食物アレルギーの怖いところは、アナフィラキシーショックという生命の危機的な状況に陥ってしまう可能性があることです。
医師からそんな可能性を言われると、怖くなって必死に卵や乳製品を除去している患者さんも多いと思います。しかし、過剰な除去は、成長や発達に大事な小児期において無用の長物と言えましょう。
多くの医師が、何も起きないから“良いことをしている”と思っているのでしょうが、食べられるものを「食べられない」と指導していることも多く、患者さんにとって“良いことをしている”のではなく、混乱させたり、迷惑をかけていることの方が多いと思います。
アレルギー専門医であれば、プロとして患者さんに混乱や迷惑を掛けるはプライドが許しません。ですから、アナフィラキシーのリスクを背負ってでも「食物負荷試験」を行なって、食べられるものは食べさせてあげるよう努力しているのです。
先日、ナンの付いたシーフードカレーを食べてから、ランニングをし、その途中でアナフィラキシー症状を起こした大人の患者さんからメールを頂きました。状況からすると、茶のしずく石けんで有名になった食物依存性運動誘発アナフィラキシーのようです。ちなみに茶のしずく石けんは使っていませんでした。
アレルゲンは小麦が60%を占めるほど圧倒的に多く、甲殻類と続きます。ナンを食べていますので、小麦が原因の可能性が高く、次いでシーフードカレーの中に入っていたエビやアサリの可能性を考えたいところです。小麦が原因の場合は、アレルギー検査をしても小麦が陽性でないこともありますが、小麦の成分であるω-5グリアジンが検査することができ、これが陽性であれば、ほぼ確定だろうと思っていました。
ところが、ω-5グリアジンは陰性でした。検査が陰性のこともあるでしょうが、正直当てが外れてしまいました(汗)。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーであれば、小麦が原因なら小麦を食べたら、その後2時間くらいは運動は避ける、もしくは運動する予定があれば、その前に小麦は食べないという対応が必要です。治りづらい病気と考えられており、もし小麦が原因なら、小麦はうどんやパスタ、パンなど主食として用いられる食材のため、よく口にします。小麦が原因であると、ハッキリさせる必要があります。逆に、それがうやむやになっていると、患者さんのその後の人生は大変なものになってしまうと思われます。
食物アレルギーの診療に「食物負荷試験」は欠かせないといつも強調しています。実は、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの場合も、食材を食べて運動してもらい、アナフィラキシーを起こすかどうか確認しなければならないのです。
食物アレルギーの負荷試験の場合は、アレルギー検査の数値が高いだけで、アナフィラキシーを起こすことも少ないので、食べても何ともないことが多いのです。食物依存性運動誘発アナフィラキシーの場合は、アナフィラキシーショックを起こすこともあり、実際にこの患者さんもランニングの途中にアナフィラキシー症状を起こしています。開業医である私のところで負荷試験をやるには、リスクが高いのです。
かと言って、近隣の病院で負荷試験をやってくれる施設があるかと言えば、新潟県ではほとんどないと思われます。小麦が原因でないのに、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因の6割が小麦が原因であるという確率論で、今回のアナフィラキシーの原因を小麦であると決めつける訳にはいかず、そうしてしまえば患者さんの将来に多大な迷惑をかけてしまうことになります。ましてや、患者さんの趣味はマラソンであり、私の無責任な一言で、趣味を楽しめなくしてしまう可能性が高いのです。
正直、ちょっと迷いましたが、禁断の負荷試験を実施する決意を固めました。負荷の方法は、私のよく言うガイドラインに記載されています。運動負荷については、ぜんそくによく見られる「運動誘発ぜんそく」の検査は福岡の研修時代に何度もやったことがあるため、私の決断さえあれば実施は可能と考えました。
幸いというか、運動不足解消のために買ってあったベルトコンベアーの上を走るタイプや自転車をこぐタイプの運動器具は既に持っていたため、それを用いれば、何とか運動負荷をかけることができます。
ある日の午前中の診療の合間に行なうことにしました。その間は外来は中断です。それも致し方ありません。アナフィラキシーを起こしたら、すぐさま治療に取りかからなければなりません。
小麦としてパスタを食べて頂き、運動負荷をかけましたが、何も起きませんでした。実は食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、運動負荷をかけても症状が再現されるとは限らないと言われています。そんな時に備えて、ガイドラインではアスピリンを飲むことを推奨しています。よりアナフィラキシーが誘発されやすくなると言われています。
アスピリンを飲んで頂き、再度、運動負荷をかけることにしました。私も患者さんのために必死です。アレルギー症状が出たら、すぐに運動を止めて、アナフィラキシーの対応をしようと身構えつつ、患者さんの脇で待機していました。
ところが、何も起きませんでした。雨模様の天気が晴れ間さえ見えるようになったので、実際に追加で外も走って頂きました。付きっきりでしたが、何も起きませんでした。もしかしたら、小麦が原因ではないということを表しているのかもしれません。
何かあれば、全て私の身に降り掛かってきますが、患者さんのためにベストを尽くすためには、ここまでやらなければならないと思ったのです。ここまでやる開業医はほとんどいないでしょう。寿命が縮まる検査と言えるかもしれず、私もしょっちゅうやりたい検査ではありません(汗)。
自分の身を守ることを優先していたら、患者さんの健康なんて預かれないのです。小麦でないとしたら、何が原因か?ということになりますが、乗りかけた舟とも言えるため、知識と気力を振り絞り、何とか原因追及したいと思っています。
週末は、間近に迫った栄養士会の講演の準備もありますが、日本小児皮膚科学会があるため、土曜の診療が終わってからになりますが、参加して勉強してこようと思っています。


