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当たり前
2012年06月25日 更新

だいぶ前のことになりますが、ある医師が医師会に投稿した文章に、以前は医師が「お医者さま」と呼ばれていたが、近頃は患者を「患者さま」というようになった。“様(さま)変わり”だと書いていました。

「上手いこと言うな」と思いましたが、「確かに、いつのまにかそうなっている」とも思ったものです。以前は医師の“なすがまま”で、医師に言われたら従うしかない、というイメージでしたが、最近はインフォームドコンセントといって、患者さんに同意を得て医療を進めていくという、患者さんにとって望ましい方向に進んでいるように感じます。

そんな中で、アレルギーについてはすぐには治らない慢性疾患ですから、正しく診断して治療しないと、ぜんそくの場合の咳、アトピー性皮膚炎の場合の湿疹が改善しません。食物アレルギーも時代が変わり、除去していればそれでいいという訳ではなく、「必要最小限」の除去が推奨されています。

アレルギーが専門でない医師により、診断や指導が誤っているケースはかなり多く、まだまだ患者さんに優しい医療が普及しているとは思えません。患者さんが我慢を強いられている、しなくていい苦労をさせられている、と言えるのだろうと思います。ですから、私の役目は専門医と非専門医の実力の差を理解して頂き、多少遠くても専門医に一度かかってみた方がいいという事実を知って頂くことだと思っています。

上越の地に開業して、まもなく5年になろうとしています。地元の医療もかなり格差があることに気付きました。つまり、医師によって診断や指導が変わってしまうのです。そして思うのが、まだまだ「お医者さま」なんだなという印象を拭いきれません。

今はだいぶ下火になってきましたが、少し前まで胃腸炎が流行っていました。地元の感染症情報ではロタが多いなんて書いてありましたが、そんなことはありません。多くがロタではない胃腸炎で、一部の症状の強いお子さんを検査するとロタウィルスが検出されます。

ある親御さんが、某小児科にお子さんが胃腸炎症状を呈したため、連れていったそうです。周囲でロタウィルスが流行っていたため、しかも症状が強かったため、「ロタウィルスかどうか調べて下さい」と頼んだのだそうです。親御さんはお子さんのことが心配で心配で、ロタウィルスは強い病気で、脱水になりやすいとご存知だったようで、勇気を振り絞って言ってみたのだそうです。

私であれば、もちろん調べます。便を検体にしますので、あっという間に結果は出ます。ロタウィルスが出れば、脱水を起こしやすいので、対処等アドバイスができますし、逆に出なければ、親御さんに安心を与えることができます。造作もなく調べることができるので、断る理由もありません。

ところが、その小児科さんでは「原因なんかより治療が先でしょ」と怒られ、点滴をされたそうです。これが地元の「お医者さま」の体質を象徴している気がします。

いつも言うように、本当はぜんそくが隠れているのに咳が出れば、“風邪”と診断されていることが多いし、赤ちゃんの湿疹も、先入観からか“乳児湿疹”と診断されており、診断が間違っているので、治療できるはずもありません。そもそもその病気を診断できない医師は、詳しくないから診断できない訳で、治療ができるはずがないのです。

みていると、万事がこんな感じです。もちろん、真面目にやっている小児科の先生もいますが、言い方は悪いですが臭いものには蓋をしろ的に、診断をおろそかにして、症状を抑えようとされているケースをよく見かけます。

ロタウィルスは、高熱が続いたり、嘔吐や下痢がかなり頻回に出るため、相当脱水症状に至る可能性の高い病気です。まず、小児科であれば親御さんに安心を与えるように努力するのが小児科医の仕事です。ましてやロタウィルスが流行していて、ロタを心配されている訳ですから、調べない理由が分かりません。あるとしたら、検査して再度診察室に入ってもらい、説明する時間を省くためでしょうか?。

ロタウィルスは極めて感染力が強いため、いとも簡単にうつってしまいます。院内感染の予防のためにも、積極的に調べるべき病気です。逆に調べなければ、医院のスタッフの手を介して他児を感染させてしまうかもしれません。脱水を補う点滴を必要とするケースも多いため、院内の滞在時間も長くなります。より一層他の患者さんに迷惑をかけてしまうのです。

この患者さんは、結局症状が重く、医者を代えて、最終的にはロタウィルスであると確定されました。親御さんにとっては、後味の悪い受診だったのだろうと思います。

RSウィルスも、呼吸困難を起こし入院する可能性の高い病気なため、心配する親御さんも少なくないのですが、開業医が外来で調べると検査費用が医院の損になるため、調べて欲しい患者と、調べたくない医師という構図があるように感じています。

某医院さんで「RSウィルスでしょうか?」と聞いたら、私ならRSウィルスを十分疑うくらいの症状でも「一歳以上は大丈夫」という答だったそうです。当院では、2歳や3歳でも呼吸困難などで全身状態が悪化して入院を余儀なくされたお子さんもいます。根拠のない発言です。

他の小児科で、やはりRSウィルスの質問をしたら「こんな軽いRSはない」と言われたそうですが、RSウィルスは鼻風邪程度の軽いものが多いのです。一部の方が重症化し、呼吸困難に至るので、これもよく分からない説明です。

ロタは保険診療で賄われますが、RSウィルスは1歳以上は医院の持ち出しとなります。当院では、それでも病状を明らかにするために、自腹を切って積極的に調べています。診断をつけて、それに対し適切な治療を進めていくのが「医療」だと思っているし、それが(私は好きな言い方ではありませんが)「患者さま」への最大のサービスだと思っています。

4年前まで、地元の園長でさえRSウィルスの存在を知らない人もいました。先ほどのような調子で、ほとんど調べられてこなかったからでしょう。RSウィルスはもっと以前から、インフルエンザのように鼻水をもらうことで調べることができる迅速キットが存在していました。にもかかわらず、地元の認知度が低いのです。

医師が自分の都合を優先しては、地元の医療レベルは上がらないことになります。「お医者さま」的な医療をなくすために、アレルギー以外でも小児科医の日頃一番多く診ている感染症であっても、啓発活動をしていかなければならないと感じています。

今週末に、市内の保育園で子どもの感染症の講演をすることになっています。私のやっている姿勢に共感して、依頼されたのです。ちなみにこの園の園医は小児科医のようです。私は小児科医として“当たり前”のことをやっているだけなのですが、当たり前でないのだとしたら、“当たり前”を広げなければいけないと思っています。