アレルギーもそうですが、感染症でも「診断」は大切です。
診断を間違えれば、治療や指導も間違います。小児科の場合は、ちょっとしたことなら間違っても何も責任を問われません。だからといって、間違っていい訳ではないと思っています。
先日、顎の右側が腫れたお子さんが当院を受診されました。市内ではおたふく風邪が流行っています。ちなみに、そのお子さんの通園している園でもおたふく風邪が流行っているそうです。
ある小児科さんを受診し、おたふく風邪と診断されたそうです。翌々日、血液中のアミラーゼを測定されたようですが、それが上昇していないことを理由に「おたふく風邪ではない」と診断を撤回されたそうです。
おたふく風邪は、医学用語で「流行性耳下腺炎」と言います。文字通り、耳の下に「耳下腺」という消化酵素のアミラーゼを分泌する腺があり、そこが腫れるのです。おたふく風邪ウィルスによって、耳下腺に炎症が起こると、アミラーゼが余計に血中に漏れ出るため、一般的には「アミラーゼが上昇」=「耳下腺の炎症」と考えてよいと言われています。あくまで“耳下腺”であって、耳下腺が炎症を起こすのは、おたふく風邪とは限りません。
ちなみに、耳下腺からあごを結ぶ線のほぼ真ん中に「顎下腺」があり、そこもおたふく風邪の時には腫れます。両方の耳下からあごにかけて立派に腫れることが多いのです。先日、来られたお母さんは、「首周りがマツコデラックスみたいだった」と例えていて、「なるほどな」と思いました。
私が診察したところ、右側の顎下腺が明らかに腫れていました。小児科医になって約20年になります。だいたい耳下腺が腫れると思っていたのですが、少し前に変わったケースに遭遇しました。片方の顎下腺しか腫れなかったお子さんを経験したのです。通常は、左右のどちらかが腫れはじめ、後に反対側が腫れることが多いのですが、この患者さんは「耳下腺」は腫れず、片方の「顎下腺」のみでした。
今回の患者さんの場合も、右の顎下腺のみでした。確かにアミラーゼが上がらないということは、耳下腺や顎下腺の炎症ではない可能性もあります。しかし、誰が見ても分かるくらい腫れていますし、首で明らかに腫れるものと言えば、顎下腺とリンパ節くらいですが、一般に触れるリンパ節よりは明らかに大きいのです。川崎病や化膿性リンパ節炎などで巨大なリンパ節を触れることもありますが、熱はないし、まぎれもなく顎下腺の位置にそのしこりは触れるのです。アミラーゼの上昇が遅れているだけかもしれないのです。
それだけで「おたふく風邪ではない」という理論は乱暴だと思います。ちょっとツッコませて頂きますが、その医師が言う通り、おたふく風邪ではないことにしましょう。そのお子さんは、右あごに大きなしこりがあるのです。「だったらそれは何なの?」ってことになりませんか?。
おたふく風邪であれば、特効薬もありませんので様子を見ているだけで約1週間で何事もなく治ってしまうことが多いのです。熱はないのですが、他のあごが腫れる病気を考えて診断しないといけないし、子どもではまずないことですが、悪性腫瘍の可能性だってゼロとは言えないのです。
前医では、エコーで調べてみたようです。当院にはエコーはないし、あまり詳しくないのですが、顎下腺とリンパ節の違いくらいは分かるはずです。しかし、そのしこりが何なのかは一切説明なし。大切なことなのに医師の口からでなく、スタッフからさらっと“よく分からない”説明があったのみと聞いています。エコーって結構、医療費が高いんですよね。お金がかかっていて、何も解決していないことに気付かなければなりません。
親御さんは医師に任せるだけでなく、大切なお子さんを守るために「だったら何という病気なんですか?」と医師に問いつめないといけないと思います。血液検査でアミラーゼが高くないから、おたふく風邪の可能性は低いという判断なら研修医レベルの対応です。
