食物アレルギーほど、医者の言うことが異なる分野はないと思っています。
同じ患者さんを診ても医師が違えば、「食べるな」と言われたり、「少しずつ食べててもいい」と言われる場合もあります。
ましてや「食べて治す」という考え方が出てきて、逆に専門医ほど対応に苦慮しているように思います。つまり、これまでは症状が出れば、除去するのが普通だったのですが、多少の症状なら“強行突破”じゃないですが、食べてもいいとも思えるし、いや、症状が出ているんだから止めておいた方がいいと思ったり…。要は、とても混乱しているということでしょう。
昨年秋に食物アレルギーのガイドラインが改訂され、2012年版が出ました。その前が2005年版でしたので、この頃は“食べて治す”という考え方があまり出ていなかったこともあり、経口減感作療法に関する記載はありませんでした。今回の2012年版には、経口減感作療法に対する小児アレルギー学会の態度が示されています。どう書いてあるかというと、現時点ではまだ研究段階で、治療としては推奨しないという趣旨が示されています。
テレビで「夢のような治療」と紹介されており、それなりにこの治療法の存在が広まってきているように思います。ただ、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」で、危険を覚悟で挑戦する必要があるということです。
確かに、アナフィラキシーショックを起こす可能性すらあります。本来、「治療」とはある程度は安全に受けるべきものです。食べないでおけば、何も起きないのです。食べないでおいて、時折誤食によってアナフィラキシーを起こす場合と、経口減感作療法をやってアナフィラキシーを起こす場合で、治療によってアナフィラキシーを起こす回数が多ければ、「治療」として認めにくいことになります。
ただし、微量のアレルゲンでアナフィラキシーショックを繰り返しているような重症な患者さんの場合、いつアナフィラキシーショックを起こすか分かりませんから、この経口減感作療法を受けておけば、ショック状態は避けることができることでしょう。こういう場合は、「あり」なのだと思います。
この経口減感作療法の最大の問題点は、「食べ続けなければならない」ことです。食べるのを止めてしまうと、元通りになってしまうことがあるのです。1月下旬にこんなニュースが報道されました。
http://www.asahi.com/health/news/TKY201201230646.html?ref=rss&utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
この報道によれば、治ったのは1~5割ということは、5~9割は治らないということになります。そもそも経口減感作療法は、まだメカニズムが解明されておらず、言い方は悪いですが、ある意味“中途半端”な治療と言えます。だんだん「夢のような」治療ではなくなってきた印象を持っています。
少し前の状況よりは“陰り”が見えてきているように思いますし、この治療に希望を感じていた患者さんがいらっしゃるかもしれませんが、ある程度は現実をみる必要があると思っています。「食べて治す」は注意が必要なのです。
個人的には、これまで話題の中心だった「急速法」(入院の上で、短期間で食べられるようになる方法)ではなく、「緩徐法」と言って、外来で少しずつ増やしていく方法に注目しています。急速法よりは、アナフィラキシーは起こしにくいと思います。
開業医の立場では、急速法は興味があっても手が出せなかったので、緩徐法をやりたいなと思っていました。私としては、小児アレルギー学会が緩徐法のマニュアルを作ってくれ、より安全に行なえるようになれば、実施したいと考えていました。
ただ、多くの専門病院が急速法に目が行っていて、この緩徐法が若干なおざりになっていた印象も拭えず、この方法の研究を進めて頂きたいと思っています。この緩徐法が完璧かどうかもよく分かっておらず、日頃から意識的に食べていなければ、効果が途絶えてしまうのかなど解明すべき点が多いのも事実でしょう。
経口減感作療法の急速法でアナフィラキシーを起こすケースもあり、その反省からアナフィラキシーを起こさないことの重要性が見直されるのだろうと思っています。そういう意味では、食物アレルギーの正しい診療に不可欠である「食物負荷試験」もアナフィラキシーを起こす確率はあります。
当院は、アナフィラキシーを起こしにくい、開業医でも実施しやすい負荷試験に取り組んでおり、昨日も触れたように、それを学会側から9月の小児アレルギー学会で発表するように指示がありました。
負荷試験の場合、アレルギー症状が出て、そこで初めて食べられる限界が分かるので、症状を起こしにくいことを優先した負荷試験をしようとすると、限界が漠然としてしまうデメリットがあります。ただし、これは重要なことですが、安全性は上回ります。
私の発表はちょうど半年先のことですが、この“矛盾”を秤にかけながら、どういう風に発表で話を進めていこうか悩みたいと思っています。


