断るケースも後を絶たず、悲しい思いをしています。患者さんは、その医師を信用して接種を希望しているのですから、自分が責任を持って接種できなければ、できそうなところに紹介するのが筋でしょうが、そこまでしている医師はほとんどいません。本当の意味で、良心的で面倒見のいい医師は少ないのが現実なんだろうと思います。

誤解して欲しくないのは、重症者でもすべて安全ですと言っている訳ではありません。卵白のアレルギー検査がクラス6だったり、卵製品でアナフィラキシーの既往がある場合は要注意と言われています。ただ、当院は他の小児科よりもかなり重症な卵アレルギーの患者さんを大勢診ています。これまでのところですが、全員に希望通り接種しています。

ですから、「卵アレルギーがあるとインフルエンザワクチンは打てない」という考えが独り歩きしているように感じています。残念ながら、医師の無責任な発言が絶えないのが大きいのだろうと思っています。

先日、卵アレルギーのお子さんに卵焼きの負荷試験を行ないました。無事に食べられることを確認し、「良かったね」と話をして、お母さんが帰ろうと一旦診察室を出られました。すぐに引き返してきて、「先生、うちの子、インフルエンザワクチンが打てますか?」と言われた時には、ちょっとビックリしました。

卵焼きを1個食べているので、卵アレルギーは卒業と言っていいはずです。もはや卵アレルギーとは言えず、そういう意味ではインフルエンザワクチンは、特に躊躇なく接種できるはずです。

多分、お母さんの中では、以前医師に言われた「卵アレルギーがあるとインフルエンザワクチンは打てない」という言葉がずっと脳裏を離れなかったのでしょう。過去の状況を聞いてみると、このお子さんは以前の状況でも、接種ができなかった訳ではないと考えています。医師の言葉は、かなり重く、響くのだろうと思っています。

とりあえず、2名の“思い込み”は取り除けたのかなと思っています。