私は、患者さんが医者を育てると思っています。同じ病名でも患者さんによって熱の経過や症状、治り方は異なることが多い。医師は医学的な知識は持っていますが、患者さんによって学ばせてもらっていると言えるでしょう。今回のケースでも、親御さんに「じゃあ、このしこりは何だと思いますか?と疑問に思いませんでしたか」と尋ねてみると「そう言われると、そうですね…」という反応でした。
逆に、エコーまでした訳ですから、エコーを持っていない当院よりは、腫れているのはリンパ節なのか、顎下腺なのか分かるはずですし、リンパ節だとしたら、どんな病気が考えられるか、顎下腺だとしたらどういう病気になるのか、考えてくれるはずです。小児科の場合は、最悪のケースも考え、悪性腫瘍も当然頭に入っていなければならないはずです。それが「おたふく風邪ではなかった。もう来なくていい。」では、対応としてはマズいと思っています。
親御さんは、お子さんを守らないといけない立場にありますから、もっと医師を質問攻めにあわせるべきでしょう。今回に限らず、それが医師を育てると思っています。開業医では検査に限界があるのなら、総合病院に紹介状を書いてもらなわないといけません。というか、それは開業医の方から言うべきことなのだろうと、私は思います。
ちなみに、私のこれまでの経験上、顎下腺が腫れるのはおたふく風邪しか経験がなかったので、流行状況を考え、アミラーゼが上がらない理由はよく分かりませんが、おたふく風邪が一番考えやすいと思いました。
診断を確定するには、抗体を調べる必要があります。おたふく風邪の抗体が上昇していれば、おたふく風邪と診断が確定できます。「おたふく風邪ではない」と診断され、隔離を解除されていましたが、検査結果が出るまでの数日間、申し訳ないですが園を休んで頂くことにしました。疑わしいのですから、悪い方の可能性を考えて対応せざるを得ないのです。おたふく風邪は飛沫感染ですから、接した子ども達はどんどん感染してしまいます。
検査会社に至急で検査を出したところ、おたふく風邪の抗体が上がりかけの状態でした。やはり、おたふく風邪と診断して良いようです。この時点で、悪性腫瘍も含め、他の病気は否定されたと言っていいでしょう。お母さんもやれやれだと思います。一時おたふく風邪でないと言われ、隔離を解除されていたため、その間接触したお子さん達が潜伏期間後に発症する可能性もあります。
私も完全な人間ではないため、ミスも犯します。ただ小児科の場合は、特に開業医のレベルでは命に関わることは少ないと思います。命に関わらなくても、ミスを減らす努力はすべきです。アミラーゼが上がっていないから、「おたふく風邪ではない」と判断する気持ちは分からなくもありませんが、「だったら何だろう?」という気持ちを持っていないと、大きなものを見逃す可能性が高まります。
先日も述べた通り、今年の秋はぜんそくの調子の悪い患者さんがとても多いのです。当院を初診される患者さんの中には、1ヶ月以上も咳の止まらない患者さんも含まれます。常識的に考えて、1ヶ月も咳の止まらない“風邪”なんてあるでしょうか?。当院で、ぜんそくと診断し、治療すると数日で症状は改善します。
申し訳ないですが、「医師には実力の差があるんですよ」と言わせて頂いています。常に「だったら何だろう?」という気持ちがないと、失敗を繰り返してしまうことになります。当院は待ち時間は長い方だと思いますが、「だったら何だろう?」と考え、自分の考えを説明していると、時間はかからないはずはありません。
医師の実力が同じなら、当然患者さんは待ち時間が少ない方へ流れます。待ち時間を短くする努力はしていますが、いまの私のやり方は変えられません。最初は近くの小児科や内科にかかって、良くならないと当院を頼って下さる患者さんも少なくありません。尚更時間はかかります。
先程、医師の実力の差うんぬんという話をしましたが、「いかに治したいと思うか」という気持ちの差という方が適切な表現かもしれません。治すためには、診断が間違っていれば意味がなく、ある病気を想定して検査をして、それが否定された場合、「だったら何だろう?」と考えることで、診断に近づくと思っています。その気持ちを持ちつづけることが、小児科医として最も大切なことだと思っています。


