私の診ている患者さんで、クループで怖い経験をされた方がいます。
クループとは、のどの奥が腫れて狭くなり、呼吸困難をきたす病気です。ケンケンという犬の吠えるような咳が出て、声も枯れる程度で済めばまだしも、本当に呼吸困難を来たし、緊急入院をしたこともあります。死に至るケースもあるので、怖かっただろうと思います。
その患者さんが、熱が出て、クループ症状を来して、最近受診されました。幸い、呼吸困難は強くはなく、熱が下がれば、峠も越えるだろうと思っていました。
ところが、熱が下がりません。当院の場合、熱が続けばCRPと呼ばれる炎症反応の検査を採血で調べさせてもらっています。大まかには、高ければ高いほどばい菌が悪さをしていて、低ければ低いほどウィルスが悪さをしていると考えます。
結果はウィルスを思わせるものでした。であれば、基本は待つしかありません。ウィルスに関する特効薬は、インフルエンザと水痘くらいしかなく、いずれも否定的なので、“待つしかない”のです。
とは言え、熱が4、5日も続くと親御さんも心配だし、ましてやクループが更に悪化して呼吸困難を起こしたらどうしようと、夜もおちおち眠れなくなると思います。日頃から主治医として診ている私も不安は隠せません。
いま、高熱が続く病気といえば、地元ではヒトメタニューモウィルスを考えなければなりません。ヒトメタニューモウィルスは最近検査キットが発売されて、調べられるようになりました。鼻水をもらい、それを検体として検査するので、そうインフルエンザの検査と同じ手法で数分で結果が出るのです。
私の予想通り、周囲の医院ではほとんど調べられていないようです。なぜなら、6歳以下で、しかも肺炎を起こしやすいため、胸のレントゲンを撮っていないと、保険請求ができないことになっています。要するに、医療費が高騰しているため、“しばり”を設けている訳です。
当院の場合、こういうケースでは「武士は食わねど高楊枝」というスタンスを取っています。患者さんの信頼に応えるために、自腹を切ってでも調べるようにしています。
過去にもこういうケースで何度も調べているので、逆に「ヒトメタの可能性が高い」と考えました。調べてみると、予想通りヒトメタニューモウィルスが出ました。
お母さんも最初は「何ですか、それ?」って感じでしたが、上越で流行っている熱の続く感染症と聞いて、ホッとされたようです。
ここで、原因が分かった訳ですが、残念ながらRSウィルスなどと同じように、ヒトメタには特効薬がないため、治療には結びつけられないのです。
先日、ある医院から患者さんが逃げてきて、その先生に「ヒトメタを調べてください」と勇気を出して言ったそうです。そうしたら「調べても意味がない」と返されたそうです。
それを聞いて、私は「分かってないな~」と思いました。確かに、ヒトメタニューモウィルスが陽性に出ても、治療には結びつきません。しかし、通っている園でもらってきた可能性も十分ある訳です。感染力が強く、熱が5日以上も下がらないこともよくあります。
先日、別の園に通うお子さんが高熱が続き、当院を受診されました。聞けば、熱が続き、咳のひどいお子さんが何人もいるそうです。その子も検査によりヒトメタニューモウィルスであることが判明しました。
ちなみに、その園ではヒトメタニューモウィルスがいるとは全く把握されていませんでした。症状とヒトメタの感染力から考えると、ヒトメタニューモウィルスの可能性が極めて高いと思われます。そういった症状のお子さんを他院で診ても、「調べても意味がない」とばかりに調べないから、園で流行していることを把握できていなかったものと思われます。
正直言って、こんなことがあるから園の「感染症情報」って当てにできないと思っています。医師の都合で、どうにでも変わってしまいます。
冒頭のクループの患者さんですが、熱がスッキリさがるのに8、9日かかったそうです。幸いクループによる呼吸困難はみられず、比較的元気もよかったため、1週間以上も熱が下がらなかったのですが、何とか乗り切れました。
それもこれも、「敵がヒトメタニューモウィルスである」ことが分かっていたから、乗り切れたのだろうと思っています。もし原因が分かっていなければ、より不安が募り、「入院させて下さい」となったかもしれません。
特効薬がなくても、私がヒトメタニューモウィルスを調べたことで、親御さんと二人三脚で乗り切れたと思っています。医院としては、保険請求はできないかもしれませんが、それ以上の価値を見出しています。親御さんの期待にも、それなりに応えられたのだろうと思っています。
ここで「調べても意味がない」という発言を検証してみたいと思います。
これをお読みの親御さんは、調べる意味が大きいことをご理解頂けると思っています。親御さんに「敵」を認識してもらえる、熱がしばらく下がらないことを把握してもらえる、園側にもヒトメタが流行していると警鐘を鳴らすことができるなどなど、デメリット(保険請求ができない)を上回るメリットが得られています。
そもそも「調べても意味がない」というのは、医師側の都合であることが分かります。中には「損するくらいなら調べたくない」というけしからん医師もいるのだろうと思います。
周囲の医療機関の感染症情報をみても、ヒトメタに全く触れていない、もしくは「ヒトメタがいるようです」なんて曖昧なことを言っている医師もいます。いい加減なもので、「キチンと自分で調べてみたら」と思っています。
調べていない小児科医には分からないでしょうが、園にも通っていないような乳児でさえもヒトメタが結構出ています。上越ではかなり蔓延していると思っています。医師は自分の都合だけ考えているケースも少なくなく、もっと患者さんに寄り添うためには、「武士は食わねど高楊枝」を貫かなければならないこともあると思います。
患者さんもこういうものを参考にしているでしょうから、小児科医ならもっと正しい情報を提供すべきでしょう。地元の患者さんを守るためには、心苦しいながらも、こういう裏の事情にも触れなければならないのです。
多くの小児科医が食物アレルギーの患者さんに「食物負荷試験」の話をしていない訳ですが、こんなノリなのかもしれません。


